スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)
現代ニッポン文化の象徴 2025.11.03 試乗記 スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。新世代エンジンを搭載
うさぎがキャラクターの、若い女性向けの軽自動車。といえば、アルト ラパンである。ラパンはフランス語でうさぎ。初代の発売は2002年で、現行型は2015年登場の3代目、ラパン3世だ。その3代目が10年目の夏、一部仕様変更を受けた。一部といっても、パワーユニットの変更だから大きな変更である。改良前は軽初の吸排気VVT機構を採用したR06Aで、2010年代のスズキの主力エンジンだった。それが新世代のR06Dに切り替えられたのだ。
2020年に「ハスラー」(2代目)と「ワゴンR」(6代目)に搭載されてデビューしたR06Dは、軽自動車用の3気筒DOHC 12バルブという形式こそ同じながら、ボア×ストロークからして違う。R06Aの64.0×68.2mmに対してR06Dは61.5×73.8mmへ、さらにロングストローク化し、ツインインジェクションの採用等により、12.0の高圧縮を実現している。
新しいラパンのパワーユニットは、この高効率の自然吸気エンジンに最高出力2.6PSと最大トルク40N・mを発生する電気モーターと小容量のリチウムイオン電池を組み合わせており、すなわち、マイルドハイブリッド化されている。フロントフェンダーに「HYBRID」のバッジが貼られているのは、マイルドハイブリッド車であることを表す。ターボはない。降雪地向けにフルタイム4WDはある。より個性的な顔の「ラパンLC」ともども、フロントグリルとフロントバンパーの形状が変更され、ボディー色に新色が採用されていたりするけれど、ビフォー/アフターを比較しないと、分からない。ごく、さりげないデザイン変更である。
安全機能面の充実ということで、衝突被害軽減ブレーキの内容が強化され、車線逸脱抑制機能や信号が切り替わったことを知らせてくれる「発進お知らせ機能」などが標準装備になってもいる。
かわいいうさぎがお出迎え
ということで、今回の試乗車のアルト ラパンにご対面した。FWDの最上級グレードであるハイブリッドX、車両価格171万7100円と知って、安い! お値打ち!! と思った。「フォギーブルーパールメタリック」という新設定のボディー色と「ソフトベージュ」のルーフのツートンの組み合わせ(4万9500円のオプション)はシックで、若い女性ではない層にも受け入れられそうである。編集のF氏のことばを借りると、「ニトリのような内装」も、いまどきの若い子の部屋に入ったようで……、と書いたのは失敗だった……うぎゃー、これを書いているひとはヘンタイだ、と思われてしまう。もとい、いまどきの若い子の部屋みたいで、チープシックでカワイイ、現代のニッポン文化を代表しているといえるのではあるまいか。
エンジンをスタートさせると、スピードメーターのすぐ下のモノクロの液晶画面に、「たまごっち」みたいに大きなドットで、秋だからでしょう、もみじがちらほら出てきて、大きな窓が開き、中にいたミッフィーみたいなうさぎが「ハロー」とあいさつする、ごく短いアニメーションが自動的に披露される。このアニメは季節や時間によって自動的に変わり、声は3種類から選ぶことができる。なんてところはインバウンドの外国人観光客もびっくり! に違いない。
これは少なくとも10年前に初見した動画と同じだけれど、ボディー内外のデザインも含めていささかも古びていないのは、たまごっちスタイルの動画も含めて、ラパン3世がもともとクラシックなデザインテイストだから、であろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
質素だけど品がある乗り心地
筆者はこの軽自動車を2日間、乗り倒した。1日目は羽田空港まで、2日目は静岡県の裾野市まで足を延ばした。R06Dは最高出力49PS/6500rpm、最大トルク58N・m/5000rpmで、これにCVTがコンビを組む。マイルドハイブリッド用のモーターが発進&加速をアシストしてくれるため、アクセルレスポンスがよく、フツーに走る限りにおいては十分な動力性能を持つ。タコメーターとにらめっこしていなければ、CVTの違和感を意識させない。必要十分な動力性能は710kgと車重が軽いこともある。例えば「ホンダN-ONE」だと、いちばん軽いモデルでも840kgある。軽さを売りにする「ダイハツ・ミラ イース」のいちばん重いモデルの670kgに近い軽量ぶりなのだ。
ちなみにスズキはここからさらに100kgの重量減を実現する旨を宣言している。世界中で軽自動車が採用されたら、電動化に突き進むより温暖化に効果があるかもしれない。と思うのは筆者のたわ言でしょうか。
念のために申し上げておくと、けっして速くはない。全開にすると、ペダルが重いみたいな加速感で、つまり加速しない。絶対的に非力だから、だろう。ガバッとアクセルを踏み込むと、加速がギクシャクするような気配があったのは副変速機付きCVTのなせるわざかもしれない……。
