“エネマネ”時代に突入! 2026年のF1は「F1ではなくなる」のか?
2026.03.02 デイリーコラムF1は「フォーミュラE」になる?
「正直に言って、ドライブしていてあまり楽しくない。フィーリングが全くF1らしくない。これではフォーミュラEの強化版のようだ」
2026年に向けて大きく刷新された新世代F1マシンについて、4度のワールドチャンピオン、マックス・フェルスタッペンが放ったこの辛辣(しんらつ)なコメントは、大きな反響を呼んだ。
2026年シーズンは、シャシーとパワーユニットの双方で大幅なレギュレーション変更が施され、不確定要素を数多く抱えたまま幕を開けようとしている。なかでも最大の焦点となっているのが、電気モーターが総出力のおよそ半分を担うことになる、新世代1.6リッターV6ターボ・ハイブリッドの扱い方だ。
新レギュレーションでは、運動エネルギー回生システム「MGU-K」の最高出力が従来の120kW(約163PS)から350kW(約476PS)へと約3倍に引き上げられた。一方で、排気の熱エネルギーを回収する「MGU-H」は廃止され、バッテリー容量は基本的に据え置きとされた。そこで浮上してくるのが、慢性的な“エネルギー不足”という問題である。
MGU-Kによる回生可能エネルギー量は、従来の4MJから8.5MJへと増加したが、それでも必要量を完全に賄えるわけではない。不足分を補うためには、出力を抑えられた内燃機関(ICE)を高回転で回して発電するなど、新たな運用が求められる。
従来のブレーキング時の回生に加え、フルスロットル状態でモーターを発電側に回す、いわゆる「スーパークリッピング」と呼ばれる手法も編み出され、ストレートのみならずコーナリング中もICEを高回転で維持する場面が増えるとみられている。さらに早めにアクセルオフし惰性で走る「リフト&コースト」を多用するなど、徹底したエネマネ(エネルギーマネジメント)が不可欠となるだろう。
排気熱を利用するMGU-Hは、エンジンが回っていれば常時発電が可能だった。しかしMGU-Kは、意図的に回生の機会をつくらなければならない。つまり、どこでエネルギーを回収し、どこで放出するかを緻密に計算しながら戦う必要があるということだ。
もともと新レギュレーションに否定的な姿勢を示してきたフェルスタッペンに、電気自動車レースであるフォーミュラEをおとしめる意図はないだろう。冒頭の発言は、エネルギーマネジメントの比重が極端に高まった現代F1への違和感、そして「F1らしさとは何か」という根源的な問いかけと受け取るべきではないか。
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「全開走行」こそF1らしいのか?
もし「一切のマネジメントを排し、全開で走り切ることこそがF1らしさだ」というのであれば、時代を30年ほど巻き戻して考えてみる必要がある。
F1では1994年から2009年まで、レース中の給油が認められていた。その時代に前人未到の7度のタイトルを獲得したのが、ミハエル・シューマッハーである。
1994年、1995年にベネトンで連覇を果たし、1996年にフェラーリへ移籍。2000年からは破竹の勢いで5連覇を達成した。F1史における偉大なチャンピオンであることに異論はないだろう。
当時、シューマッハーと戦略家ロス・ブラウンのコンビが得意としたのが、軽い燃料搭載量で何度もピットインを行い、予選さながらの全開ペースでライバルを引き離す戦い方だった。2004年フランスGPで成功させた4ストップ作戦は、その最たる例だろう。
しかし、あの時代の勝ち方が「F1らしかったか」と問われれば、答えは決して単純ではない。圧倒的な強さの一方で、単調さや退屈さを感じていたファンがいたことも否定できないからだ。
そもそも、エネルギーマネジメントが注目される以前から、タイヤや燃料の管理はF1における重要な要素だった。さらに現在では、パワーユニットの使用制限、コストキャップなど、技術面・運営面ともにマネジメントは不可欠となっている。
高度な管理の上に成り立つ戦略で勝利をつかむ――その価値を、われわれは近年何度も目にしてきた。2022年ハンガリーGPで、10番手スタートから異なるタイヤ戦略を巧みに使い分けて完勝したフェルスタッペン自身が、その象徴ではないか。
「F1らしさ」を一言で定義することなどできない。時代とともに形を変え、多様であるからこそ、F1はモータースポーツの最高峰であり続けてきた。その意味で、今季3回行われたプレシーズンテストは、実に“F1らしさ”に満ちたものだった。
