ポルシェブランド強し! 「タイカン」ばかりが快進撃を続けている理由
2022.03.09 デイリーコラム「911」より売れている
21世紀になって久しいというのに、よもやの戦争が現実となって「それどころではない」という意見があるのはごもっとも。しかしながら、やはりこちらもまだまだ消えてなくなりそうにないのが、世界の市場を襲う新車の供給不安定という問題だ。
もはや我慢も限界ということで、さまざまな足枷(あしかせ)を外しながら様子を見ようという国も現れ始める一方で、パンデミックへの警戒をなかなか緩めない日本のような国も存在して混乱が簡単に収束しそうにないのが、ご存じの新型コロナ禍。さらに、それによる半導体不足の影響も大きく、多くの自動車メーカーが予定した計画にのっとった新車の生産を行えずに受注があっても納期が見通せないばかりか、注文そのものを断らざるを得ないという事態すら発生しているというのも、今や珍しくないニュースになっている。
そうしたなかで聞こえてきたのが「2021年のポルシェの販売台数が、初めて30万台を突破」という報。1990年代の前半にはそれが3万台規模にまで落ち込み、“倒産”の2文字が現実味を帯びたというのが今では信じられないほどだが、そんな窮地からのV字回復が実現したのは、現在ではこのブランドを象徴するアイコンにもなっている「911」というピュアなスポーツモデルのみに頼った典型的な“一本足打法”からの脱却に見事成功したからにほかならない。
当初は「ボクスター」という完全新開発モデルの投入に始まり、その後は「カイエン」と「マカン」というSUVシリーズが立て続けのスーパーヒットを飛ばして、一時の危機を完全に過去のものとしたサクセスストーリーはご存じのとおり。そして現在では、このブランド初のピュアEVとして2020年にローンチされた「タイカン」が、史上最高の好調へと導く強力な援軍になっているというからちょっとビックリ。なにしろ、その世界での販売台数は前年の2倍以上となる4万1296台で、これは例の911シリーズの3万8464台をも上回る数であるという。
パワーだけではない魅力
4枚ドアの持ち主で、確かに2ドアのスポーツカーよりは販売の間口が広いとはいえ、それでもブームに乗ったSUVではなく、いわば“セダン”にすぎない存在が初代モデルにしてこれだけの成功を収めているのは、恐らく当のポルシェの予想をも超えているに違いない。
ただし、実際に乗ってみればその低重心感覚はかの911のそれすらしのぐとも思えるし、高速道路をクルージングした際に感じられる圧倒的にフラットな乗り味も、「かつて経験したことがないほど」と感じられるなど、まさに“ポルシェのスポーツカー”というフレーズを身をもって体験させてくれる一台であることは間違いない。
ピュアEVの場合、0-100km/h加速が3秒台といった「怒涛(どとう)の加速力」は、大出力を発生するモーターにそれに見合った電力を供給できるバッテリーを組み合わせた4WDモデルであれば、もはや“誰にでもつくれてしまう”ことが明らかになっているが、そうした加速力以外の部分で乗る人の心をつかむモデルを生み出すのは、やはり生半可なメーカーには困難なこと。聞くところによれば、タイカンの開発に際しては頭脳集団であるポルシェのスタッフのなかでも、特に優秀なエキスパートが集められたのだという。
もちろん、タイカンの成功にあたっては「911をつくったメーカーが手がけたモデルなのだから」という、他の追随を許さないブランド力の高さも大きく貢献しているはず。他ブランドにはピュアEVであるがゆえに販売苦戦中というモデルも少なからず存在するなかで、逆境の最中だからこそ売れる存在になるためには、やはり乗ったら分かるダントツの技術力とともに、前出のブランド力を巧みに活用した類いまれなるマーケティング能力があってこそ、でもあるはずだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。