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フェラーリ296GTB(MR/8AT)

技術は人を幸せにする 2022.09.13 試乗記 今尾 直樹 電気と内燃機関(ICE)の協調により、新時代のスーパースポーツの在り方を体現した「フェラーリ296GTB」。マラネロが手がけたプラグインハイブリッド車(PHEV)のベルリネッタは、日本の道でどのような表情を見せるのか? 技術革新によって生まれた、新しい跳ね馬の走りを報告する。

フェラーリが提唱する“FUN TO DRIVE”の再定義

2021年6月に発表され、2022年3月に国際試乗会がスペインで開かれたフェラーリ296GTBが、ついにニッポンの道を走りだした。マラネッロにとって「フェラーリ」を名乗るロードカー初のV6エンジン搭載モデルにして、「SF90」に次ぐ2番目のPHEV。そして「F8トリブート」、SF90に続く、この第3のミドシップ2座ベルリネッタは、どちらの後継モデルでもない。“運転の楽しさを定義する(DEFINING FUN TO DRIVE)”、もっともファン・トゥ・ドライブな、新しいセグメントのフェラーリなのだ。

PHEVなのに? そう。PHEVというのは通常、退屈な電動車ですよ。296GTBは違う。掛け値なしに? 100%イエス。エレクトロニック・コントロールをプラスすることで異次元のスポーツドライビング感覚を実現した新世代の若駒を、筆者は半日独占試乗して確信した。これは神がつくりたまひし傑作である。

電気ですかぁ。電気があれば、なんでもできる。1、2、3、ダーッ。感涙。スゴイ! キュンです。オータニさん! スーパーカーにモーターがついていてもいいじゃないか。芸術は爆発だ! ドント・シンク。フィール……。あちょー。

というような意味不明なことをいくら並べても意味不明なので、このエレキの若大将的フェラーリ体験がどんなに素晴らしかったか、筆者なりにお伝えしたい。そのシビれるサウンドについてはフェラーリのホームページでぜひご確認ください。

某日10時。私は東京都心の某地下駐車場で296GTBを受け取り、箱根を目指して渋谷方面に向かって走り始めた。PHEVの296GTBは容量7.45kWhのバッテリーを後部のフロア下に備えており、バッテリーが満充電であれば、モーターだけで最長25km走ることができる。たったの25km? 十分です。

V8ミドシップ系の“ピッコロフェラーリ”に近いサイズのボディーに、電動化されたパワートレインをミドシップ搭載した「296GTB」。2021年6月に世界初公開され、日本では同年10月に実車が披露された。
V8ミドシップ系の“ピッコロフェラーリ”に近いサイズのボディーに、電動化されたパワートレインをミドシップ搭載した「296GTB」。2021年6月に世界初公開され、日本では同年10月に実車が披露された。拡大
インテリアはゴテゴテとした装飾を排したシンプルでミニマルなもの。オーディオのスピーカーも、ダッシュボードと同色のカバーで隠すなど、その施策は徹底している。
インテリアはゴテゴテとした装飾を排したシンプルでミニマルなもの。オーディオのスピーカーも、ダッシュボードと同色のカバーで隠すなど、その施策は徹底している。拡大
計器類にナビゲーション、インフォテインメントシステムと、さまざまな機能が統合されたインストゥルメントクラスター。操作はステアリングホイールのコントローラーで行う。
計器類にナビゲーション、インフォテインメントシステムと、さまざまな機能が統合されたインストゥルメントクラスター。操作はステアリングホイールのコントローラーで行う。拡大
「296GTB」という車名は、排気量と(厳密な排気量は2992ccだが)シリンダー数を合わせた3ケタの数字に、「グラン・トゥーリズモ・ベルリネッタ」の頭文字を組み合わせたもの。往年のフェラーリを知る人なら、この命名法を懐かしく感じることだろう。
「296GTB」という車名は、排気量と(厳密な排気量は2992ccだが)シリンダー数を合わせた3ケタの数字に、「グラン・トゥーリズモ・ベルリネッタ」の頭文字を組み合わせたもの。往年のフェラーリを知る人なら、この命名法を懐かしく感じることだろう。拡大
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車両を制御する2つの「マネッティーノ」