乗り心地は意外と硬めで、155/65R14のダンロップ自体は柔らかいあたりだけれど、脚があまり動かない。絶対的なサイズが小さいこともあって凸凹路面では揺すられる。それでもブッシュとかで直接的なショックは上手に逃している。なんだかフィアットに似ている。と思った。質素だけど、品がある。
新エンジン搭載により、おそらく静粛性が上がっている。少なくともウチの10年落ちのN-ONEの自然吸気より、全然静かだ。東名高速を巡行中もラジオのボリュームを上げる必要はないし、その状態から上限の6000rpmまで回しても、ロングストロークの直3 DOHCはエンジン音がさほど高まらない。大きな変化がないから、とても静かに感じる。高速安定性も良好で、全高1520mmとスーパーハイトではない恩恵もあって、その気になれば、全開連続走行だって不安なく続けられる。
広くて安くて燃費がいい
スズキによると、今回の一部仕様変更では、ルーフパネル剛性向上のためのメンバーへの筋交いの追加のほか、車体への減衰接着剤の採用でボディー剛性を上げるとともに振動を減らす工夫を加えている。エンジン音が静かなのは吸音タイプのエンジンのアンダーカバーの採用も大きいのかもしれない。ステアリング関連ではダイナミックダンパーの採用や電動パワーステアリングの適合が挙げられている。乗り心地がファームになったのはショックアブソーバーのチューニングによるもの、らしい。車線逸脱抑制機能のような運転支援系の機能を働かせるには機敏に動く足まわりを備える必要もある。そのわりにハンドリングが明瞭なアンダーステアで仕立てられているのはクルマのキャラクターに合わせているからだろう。
スーパーハイトワゴンほど広くはないにしても、室内空間、荷室とも、ふだん使うには必要十分で、後席は2分割可倒式だから、ひとり乗って、大きめの荷物を載せることもできる。今回のテストでは都内からおよそ360km走って、燃費は23.1km/リッターと良好な値を示した。前出のF氏によると、帰り道はけっこう急いだけれど、燃費は悪化しなかった。「やはり軽さは正義ですね!」とF氏。
長時間走った後にエンジンをオフにすると「運転お疲れさま」、短い距離だと「SEE YOU」としゃべる。ああ、かわいい。
試乗車にはメーカーオプションの全方位モニター用カメラパッケージ、8万5800円と、ディーラーオプションのスタンダードプラス8インチナビセット、24万2000円などを装着して合計219万2410円。繰り返しになるけれど、軽自動車であることも含めて、現代ニッポンの、ちっちゃくてキュートなモノをめでる文化を代表する一台である。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1525mm
ホイールベース:2460mm
車重:710kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC350+)
燃費:27.3km/リッター(WLTCモード)
価格:171万7100円/テスト車=219万2410円
オプション装備:ツートンカラー<フォギーブルーパールメタリック/ソフトベージュ>(4万9500円)/全方位モニター用カメラパッケージ スズキコネクト対応通信機装着車(8万5800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万3870円)/ETC車載器(2万4200円)/ドライブレコーダー(4万9940円)/スタンダードプラス8インチナビセット(24万2000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:24km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:360.9km
使用燃料:15.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:23.1km/リッター(満タン法)/23.1km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
NEW
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】
2025.12.17試乗記「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。 -
NEW
人気なのになぜ? アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17デイリーコラム現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。 -
NEW
第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17カーデザイン曼荼羅業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。 -
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。
























