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「フラップが反転するリアウイング」の衝撃
1月下旬にスペイン・バルセロナで行われた非公開テストを皮切りに、第2回、第3回の合同テストはバーレーンで実施された。レギュレーションによって開発の自由度が大きく制限されるなかでも、数々の新解釈が生まれるのは、F1ならではの光景だ。
なかでも注目を集めたのが、フェラーリの2026年型マシン「SF-26」である。従来はリアのみ可動だった「DRS」に代わり、今季から前後ウイングが可変となる「アクティブエアロ」が導入されたが、フェラーリが投入したリアウイングのひとつは、フラップ全体が回転・反転するという大胆な構造で、多くの関係者を驚かせた。さらにエキゾースト後方には、整流効果を狙った独特の補助ウイングも確認され、スクーデリアが新レギュレーションに本気で取り組んでいることがうかがえる。
苦戦が伝えられるアストンマーティン・ホンダの「AMR26」も、強烈な個性を放つ一台だ。極端に絞り込まれたボディーカウルに加え、リアサスペンションのアッパーアームを高い位置のウイング支柱付近に取り付けるレイアウトは、ディフューザー周辺の気流改善を狙ったものと考えられる。天才デザイナー、エイドリアン・ニューウェイらしい発想の片りんが感じられる部分だ。
サイドポッド形状、フロントウイング翼端板、アクティブエアロの作動ロジックなど、各車の解釈は多種多様。パワーユニットのサウンドにまで違いがあることからも、厳格なルールのなかで知恵を絞る技術者たちの矜持(きょうじ)が伝わってくる。
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メルセデスvsフェラーリの頂上対決? 新時代の覇者は果たして……
テストはあくまでテストとはいえ、勢力図を占う材料にはなる。現時点で見る限り、昨年までのトップ4チームの競争力は依然として高そうだ。
なかでも安定感を際立たせたのがメルセデス「W17」だ。11チーム中最長となる約6200kmを走破し、最速タイムこそ2番手だったものの、ロングランでは高い競争力を示した。ジョージ・ラッセルは「運転しやすく、走らせて楽しい」とコメントしており、2年目を迎えるアンドレア・キミ・アントネッリとともに、自信をうかがわせている。
フェラーリも仕上がりは上々だ。テスト後半にはシャルル・ルクレールがトップタイムを記録。走行距離でも、同じパワーユニットを使用するハースに次ぐ3番手と、信頼性とポテンシャルの高さを示した。マラネロ移籍2年目となるルイス・ハミルトンも、「良いスタートが切れた」と手応えを語っている。
ワークス勢に続くのが、前年王者マクラーレン「MCL40」だ。テストでは最新仕様のメルセデスのパワーユニットを投入していなかったとされるが、それでもランド・ノリスとオスカー・ピアストリは上位争いをうかがう位置につけている。
注目は、初の自社製パワーユニットにフォードの名を冠したレッドブルだ。「RB22」はエネルギーのデプロイメント制御が高く評価され、ライバルからも称賛の声が上がっている。
中団勢も混戦模様。走り込みを重ねたハース、ルノーのパワーユニットを捨てメルセデス組に入ったアルピーヌ、レーシングブルズらが存在感を示す。ザウバー改めアウディも、テスト2回目にしてアップデートを投入し、約5000kmを走破するなど着実に準備を進めている。ウィリアムズはオーバーウェイト問題を抱えつつ開幕へ。新規参戦のキャデラックは、実績を積み上げるシーズンとなるだろう。アストンマーティン・ホンダは、体制の立て直しとキャッチアップが大きな課題だ。
困難を克服するために英知を結集する――それこそがF1の本質である。何百、何千人もの人間が、コンマ1秒を削るために莫大(ばくだい)な資金と情熱を注ぎ込む。その壮大な夢が、F1を唯一無二の存在にしてきた。
新レギュレーション下では問題も生じるだろう。しかし、解決策を見いだし、新たな価値を生み出してきた76年もの歴史がF1にはある。新時代の覇者はいったい誰か。その答えは、3月6日に開幕するオーストラリアGPから明らかになっていく。
(文=柄谷悠人/編集=関 顕也)
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柄谷 悠人
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