しかしてこのとき、試乗車は満充電ではなかったため、ステアリングホイールの中央4時の位置にある「マネッティーノ」の反対側、8時から7時あたりの位置に設けられた「eマネッティーノ」がHマークの「ハイブリッド」モードを選んでいることを確認し、T型のスポークの3時の位置にある小さなタッチスクリーンで「チャージ」モードを呼び出し、エンジンの力を借りて充電することにした。

マネッティーノは、ダイヤル型のスイッチで「ウエット」「スポーツ」「レース」、電子制御機能オフなどの切り替えができる、おなじみの統合制御システムである。一方、eマネッティーノはエンジンとモーターのパワーモードのみを切り替える、ハイブリッドならではの制御システムで、「イー・ドライブ(EV走行)」「ハイブリッド」「パフォーマンス」「クオリファイ」、全部で4つのモードがある。クオリファイにすると、電池はエネルギーがある限り放電しっぱなしで、ICEとともに最高のパフォーマンスを発揮する。

デファクトはハイブリッドで、スタートのボタンを押すと自動的にHの文字が点灯する。そうすると、あまたのPHEV同様、バッテリーにエネルギーがあれば、積極的にEV走行を志向する。296GTBにはICEでバッテリーを充電しながら走る「チャージ」モードも備わっており、これに切り替えると、ヴァフォンッ! という雷鳴のようなサウンドを轟(とどろ)かせてICEが始動し、ドライバーを一瞬ギョッとさせる。

一度経験すれば、驚くレベルの音量ではない。オシッコ漏れそう。と思ったのは地下駐車場ゆえ爆裂音が反響したこともある。漏らしてはおらんですよ。単なる比喩で。

チャージモードを選んだのは、フェラーリの車両管理の担当者にそう勧められたからで、特にチャージを選ばずとも、エネルギー回生はつねにしているし、電池のエネルギーがなくなれば、エンジンが勝手に始動して充電にいそしむことになっている。

ステアリングホイールに備わる「マネッティーノ」のコントローラー。「ウエット」「スポーツ」「レース」の3つのドライビングモードが選択できるほか、トラクションコントロールや横滑り防止装置をオフにすることもできる。
ステアリングホイールに備わる「マネッティーノ」のコントローラー。「ウエット」「スポーツ」「レース」の3つのドライビングモードが選択できるほか、トラクションコントロールや横滑り防止装置をオフにすることもできる。拡大
「eマネッティーノ」は電動パワートレインの制御を切り替える機能だ。「イー・ドライブ」は電気のみでの走行モード。「ハイブリッド」は効率重視のノーマルモード。「パフォーマンス」はICEを常時稼働してバッテリーの残量を維持し、いつでもフルパワーが発揮できる状態に保つ“走り重視”のモード。「クオリファイ」はバッテリーの再充電を抑え(=エンジンパワーのすべてを走行に振り分ける)、電気のある限り最大限のパフォーマンスを発揮し続けるモードだ。
「eマネッティーノ」は電動パワートレインの制御を切り替える機能だ。「イー・ドライブ」は電気のみでの走行モード。「ハイブリッド」は効率重視のノーマルモード。「パフォーマンス」はICEを常時稼働してバッテリーの残量を維持し、いつでもフルパワーが発揮できる状態に保つ“走り重視”のモード。「クオリファイ」はバッテリーの再充電を抑え(=エンジンパワーのすべてを走行に振り分ける)、電気のある限り最大限のパフォーマンスを発揮し続けるモードだ。拡大
「ハイブリッド」モードでは、ドライバーの任意でICEによるバッテリーの充電が可能。メーターにパワートレインの操作画面を呼び出し、「Charge」のボタンを選択するとチャージが開始される。
「ハイブリッド」モードでは、ドライバーの任意でICEによるバッテリーの充電が可能。メーターにパワートレインの操作画面を呼び出し、「Charge」のボタンを選択するとチャージが開始される。拡大
「296GTB」のブレーキはバイワイヤ式で、踏力に合わせて摩擦ブレーキと回生ブレーキを統合制御するもの。その操作性と減速フィールは非常にスムーズで洗練されている。
「296GTB」のブレーキはバイワイヤ式で、踏力に合わせて摩擦ブレーキと回生ブレーキを統合制御するもの。その操作性と減速フィールは非常にスムーズで洗練されている。拡大

