第3戦中国GP「スポーツとしてのF1」【F1 2011 続報】
2011.04.18 自動車ニュース【F1 2011 続報】第3戦中国GP「スポーツとしてのF1」
2011年4月17日、上海インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第3戦中国GP。土曜日の予選が終わると、誰もがポールシッター、セバスチャン・ベッテルの3連勝を予想したに違いなかったが、ベッテルはルイス・ハミルトンに“コース上で”敗れた。逆転劇の背景には、2011年シーズンにレースを面白くするよう採用された「新たな試み」があった。
■ルールメーカーの狙い、的中
2011年、F1は近年激減しているレース中のオーバーテイクシーンを復活させることに挑戦している。前車を追い抜きやすくする可変リアウイングこと「DRS」、ブレーキング時のエネルギーを使い電気的なパワーブーストを得る「KERS」、そしてわざと扱いづらい性格を持たせ予想だにしなかったリザルトをもたらすことを狙った新しいピレリタイヤは、抜きつ抜かれつを演出し、レースをよりエキサイティングにするための工夫なのである。
このような試みに対し、否定的な意見を口にするひともいる。本来ならばドライバーやマシンの優劣、チームの戦術により勝敗が決まるべきところを、人工的に追い抜きしやすい環境をつくりだし、興行的な魅力を増そうとしている。それは果たして“スポーツとして面白い”と言えるのだろうか? という考えだ。
例えばサッカーなら、点差が2点以上あるゲームで残り10分となったら、負けているチームは上下左右が1メートルずつ伸びたゴールにシュートできる、というルールを設けたとしよう。それまで2-0で負けていたチームが、最後の10分で劇的な逆転勝利を手に入れることができた。そんな試合に、観るものは果たしてどれだけ盛り上がれるのだろうか?
この話は荒唐無稽(むけい)に過ぎるが、F1は、自動車という機械で戦う複雑な競技ゆえに、時としてスポーツの本質的な部分が見えづらくなることがあるのだ。
DRS、KERS、そしてタイヤ。これらF1をよくするためのチャレンジの効果は、開幕戦オーストラリアではいまいちはっきりせず、第2戦マレーシアではセバスチャン・ベッテルの2連勝の陰に隠れてしまった。そして今年3戦目の中国で、ようやく顕在化した。
タイヤをめぐり、2ストップで走りきろうとするものと、フレッシュなタイヤでタイムを稼ぎ3ストップで上位を狙おうとするものが現れ、最後の最後までどちらが正解かがわからない展開となった。
コース各所ではオーバーテイクが頻発し、56周レースが残り5周となった時、なんとトップを走るレッドブルのベッテル(2ストップ)を、マクラーレンのルイス・ハミルトン(3ストップ)が追い抜くという逆転劇まで見られた。ピットインのタイミングではなく、コース上の丁々発止でリーダーが変わったのは、実に久しぶりのことではないだろうか。
そして予選18位と絶望的なポジションからスタートしたベッテルの僚友、マーク・ウェバーは、3ストップの最初のスティントをライバルとは違うハードタイヤで走り、終盤にライフは短いがペースは速いソフトタイヤを温存。結果、最後のスティントでは他車より2秒も速い周回で次々と前車をパスし、ついには3位表彰台まで挽回(ばんかい)してみせたのだ。
なんとエキサイティングなレースだったことか。ルールメーカーの狙いは、少なくともここ中国では、見事に的中したのである。
■3連続ポールシッターのベッテル、スタート失敗
金曜日、土曜日の3回のフリー走行から予選に至るまで、全セッションでトップタイムをマークしたのがベッテルだった。特にトップ10グリッドを決める予選Q3は圧巻で、早々に1分33秒706というタイムでトップに立ち、以降誰にもその座を脅かされることはなく、3戦連続のポールポジションを手に入れた。2位につけたジェンソン・バトンのマクラーレンは0.7秒も後方。この時点で、ベッテルには余裕すら感じられた。
その余裕は、決勝スタートで早くも揺らぐことになる。シグナルが消えると緩慢に動き出したポールシッターのベッテルに、マクラーレンの2台が襲いかかった。2番グリッドのバトン、3番グリッドのハミルトンに次々とかわされたベッテルは、あやうく予選4位のニコ・ロズベルグにもポジションを奪われそうになるが、何とか踏みとどまった。
