始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.03.04 デイリーコラムフェラーリよりもマツダ
先日、フェラーリ初の電気自動車は「ルーチェ」と名乗ることが発表された。元Appleのデザイナーによるインテリアが公開されて話題を呼んだが、イタリア語で「光、輝き」を意味するルーチェといえばマツダだろう、と思った読者は少なくないはず。
「マツダ・ルーチェ」は1966年から1991年までの四半世紀、5世代にわたって存在したマツダのフラッグシップ。基本は後輪駆動の4ドアセダンだが、世代によってかなりデザインテイストとキャラクターが変化したので、ルーチェという車名に抱いているイメージが人によってはけっこう違うのでは? ということで、マツダ版ルーチェはどんなクルマだったのか、その変遷をたどってみよう。
そもそもマツダからルーチェと名乗るモデルがデビューしたのは、今から63年をさかのぼる1963年秋の第10回全日本自動車ショウ(英文表記はTOKYO MOTOR SHOW)。ベルトーネ時代のジウジアーロが手がけた、当時の「ダットサン・ブルーバード」級のボディーに1/1.5リッター直4 OHVエンジンを積んだ4ドアセダンだった。
マツダとカロッツェリア・ベルトーネを結びつけたのは、昨年他界された宮川秀之さん。後にジウジアーロとともにイタルデザインを立ち上げ、日伊自動車業界の掛け橋として活躍された方である。そしてこのセダンにルーチェというイタリア語の名称を授けたのは、当時イタリアから広島に留学中だった、ランチアの重役令嬢で後に宮川夫人となるマリーザさん。ホームステイ先のファミリーを通じて親しくなった東洋工業(現マツダ)の松田常次社長から「何かいい名前はないか?」と尋ねられ、提案したのだった。
このルーチェ、ショー会場では翌1964年に発売予定と告知されたものの、より小型の大衆車である「ファミリア」の計画を優先させたためプロトタイプのみで終わった。そしてマツダは、ルーチェの計画を仕切り直すことにしたのである。
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レシプロはFR、ロータリーはFF
最初のルーチェのプロトタイプはファミリアとあまりサイズが変わらなかった。だが開発に際して、販売競争が激化する小型車市場に後発のマツダが割って入るには、差別化のためにより大きなサイズで、斬新なスタイリングをまとう必要があると考えられた。当然ながら高性能化も求められた。
2025年のオートモビル カウンシルやコッパチェントロジャッポーネに出展された、マツダの依頼によりやはりベルトーネ時代のジウジアーロが手がけた「S8P」。2ローターのロータリーエンジンで前輪を駆動するFFサルーンのデザインスタディーだった。
マツダでは新たなルーチェのデザインとして、このS8PをベースにシャシーレイアウトをレシプロエンジンによるFRに変更。それにしたがってボディーをアレンジした案と社内デザイン案を比較検討した結果、前者の採用を決定。そして1966年8月に「ルーチェ1500」として市販開始したのである。
コンセプトカーであるS8Pの魅力を失うことなく、さらなるエレガンスさえ感じさせるルーチェ。その名にふさわしく、細いピラーに支えられたグラスエリアが大きく明るいキャビンを持つボディーのサイズは、全長×全幅×全高=4370×1630×1410mm、ホイールベース=2500mm。既存の1.5リッター級よりひと回り大きく、前席ベンチシート仕様は6人乗りをうたった。パワーユニットは新開発されたクラス唯一となるSOHCクロスフロー、ヘミヘッドの1.5リッター直4。変速機は4段MTまたは3段ATでいずれもコラムシフトだった。
翌1967年には内外装をスポーティーに装い、エンジンをツインキャブなどでチューン、4段MTをフロアシフトとした「1500SS」、1968年にはエンジンをボディーサイズにふさわしい1.8リッターに拡大した「1800」シリーズを追加した。
さらに1968年には2ドアハードトップクーペにアレンジしたボディーに、S8Pと同じロータリーエンジンによるFF機構を搭載した派生モデルを「ルーチェ ロータリークーペ」の名で追加設定した。これは車名こそルーチェを名乗り、スタイリングイメージもサルーンと同じだが、中身はまったくの別物。ロータリーエンジン搭載車としても655cc×2の13A型はローター径が異なる専用ユニットで、FFの採用もこれが唯一だった。
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アメリカン指向へと路線変更
当時のマツダの体力では、開発能力には限りがあった。主力車種のファミリアを1967年にフルモデルチェンジ、1970年にはファミリアとルーチェの間に位置する「カペラ」、さらに1971年にはそのカペラとファミリアの間に収める「サバンナ」と「グランドファミリア」といった新車種のリリースを計画していたため、フラッグシップのルーチェはとくにテコ入れもなく半ば放置プレイ状態に置かれていた。
当時としては長めの6年のインターバルを経た1972年11月、ようやく2代目ルーチェが登場した。前年に登場した初代サバンナから、マツダデザインはそれまでの欧州調からアメリカン指向へと路線変更していたが、2代目ルーチェはさらにその方向にブーストしたもの。マッスルカー風のアクの強さを感じさせるスタイリングには、繊細なジウジアーロデザインの面影はみじんもなかった。