感動的なまでにスムーズで運転しやすい

EV走行する静かなフェラーリ。というのも落ち着かない。ということもあって、筆者はもっぱらチャージモードで走行したのですけれど、地下駐車場をそろりそろりと走り始めて驚嘆したのは駆動系のスムーズさだった。まるで空を飛んでいるみたい。……というのが大げさなら、数cm浮いているみたい……。そう感じるほど抵抗感がない。EV走行はなべてスムーズなものだとはいえ、296GTBはレベルが違う。

これには、ほぼアイドル状態のV6エンジン、それ自体のスムーズな回転フィールが大いに貢献していると思われる。6気筒エンジンは直列と120°V6の場合、等間隔爆発となり、トルク変動が抑えられる。フェラーリの開発陣がV8ではなくV6を選んだのはコンパクトネスのためであり、シリンダーのバンク角が90°ではなく120°としたのは、Vバンクのあいだにターボチャージャーを2基おさめてユニット全体のスペース効率を上げるのと同時に、等間隔爆発の完全バランスを得るためだった。

パワートレインのスムーズさに加え、磁性を用いた可変ダンピングのサスペンション、アルミの高剛性スペースフレームに、前40.5対後ろ59.5の前後重量配分などにより、乗り心地そのものもスムーズに仕立てられている。

296GTBは、V8を搭載するF8トリブートよりコンパクトだとはいえ、カタログ上の数値はさほど変わらない。全長×全幅×全高=4565×1958×1187mmと、F8より46mm短くて、21mmナローで、19mm低いだけだから、V8モデルぐらいのサイズがある。といういいかたもできる。

そのおかげで、ペダル類はオフセットしておらず、右脚をまっすぐ伸ばしたところにアクセラレーター、その左隣にブレーキ、左脚を伸ばしたところにフットレストがある。左足ブレーキはほぼできないものの、80年代までのフェラーリと違ってペダル類はオフセットしておらず、ステアリングホイールはバスのように寝ているのではなくて、直立している。理想的なドライビングポジションがとれるのは、サイズにゆとりがあるからで、もし全幅が2m近くなかりせば、(試乗車のような左ハンドル車の場合)フットレストの左隣の膨らみ、すなわちフロント左側のホイールハウスがもっと出っ張ってくることは必定である。

というわけで、一定のサイズを確保しつつ、ちょこっとサイズを小さくしている。このことが296GTBの運転しやすさに大きく影響している。隣のレーンのクルマがさほど気にならないのは、2cm細身になっているからにちがいない。

