第766回:【Movie】血管にベスパが流れる人ばかり!? 本場イタリアのミーティングをのぞいてみる
2022.07.21 マッキナ あらモーダ!人口減少の心配なし?
「ベスパクラブ・ディタリア(Vespa Club d’Italia)」は、スクーター「ベスパ」のイタリアにおける愛好会である。組織は膨大な数の地方支部に支えられている。一定規模以上の村や町には、必ずといってよいほどそうした支部がある。
彼らは地元でミーティングや走行会を頻繁に催している。その証拠にベスパクラブ・ディタリアのカレンダーには、おびただしい数のイベントが列記されている。2022年7月だけを見ても45の地域で行われていると記せば、いかに活動が活発であるか想像していただけるだろう。
筆者が住むシエナにもベスパクラブがある。彼らが第15回の年次ミーティングを行うというので訪れることにした。
2022年7月10日(日)の午前、ベスピスティ(Vespisti:ベスパ愛好家)たちが、愛車に乗って県内外から次々と集まってきた。隣県からの参加者のなかには、朝7時台の出発で、一般国道や県道を通ってきた人も少なくなかった。イタリアの自動車専用道路は、排気量150cc未満の車両が通行禁止であるためだ。それでも彼らは「道中を楽しんできたよ」と、元気な声で答える。
そうしたうちのひとりであるルーチョさんも、ペスパの故郷ポンテデラに近いサン・ミニャートから75kmをクラブのメンバーとともにたどってきた。「私も含め、60歳代のイタリア人は、みんな通学にベスパを使っていたからね。血管にベスパが流れているのさ」と熱く語った。
かと思えば、近年になってベスパの世界にとりつかれたという人々もいた。フィレンツェ県フチェッキオから来たマウロさんがベスパと出会ったのは、わずか8年前のことだ。
「息子がイタリアで原付二輪が運転できる14歳になったときです。プレゼントに何が欲しいかと聞いたところ、『最新のスクーターでなく、古いベスパがいい』と言い出したのです」
親子はフリーマーケットを探し回り、念願のビンテージベスパを手に入れたという。その日のマウロさんは快適な近年のモデルで参加したが、映画『ローマの休日』の劇中車と同型の“ファーロ・バッソ”(注:前照灯が前輪のすぐ上にあるモデル)を含め、今では12台のベスパを擁するという。
若者も発見した。看護師のジョルジョさんとシエナ大学法学部に通うクラウディアさんである。彼らの愛車は、ジョルジョさんが1年前に入手したという「PX150E」(1984年)だ。だが、1990年代生まれの彼らがベスパに投影する夢は「1960年代」という。第2次大戦後の、イタリアが経済成長で最も輝いていた時代である。
ある参加者は、近年オリジナル部品が高騰気味だと嘆く。しかし車両本体は、同じ古いモデルでも四輪車に比べれば入門の敷居が低い。そして、気の置けないローカルなイベントに参加し、同好の士と語り合える。そうした意味で、イタリアのベスパ愛好家たちにとって、取りあえず人口衰退の心配はなさそうである。
【ベスパクラブ・シエナの年次ミーティング】
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真と動画=Akio Lorenzo OYA、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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