レース後、レッドブルのボス、クリスチャン・ホーナーは、ベッテルがスタートで失敗した時点で2ストップ作戦に決めたと語っている。「もし彼ら(マクラーレン)の後ろで3ストップをやっても、彼ら2人の後ろに居続けるだけだったはず」という理由からだ。
レース序盤は、1位バトン、2位ハミルトン、3位ベッテルのトップ3が2秒以内の僅差で周回を重ね、4位ニコ・ロズベルグ、5位フェリッペ・マッサ、6位フェルナンド・アロンソら第2集団を引き離しにかかった。
冬のテストから不調続きのメルセデスは、大きなアップデートがないにもかかわらず、ロズベルグの力走で上向き傾向。4位走行中の12周目、早めにタイヤを交換すると、コースの空きとフレッシュタイヤを活用し、各車最初のピットストップを終えるとメルセデスがトップに立っていた。
その間、上位3台には若干の混乱が起きていた。14周目、タイヤがきつくなったハミルトンにベッテルがDRSを発動させ、レッドブルが2位の座を奪うことに成功。この直後に1位バトンと2位ベッテルが同時にピットへと飛び込むのだが、ここでバトンは間違えてレッドブルのクルーの前にマシンを止めてしまい、ベッテルとともに若干のタイムロス。しかもベッテルに先行を許してしまった。
■2ストップか、3ストップか
上位陣が最初のピットストップを終えると、首位はロズベルグ、2位ベッテル、3位バトン、4位マッサ、5位ハミルトンというオーダー。レースが中盤を迎えると、いよいよ各人のタイヤに対する考え方が表れだした。
バトン25周目、ロズベルグとハミルトンは26周目に2回目のピットストップを実施。彼らはスタートから一貫してソフトタイヤを履き続けており、装着が義務づけられる別コンパウンド(=ハード)の使用を残していた。つまり、もう1回止まるのだ。
一方ベッテルは、ロズベルグがピットに入ると、2回目のタイヤ交換を引き延ばしているマッサを従え1位に返り咲いた。32周目、1位ベッテルがピットインし、ソフトタイヤからハードに交換。その2周後にマッサがやはりソフトからハードに履き替えた。彼らは2ストップをとったことが明らかになった。
34周目のトップ3は、1位ロズベルグ、1.7秒後方に2位バトン、その0.8秒後ろに3位ハミルトン。36周目、ハミルトンがバトンに襲いかかり2位にポジションアップを果たすと、その勢いに乗り3度目のピットストップ後、42周目には前のロズベルグをもかわした。
次にハミルトンが狙うのは、3度目のストップで先行された2ストッパーの1位ベッテルと2位マッサ。新しいタイヤのメリットを生かし、残り12周という時点でマッサを料理すると、照準はレッドブルの1台に定められた。ハミルトンは、DRSが使える長いバックストレートで何度か仕掛けるが、ベッテルの巧みなディフェンスにあい抜けない。違うアプローチの必要性を感じたハミルトンは、52周目、高速7コーナーでベッテルのインを刺し、ついにトップとなった。
■18位から表彰台、ウェバー
今回のベッテルの2位フィニッシュは、例え開幕から2連勝し、3戦目の予選でぶっちぎりの最速タイムを叩き出したとしても、ウィナーになるとは限らないということを示した。そして、例え予選Q1で敗退し、18番グリッドからスタートしても、表彰台は夢じゃないということも実証した。もちろん、速いマシンとドライバーがなせる技なのだが……。
ウェバーは予選直前のフリー走行で電気系トラブルによりKERSを使えず、さらに予選Q1ではハードタイヤでのアタックに失敗。9列目からの厳しいレースとなった。最初のスティントからハードを履き、序盤は10位台でくすぶっていたが、3度のピットストップと、最後のフレッシュなソフトタイヤをうまく使い、レース前のチームのターゲットである4位ゴールを上回る上出来なリザルトをつかんだ。
今季、若きチームメイトの活躍の陰に隠れていた34歳のベテランは、安堵(あんど)の表情を浮かべ、記者会見に臨んでいた。なぜ自分の方にトラブルが起き、ガレージの隣のチームメイトだけが光を浴びているのか――失いかけた自信を、自らの力で取り戻した男の顔のようにみえた。
それを見て、F1はやはりスポーツなのだと思い知らされた。マシンがどうあれ、ルールがどうあれ、戦う人間たちにドラマがあり、栄冠は厳しい競争を勝ち抜いたものにわたる。F1の最大の魅力は、そこにあるのではないだろうか。
次戦は3週間のインターバルを置いた5月8日、トルコGPだ。
(文=bg)
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