「296GTB」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4565×1958×1187mm。引き締まったデザインの妙で実寸よりコンパクトに見えるが、じつは堂々とした体格の持ち主なのだ。
「296GTB」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4565×1958×1187mm。引き締まったデザインの妙で実寸よりコンパクトに見えるが、じつは堂々とした体格の持ち主なのだ。拡大
シートには高品質なイタリアンレザーを使用。シート後方にはささやかな収納スペースが設けられている。
シートには高品質なイタリアンレザーを使用。シート後方にはささやかな収納スペースが設けられている。拡大
フル液晶のインストゥルメントクラスターを含め、インターフェイスはその大部分をデジタル化。ステアリングホイールのスタート/ストップスイッチや「eマネッティーノ」のコントローラー、灯火類やサイドミラーのコントローラーはいずれもタッチ式となっている。
フル液晶のインストゥルメントクラスターを含め、インターフェイスはその大部分をデジタル化。ステアリングホイールのスタート/ストップスイッチや「eマネッティーノ」のコントローラー、灯火類やサイドミラーのコントローラーはいずれもタッチ式となっている。拡大
ナビが日本仕様となっているのはもちろんだが、インストゥルメントクラスターはその他の点でもローカライズが徹底されている。意地悪く階層を下ってみても、日本語のフォントが怪しくなったり……という箇所は見当たらなかった。
ナビが日本仕様となっているのはもちろんだが、インストゥルメントクラスターはその他の点でもローカライズが徹底されている。意地悪く階層を下ってみても、日本語のフォントが怪しくなったり……という箇所は見当たらなかった。拡大
ダッシュボードにセンターモニターは備わらないものの、助手席の前にはパッセンジャーディスプレイを設置。助手席の乗員も、オーディオなどを操作できるようになっている。
ダッシュボードにセンターモニターは備わらないものの、助手席の前にはパッセンジャーディスプレイを設置。助手席の乗員も、オーディオなどを操作できるようになっている。拡大

モーターと内燃機関の完璧な協調

さらに296GTBを感覚的にコンパクトに感じさせる要因としては、モーターが黒子となって手助けしているからだと思われる。

「MGU-K(Motor Generator Unit, Kinetic)」とも呼ばれるこのモーターは最高出力167PS、最大トルク315N・mを発生する。強力な電気モーターのおかげで、スロットルに対するレスポンスはきわめて鋭く、クルマが軽やかで俊敏に動きはじめる。スーパーミドル級なのにライト級のごとくで、ようするにドライバーは実寸よりも小さなクルマ、あたかも「ロータス・エリーゼ」を操っているような感覚になっちゃうのである。

スゴイのは、モーターの制御のナチュラルなことだ。モーターはけっしてでしゃばらない。ICEと反発することもなく、相互扶助、互恵関係にあって、違和感がまったくない。神がつくりたまひし、と感じるのはこの部分で、完璧なマリアージュでもって一体化している。モーターがあればこそだと理屈では思いつつ、感覚的にはICE、2992ccの120°V6ツインターボがすべてをつかさどっている、と思い込む。それは、V6エンジンのサウンドが素晴らしいからだ。

夏休みが終わった平日の首都高速3号線、さらに東名高速は意外とすいており、こちらはそのなかをフツウに流しているだけなのに、先行車に追いつくとたちまち道を譲ってくださる。先行車のドライバーは真っ赤なフェラーリがルームミラーに映った刹那、クモの子を散らすように譲りたくなるらしい。

であるならば、こちらも誠意を示さねばならない。1963年に登場した「フェラーリ250LM」似のリアのフェンダーを、先さまの脳裏に刻み込み、そして視界から瞬時に消えるのが礼儀というものである。

その際、タコメーターを眺めていると、回転はさほど上がっていないのに、即座に加速していることがわかる。丸型のタコメーターの外周に沿って、ブルーのライトが発光する。モーターがブースターとして働いているのだ。

最近のF1中継を見ていると、コーナー等でF1カーが突如、まるでフィルムの早回しのように加速している様子をドライバー視点のカメラがとらえていたりする。それこそワープ走行に入ったみたいに瞬時にA地点からB地点に、ま、距離は短いわけだけれど、移動している。外から見ていると、モーターの力をブーストとして使っている296GTBは現代のF1カーみたいに加速しているのだろう。と筆者は想像する。

