ファンがどよめくFUNな一台 「マツダ・ロードスター990S」は買いなのか?
2022.01.17 デイリーコラム「軽さ」は武器になる
早いもので4代目のND型「ロードスター」も今年、登場から7年を迎えようとしています。この間、リトラクタブルハードトップを持つ「RF」の追加や、ADAS系技術の更新にエンジンの改良など、細かなリファインが加えられ続けて鮮度が保たれてきました。
普通のクルマならフルモデルチェンジの声も聞こえてくるところですが、初代NA型や3代目のNC型がおのおの約10年売られたことを思えば、まだ道半ばということでしょう。電動化うんぬんといった社会動向が気になりますが、CO2排出量=燃費等の環境性能は実質「マツダ2」同等と、今でも十分に高いわけで、余計な難癖をつけられる筋合いはありません。
NDはなぜ環境性能が高いのか。小さなエネルギーでもしっかり走るように軽さ小ささを突き詰める、そんな原理原則に愚直に向き合ったからにほかなりません。米国仕様で実現している2リッターエンジンの搭載を望む声もあるようですが、個人的には物理的な軽さとキャパの小さい1.5リッターの軽快なフィーリングがピタリとかみ合っている現状の仕様こそが、あるべき姿なのだと思っています。
それにしても、原点に立ち戻るためとはいえ、あえて先代NCより小さく遅くなる刷新の道を選ぶというのはただ事ではありません。そんなNDのなかで目立たずともユニークなグレードが、最も廉価なグレード「S」でした。
あっぱれな原点回帰
Sの面白いところは、「安くするためにひたすら省いたモデル」にはあらずということです。上位グレードに対して取り去られたものはトンネルブレースバーと呼ばれるフロア下の補強パネル、リアアンチロールバー、ノンスリ(リミテッドスリップデフ)、遮音材……と、これらで20kgの減量を果たして990kgと、1t切りの車重を実現。その車重に合わせ込んだレートのダンパーや電動パワステのセットアップが施されています。
「ワタナベさん、Sも乗ってみてくださいね。きっと、お好きな感じだと思いますから」
2015年、NDデビュー時の試乗会でそう声をかけてくれたのはマツダの梅津大輔さん。操安性能開発部でNCやNDの開発を手がけ、GVC(G-ベクタリングコントロール)の生みの親でもあるエンジニア……といえば、ご存じの方もいらっしゃることでしょう。どうやら拙が関わっていた媒体を目にしていて、「MGミジェット」に乗っていた過去や、ちったぁ旧車に明るそうだということを存じてくれていたようでした。
勧められるがままに乗ったSの印象はといえば、「上位グレードにも増してよく動くクルマ」というものでした。“動く”というのは多くのスポーツカーが唱える加減速や旋回でのアジリティーを指すのではなく、「踏んだ」「抜いた」だの「切った」「戻した」だのというドライバーの運転所作に応じての逐一の反応を指します。そこらの交差点をそろっと曲がるくらいの話でも、操作のアラがロールやダイブやスクワットとなって逐一現れる。そのあけすけぶりに笑いが込み上げるほどです。
「これをきれいに走らせるのは相当いい練習になりそうですね」と感想を伝えたら、梅津さんいわく、「Sは他グレードよりもNAっぽいテイストを狙ったんですよ」とのこと。なるほど、初代のロードスターって確かによく動くクルマだったよなぁと感心しました。
エンジンパワーの向上に引っ張られるようにタイヤの性能が上がり、そのグリップ力に負けないような体躯(たいく)や骨格を求めるとどうしても車重がかさむのでまたパワーを上乗せしタイヤも頑張り……と、そういうループを繰り返した揚げ句、あまたのスポーツカーは随分と大きく重くなってしまいました。NDはNAの時代を顧みることでこの悪循環を脱することができたのでしょう。ちなみに初代ロードスターの重量はエアコンの有無等の仕様差はあれど、おおむね950kg前後。30年後の990kgは奇跡のような数字ではないでしょうか。
老いも若きもドキドキ
2021年12月半ばに発表されたロードスターのマイナーチェンジで追加されたグレード「990S」は、そんなSの価値を最大化しようという開発陣の思いが込められているように感じます。ブレーキの強化にもかかわらず、ホイールの軽量化で低減したバネ下重量に合わせてダンパーやコイルレート、電動パワステを再セッティング、どうやらSにも増してよく動く味つけになっているもようです。
一方で中~高負荷域での挙動を落ち着けるべく採用されたのが「KPC=キネマティック・ポスチャー・コントロール」なる制御。簡単に言えば、車体後輪側にかすかに制動力を与えて車体を沈み込ませながら姿勢を安定させるというものです。バイクに乗る人なら効果的なフットブレーキ(リアブレーキ)の使い方としてピンとくるであろうこのロジックによって、コーナリングの際には路面に張り付くような安定感を享受できるといいます。その効力は横力0.3G以上から立ち上がるといいますから、曲げる意思が明確に表れてからの介入ということでしょう。ちなみにこれは「DSC」の制御を発展活用させたもので、重量増は一切ありません。
ロードスター990Sでは、これらの変更に合わせ込むかたちでエンジンの制御マップまで最適化されていると聞きます。命名からしてマツダの偏愛ぶりがここまで伝わってくるロードスターも、この先そうそうお目にかかれないかもしれません。ちなみに、こんなモデルにドキドキしているのは「もう300PS以上のクルマには体がついていきません」というオッサンばかりかと思いきや、さにあらず。990Sの先行受注は30代以下のカスタマーが28%を占めているそうです。似たような価格帯で「トヨタGR86」も選べるのにあえてこっち……という選択は渋すぎるのではないかとちょっぴり心配なのは老婆心でしょう。運転をしっかり学び、とことん楽しむうえで、990Sが最良の選択となることは間違いないと思います。
(文=渡辺敏史/写真=マツダ/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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