ハイブリッドの好敵手! 「アルトゥーラ」と「296GTB」に見るスーパーカーの近未来
2021.07.05 デイリーコラム足並みがそろってる?
フェラーリとマクラーレンという、今やF1界のみならずロードカー界でもライバルとなったブランドが相次いでプラグインハイブリッドのスーパーカーをデビューさせた。2021年2月17日に発表されたのが「マクラーレン・アルトゥーラ」、そしてつい先だって、同年6月24日には「フェラーリ296GTB」が登場している。
面白いことに両車のハイブリッドパワートレインは一見、とてもよく似ている。大枠で言えばともに、「3リッターの120度V6ツインターボ+8DCTに1つの電気モーターとバッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドシステム搭載の2シーターミドシップ後輪駆動スーパーカー」(=A)である。
とはいえ冷静に見て似ているのは「最高のパフォーマンスを目指した時に必須となる基本エレメント」のみだ。つまり、上記Aに関して言えば、(V8ミドシップのスーパーカーに代わりうるPHVのミドシップスーパーカーをつくろうと思ったなら)誰もがそこから走り出すスタートラインのようなものだと思ってもらえばいい。後々明らかにしていきたいけれども、そこから先の技術的表現にこそそれぞれのブランドの個性や哲学が垣間見えて、そちらのほうがずっと面白いことが分かるだろう。
スーパーカーブランドによるハイブリッド化の兆しは2000年代後半に始まった。もちろん研究開発はそれ以前から行われてきたが、具体的な盛り上がりをみせたのはフォーミュラ1がKERS(カーズ)を採用した2009年以降である。
2010年春には早くもフェラーリがハイブリッドシステムを積んだプロトタイプの「599 HY-KERS(ハイカーズ)」を登場させている。これはEV走行も可能な12気筒のハイブリッドモデルだった。
一方、2010年に心機一転、“マクラーレン・オートモーティブ”としてロードカーシーンに復活したマクラーレンだったが、その数年前、つまり「MP4-12C」の開発当初から積極的にハイブリッド関連の技術者を採用しており、こちらもハイブリッドモデルの登場がずっと取り沙汰されていたのだ。
そして2013年春には両ブランドがそろってハイブリッドシステムを積んだ限定ハイパーカー、「ラ フェラーリ」と「P1」を発表する。世界最高峰ブランドが限定モデルとはいえフラッグシップにモーター+バッテリーを積んだことで、スーパーカー界の電動化への道筋がはっきりと示されたといっていい。
もっとも、量産スーパーカー界において真にハイブリッド化の先陣を切ったのはわれらがホンダだった。アメリカ生産の2代目「NSX」もまた、バンク角こそ75度ながらV6ツインターボに前後計3つのモーターを加えたハイブリッドスーパーカーであることを忘れてはならない。そしてそのコンセプトモデルのデビューが2012年初頭であったことも!
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似ているなかにも違いはある
いささか前置きが長くなってしまった。本稿のメインテーマは時を同じくして誕生したハイブリッドスーパーカー、“アルトゥーラ対296GTB”から遠望するスーパーカーの近未来である。
まず、先にお約束した通り、この2台のそれぞれの個性について簡単に説明しておこう。まずはマクラーレンだ。ご存じのように彼らはカーボンファイバーシャシー以外のロードカーをつくったことがない。アルトゥーラもまた重いバッテリー搭載を考慮した最新のCFRPモノコックボディーを採用した。重心位置をできるだけ低く中央に寄せるパッケージがマクラーレンロードカー最大の特徴である。
結果、容量7.4kWhのバッテリーと最高出力95PSの電気モーターを積んでいるにもかかわらず、車両乾燥重量は1395kgと、「720S」比で+110kg、「570S」比では+80kgにおさまっている。
そして新開発のV6エンジンははっきりとロングストローク(ボア84mm×ストローク90mm)だ。車体の軽さを生かして瞬発力を重視、ということだ。
対する296GTBはどうか。ボディー骨格はアルミスペースフレーム。得意であるはずのカーボンをあえて量産ロードカーには使わない。アルミ技術の進化や拡張性などメリットも多い。重くなるぶんはモーター出力でカバーしようと考えている節があって、その昔、599ハイカーズ開発の際も「重量1kg増しにつきモーター1PS以上アップが目標」と聞いたことがある。実際、296GTBにおいても「F8トリブート」比でおよそ140kg重くなっているが、モーターの最高出力はアルトゥーラのほぼ倍、167PSとした。ちなみにバッテリー容量はアルトゥーラとほぼ同じ7.45kWhである。
296GTBに搭載されたV6エンジンは、アルトゥーラ用とは打って変わってショートストローク(ボア88mm×ストローク82mm)。このサイズは「SF90ストラダーレ」のV8と同じ、もっと言うと「マセラティMC20」用の3リッター90度V6ネットゥーノとも同じだ。開発陣の間では「ピッコロV12」と呼ばれていたらしく、8500rpmまで許容するエンジンのサウンドにも期待したい。また低回転域では大出力モーターでトルクを補えるという算段だろう。
296GTBにおいてパワートレインやエアロダイナミクスのほかに最も注目されるべきは、既存のV8モデルよりも50mm、ホイールベースを短くしたこと。V6搭載のメリットを生かしたパッケージで、それこそザ・ハンドリングマシンといわれた「ディーノ」のコンセプトはここに復活したといえそうだ。
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いわば電動化の伝道師
両車とも、最新のテクノロジーを駆使して磨き上げたエアロダイナミクス処理を随所にちりばめた。それがスタイリングの個性となって現れている。以前のようなこれみよがしなデバイスに頼っていない点も、未来のスーパーカースタイルを感じさせる。いや、プレ空力時代へと先祖帰りしたというべきか。
パフィーマンススペックを見れば、296GTBに軍配が上がる。けれどもこれはおそらく、ブランドラインナップにおける位置づけ、つまりは開発スタート時点におけるグレードターゲットの違いではないだろうか。つまり、アルトゥーラは570Sの、296GTBはF8のポテンシャル進化を狙った、と。もっとも、それぞれの後継モデルではなく新たなシリーズであるとメーカー側は主張しているのだが。
これら2モデルは、スーパーカー界の頂点に位置する2ブランドの今後、主力を担うことになる。つまり既存モデルのパフォーマンスをハイブリッドモデルで大幅に超えていくことで、電動化への確かな道筋としたいというわけだ。さらにエンジンの楽しみを社会が許すギリギリまで活用したい、それもできるだけ効率的に、というそれぞれの思惑も透けて見える。
両ブランドともこの先数年以内にロードカーの全車ハイブリッド化は確実で、2025年以降にはフルEVの登場も期待できそうだ(他のハイエンドブランドも同じ)。ハイブリッドモデルを順次投入し、バッテリー駆動性能のアピールを増やしていくことで、カスタマー側のクルマに対する思いの重心を確実に電動パワートレインへと移していこうというわけである。
そして、さらなる電動パワートレイン時代がやってきた時に、最も重要になってくるのは、最新のエアロダイナミクスをフルに活用し、ブランドの実績や伝統、歴史を物語るような美しいスタイリングを表現し続けることであろう。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ、マクラーレン・オートモーティブ/編集=関 顕也)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。