パワートレインは、最高出力663PS、最大トルク740N・mの3リッターV6ツインターボエンジンと、最高出力167PS、最大トルク315N・mのアキシャルフラックスモーター、そして8段DCTの組み合わせ。システム最高出力は830PSとなっている。
パワートレインは、最高出力663PS、最大トルク740N・mの3リッターV6ツインターボエンジンと、最高出力167PS、最大トルク315N・mのアキシャルフラックスモーター、そして8段DCTの組み合わせ。システム最高出力は830PSとなっている。拡大
充電口は左側のフライングバットレスに配置(ちなみに給油口は右側)。バッテリー容量が小さいこともあり、急速充電には対応していない。
充電口は左側のフライングバットレスに配置(ちなみに給油口は右側)。バッテリー容量が小さいこともあり、急速充電には対応していない。拡大
ドライブを終えてシステムをオフにすると、インストゥルメントクラスターには走行距離やEV走行の比率、ブレーキエネルギーの回生量などが表示される。このあたりは先の「SF90」と同じだ。
ドライブを終えてシステムをオフにすると、インストゥルメントクラスターには走行距離やEV走行の比率、ブレーキエネルギーの回生量などが表示される。このあたりは先の「SF90」と同じだ。拡大
センターコンソールには過去のモデルのシフトゲートをモチーフにした意匠のシフトセレクターを配置。ただし、「D」レンジに入れる際はこちらで操作するのではなく、シフトパドルを一押しする必要がある。
センターコンソールには過去のモデルのシフトゲートをモチーフにした意匠のシフトセレクターを配置。ただし、「D」レンジに入れる際はこちらで操作するのではなく、シフトパドルを一押しする必要がある。拡大
タイヤサイズは前が245/35ZR20 、後ろが305/35ZR20。標準仕様には「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」が、サーキット走行向けの「アセットフィオラーノパッケージ」装着車には「パイロットスポーツ カップ2 R」が装着される。
タイヤサイズは前が245/35ZR20 、後ろが305/35ZR20。標準仕様には「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」が、サーキット走行向けの「アセットフィオラーノパッケージ」装着車には「パイロットスポーツ カップ2 R」が装着される。拡大

コーナリングに快感を覚える

驚異的にスムーズなパワートレインとサウンドを堪能しつつ、山道に至って全開を試みる。純然たる後輪駆動だというのに、少なくともドライ路面ではまったくもって安定しており、スイスイ曲がる。ホイールベースがF8トリブートより50mm短くなっていること、120°V6の採用で重心が低くなっていることがハンドリングを大きく変えたと説明されている。まさに人馬一体。電子制御が黒子のように働いているはずであるにしても、ドライバーにはまったく悟らせない。

その昔、清水和夫さんが、あれは「328GTB」か「348tb」の時代だったか、りんごの皮をむく鋭いナイフにフェラーリをたとえておられたけれど、清水さんのようなドライビングの名人、達人ならずとも、筆者のようなヘタレであっても296GTBは切れ味鋭いことがわかる。なんだろう。腕を要するナイフというよりはレーザービームのようなものにたとえられるかもしれない。まるでモモの皮が、柔らかい果実を傷つけることなく、和毛(にこげ)を1本も失うことのないままに、スーッとむけちゃうような快感、魔法のような切れ味でもって次々とコーナーを旋回し、横Gによるめまい遊びがもたらす爽快にして痛快な気分を味わわせてくれる。

そのひとり遊びを盛り上げてくれるのはV6サウンドだ。高速道路でもそれなりに聴かせてくれたけれど、山道ではアップダウンがあり、コーナーがある。それゆえ加速と減速が繰り返され、エンジンの負荷が瞬時に変わる。スロットルの微妙な踏み加減、開度、速度、そして横Gの具合を読み取って、8段DCTがシフトダウンとアップを自動的に繰り返し、V6ユニットをドラマチックに歌わせる。