ボディーは4ドアセダンと2ドアハードトップの基本2種だが、セダンのボディーにハードトップのマスクやダッシュボードを移植した「カスタム」と名乗るシリーズも存在した。1960年代後半からマツダは「ロータリゼーション」と称して社運を賭して開発したロータリーエンジンを推進していたが、当初のパワーユニットはカペラ用と基本的に同じ573cc×2の12Aロータリーのみで、変速機は4段または5段のMT。1973年4月になってレシプロの1.8リッター直4 SOHCが追加された。
1973年からロータリー車は他に先駆けて排ガス規制をクリアした「AP(Anti Pollution=反公害)」仕様を追加、当初は3段ATのみが組み合わされた。さらに1973年10月にはより強力な654cc×2の13Bユニット搭載車を加え、これにはレシプロユニットを積んだ商用バンとボディーを共用する5ドアワゴンも用意された。1975年にフェイスリフトした後、1977年10月に2度目のフルモデルチェンジを迎える。
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アメリカンからコスモの兄弟車へ
1977年10月に登場した3代目は、当初は既存(2代目)のルーチェの上級版ということで「レガート」のサブネームが加えられた。ひと回り大きくなり5ナンバーフルサイズに近づいたボディーは4ドアセダンと、2ドアハードトップに代わって新たに加えられた4ドアピラードハードトップ。遅れて5ドアバンも追加されたが、先代にあった乗用ワゴンは用意されなかった。
特徴的な縦に並べた角形デュアルヘッドライトをはじめスタイリングは引き続きアメリカン調。パワーユニットは12A、13Bのロータリー、1.8/2リッター直4 SOHCのレシプロの計4種類だったが、翌1979年の小変更の際にロータリーは13Bのみとなる。同時に併売されていた先代が販売終了となり、車名からレガートがとれてルーチェに戻された。1979年のフェイスリフトでは、ヘッドライトを横長の角形シングルにしてマスクを一新。米車から一転メルセデス風の顔つきとなった。
1981年10月にフルモデルチェンジされた4代目ルーチェは、前後して登場した3代目「コスモ」の兄弟車となりパーソナルカー色が強まった。これまでのように単純に欧州調ともアメリカン風ともいいがたい、よくいえばオリジナリティーのあるデザインのボディーは、自らサルーンと称する6ライトのサイドウィンドウを持つ4ドアセダンと4ドアハードトップで、コスモには存在する2ドアハードトップは設定されなかった。
パワーユニットは燃費改善をうたった12Aロータリーを筆頭にレシプロは2リッター直4ガソリンとサルーン専用の2.2リッター直4ディーゼル。1982年には12Aにターボを付加して最高出力160PSを発生する世界初のロータリーターボユニットを加え、1983年には13Bにスーパーインジェクションと称する動的過給機構を備えた13B-SIも追加。同時に実施されたフェイスリフトで、個性的だった4ドアハードトップのマスクがサルーンに似たおとなしいデザインに変更されてしまった。
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最終世代は広島ベンツ
初代のデビューからちょうど20年を経た1986年9月、ルーチェは結果的に最後となるフルモデルチェンジを迎えた。コスモの兄弟車となり存在意義が薄れた先代に対し、フラッグシップたる正統派のセダンにキャラクターを戻した5代目のボディーは、従来どおり4ドアセダンと4ドアハードトップ。先代までは全長に比べて短かったホイールベースが95mm延ばされ2710mmとなり、最終世代にして「トヨタ・クラウン」や「日産セドリック/グロリア」などとほぼ同じ5ナンバーフルサイズとなった。
スタイリングは先代の個性的なものとは違ってオーソドックスだが、4ドアハードトップはメルセデス・ベンツの2代目「Sクラス」(W126)や「190E」(W201)あたりとの近似性を指摘され、「広島ベンツ」などと揶揄(やゆ)されたりもした。
リアサスペンションをマルチリンクにするなど一新されたシャシーに積まれるエンジンは新開発された2リッターV6 SOHCと同ターボ、従来の2リッター直4 SOHC、そして4ドアハードトップのみに用意される「サバンナRX-7」(FC3S)譲りの13Bロータリーターボの4種類。2代目以降、ルーチェの看板パワーユニットはロータリーだったが、ここにきてマツダの乗用車用としては初となる6気筒を採用したV6にシフトした。
1987年にはかつての「ロードペーサー」を除き、純マツダ車としては初の3ナンバー登録となる3リッターV6 SOHCエンジン搭載車が加わる。この時点でロータリーターボの同グレードより3リッターV6のほうが高価になったが、翌1988年のフェイスリフトでその3リッターユニットがDOHC化されて200PSにパワーアップ。性能でもロータリーターボ(180PS)を上回った。
これがルーチェの最終形態となった。1991年5月に事実上の後継モデルとなる新たなフラッグシップが「センティア」を名乗ってデビュー。ルーチェはタクシー用の営業車など一部を残して生産終了した。
というわけで35年に及ぶマツダ・ルーチェの歴史を振り返ってみたが、ジウジアーロデザインのエレガントなサルーンに始まり、アグレッシブなアメリカン調、コスモの兄弟車、そして広島ベンツといった具合に、マツダのフラッグシップサルーンという立ち位置こそ変わらなかったものの、デザインテイストとキャラクターは二転三転したことがお分かりいただけただろう。あなたが思い浮かべるルーチェは、いったいどれだろうか?
(文=沼田 亨/写真=マツダ、日産自動車、TNライブラリー、沼田 亨/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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