最高速330km/hのハイパフォーマンスカーだけに、ボディーの各所に空力デバイスを採用。フロントリップの通風口には、F1マシンのフロントウイングを思わせる小さな整流版が備えられている。
最高速330km/hのハイパフォーマンスカーだけに、ボディーの各所に空力デバイスを採用。フロントリップの通風口には、F1マシンのフロントウイングを思わせる小さな整流版が備えられている。拡大
ヘッドランプの内側に設けられたエアダクトは、フロントブレーキを冷却するためのものだ。
ヘッドランプの内側に設けられたエアダクトは、フロントブレーキを冷却するためのものだ。拡大
リアまわりでは、エキゾーストシステムを上方に配置することで、車体底部のディフューザーとして使えるスペースを拡大。左右テールランプのあいだには格納式のスポイラーが設けられており、必要に応じてせり出すことでダウンフォースを増大させる。
リアまわりでは、エキゾーストシステムを上方に配置することで、車体底部のディフューザーとして使えるスペースを拡大。左右テールランプのあいだには格納式のスポイラーが設けられており、必要に応じてせり出すことでダウンフォースを増大させる。拡大
ミドシップ車ならではのマスの集中や後輪寄りの前後重量配分に加え、「296GTB」ではガソリンタンクを2分割して車体底部に搭載するなど、低重心化も徹底。複雑なメカではなく、優れた基本設計で高いコーナリング性能を実現しているのだ。
ミドシップ車ならではのマスの集中や後輪寄りの前後重量配分に加え、「296GTB」ではガソリンタンクを2分割して車体底部に搭載するなど、低重心化も徹底。複雑なメカではなく、優れた基本設計で高いコーナリング性能を実現しているのだ。拡大

エキゾーストサウンドにとろける

開発時に「ピッコロ(小さな)V12」と呼ばれていたという「F163」型3リッターV6は、完全バランスと、F8トリブートのV8ツインターボよりも広い音域、とりわけ高回転時の、ふぉあああああああああああああああんッという高音でもって、ドライバーの理性をとろかせる。ああ。私は溶けていく。続いて、ヴァフォンッ、ヴァフォンッ、というダウンシフトの爆裂音を聞いていると、もう、どうなってもいい。とさえ思っちゃう。

「フェラーリ・ミュージック」と呼ばれるこのサウンドは、「ホットチューブ」と名づけられた特許システムが、エキゾースト系が生み出す音を、低回転時には低周波へ、高回転時には高周波へと、音の質と量を自在に変えてキャビンに送り込むことで実現しているという。けれど、重要なのはシステムではなくて、フェラーリ・ミュージックそのもの、イタリア的天才にある。と申し上げるべきだろう。楽器も大切だけれど、曲はもっと大切なのだからして。

3リッターV6は最高許容回転数8500rpm、最高出力は663PS、最大トルクの740N・m はなんと6250rpmで発生するという超高回転型だ。MGU-Kが低中速域のトルクを下支えしているからだろう、驚異的なフレキシビリティーを備えてもいる。ICEと電気モーターのシステム出力は830PS/8000rpmにも達する。メーカー発表の最高速は330km/h。0-100km/hは2.9秒、というスーパーカーぶり。ブレーキは超強力で、たける悍馬(かんば)を瞬時に落ち着かせる。バンピーな路面では、マネッティーノのスイッチを軽く押してやると、ダンピングがソフトになって、対応してくれる。

車両価格は3710万円もする。だれもが体験できるものではない。しかしてフェラーリ296GTBはテクノロジーが人間にもたらすことのできる可能性を示唆していることは疑いない。技術の力で、私たちはもっとハッピーになれる。296GTBのエンジニアたちがやりたかったのは、それを明らかにすることだったのだ。と筆者は思う。

(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)

「F163」型3リッターV6ツインターボエンジンは、キャビン後方の非常に低い位置に搭載。IHI製ターボチャージャーの高い過給効率も手伝って、221PS/リッターという量産車としては世界最高の比出力を実現している。
「F163」型3リッターV6ツインターボエンジンは、キャビン後方の非常に低い位置に搭載。IHI製ターボチャージャーの高い過給効率も手伝って、221PS/リッターという量産車としては世界最高の比出力を実現している。拡大
リアセクションの中央に設けられたマフラー。「ホットチューブ」を介してエンジン音が伝えられるキャビン内はもちろん、車外で聴いていても「296GTB」のサウンドは美声だ。
リアセクションの中央に設けられたマフラー。「ホットチューブ」を介してエンジン音が伝えられるキャビン内はもちろん、車外で聴いていても「296GTB」のサウンドは美声だ。拡大
電子制御ダンパーを備える「296GTB」では、「マネッティーノ」の設定に応じて乗り心地も変化する。ただし「アセットフィオラーノ」パッケージ装着車では、ダンパーの減衰力も固定となるので注意が必要だ。
電子制御ダンパーを備える「296GTB」では、「マネッティーノ」の設定に応じて乗り心地も変化する。ただし「アセットフィオラーノ」パッケージ装着車では、ダンパーの減衰力も固定となるので注意が必要だ。拡大
今回の試乗では、218kmの距離を走って27.8リッターのガソリンを消費。参考燃費は満タン法で7.8km/リッターとなった。最高出力830PSのスーパーカーとしては存外の数値で、これもまた、フェラーリが証明に臨んだ「テクノロジーの可能性」の一面といえるだろう。
今回の試乗では、218kmの距離を走って27.8リッターのガソリンを消費。参考燃費は満タン法で7.8km/リッターとなった。最高出力830PSのスーパーカーとしては存外の数値で、これもまた、フェラーリが証明に臨んだ「テクノロジーの可能性」の一面といえるだろう。拡大
フェラーリ296GTB
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テスト車のデータ

フェラーリ296GTB

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4565×1958×1187mm
ホイールベース:2600mm
車重:1470kg(乾燥重量)/1660kg(車検証記載値)
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:663PS(488kW)/8000rpm
エンジン最大トルク:740N・m(75.5kgf・m)/6250rpm
モーター最高出力:167PS(122kW)
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)
システム最高出力:830PS(610kW)/8000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)305/35ZR20 107Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:6.4リッター/100km(約15.6km/リッター、WLTPモード)
価格:3710万円/テスト車=--万円
オプション装備:Apple CarPlay/アダプティブフロントライトシステム/グロッシーブラック ブレーキキャリパー/エンジンカバー イン カーボンファイバー/カーボンファイバー アンダードアカバー/カーボンファイバー ビークルキー/カーボンファイバー ダッシュボードエアベント/エクステリアシルキック イン カーボン/アッパーパート オブ センターコンソール イン カーボンファイバー/カーボンファイバー フロントラゲッジコンパートメントエリア/カラードインナーディテールズ<ロッソフェラーリ130421>/マッツ イン ブラックレザー+ブラックアルカンターラ/ダッシュインサーツ イン カーボンファイバー/サスペンションリフター/カヴァリノステッチド オン ヘッドレスト<ロッソ0504>/ブラックテールパイプティプス/カーボンファイバー フロントスポイラー/“スクーデリアフェラーリ”シールズ/1トローリーバッグス<ネロ8500>/エレクトロクロミック リアビューミラー/パーキングカメラ/フロント&リアパーキングセンサー/レザーパッセンジャーコンパートメント インサーツ イン<ロッソフェラーリ130421>/スペシャルカラーズ<ロッソイモラ>/フルエレクトリックシーツ/マットダイアモンドポリッシュド フォージドホイール/レザーヘッドライナー<ネロ8500>/プレミアムHi-Fiシステム/カラードスタンダードステッチングO.R.<ロッソ0504>/シート ウィズ スペシャルデザイン/ホイールスタッドボルト イン チタニウム/ワイヤレススマートフォンチャージャー

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3807km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:218.0km
使用燃料:27.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)

 
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フェラーリ296GTB(MR/8AT)【海外試乗記】(その1)
フェラーリ296GTB(MR/8AT)【海外試乗記】(その2)
◆関連ニュース:フェラーリが「296GTS」を発表 最高出力830PSを誇る最新のオープントップモデル

今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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