ルノー・ルーテシアE-TECHハイブリッド(FF/4AT+2AT)
堂々たる正攻法 2022.08.20 試乗記 ルノーの新機軸「E-TECHハイブリッド」は複雑な機構を持つフルハイブリッドシステムだが、ごく自然な運転感覚のままで優れた燃費を得られる画期的なパワートレインだ。これによって輸入車燃費ナンバーワンに上り詰めた「ルーテシア」の仕上がりをリポートする。エンジンとモーターにそれぞれ変速機
E-TECHハイブリッドはルノーが独自開発した2モーターのフルハイブリッドシステムで、1.6リッター直4エンジンと大小2つのモーター、ドグクラッチトランスミッション、それに1.2kWhの駆動用バッテリーで構成される。ハイブリッド車としては大容量のバッテリーに蓄えられた電力を使い、低速域の駆動(~40km/h)はメインモーターが担う。そのためEV同様の静かでスムーズなスタートが漏れなく毎回得られる。この時点で内燃機関(ICE)車のルーテシアとは完全に別物。
中速域(40~80km/h)となると、メインモーターに加えてエンジンも駆動を担う。と同時にエンジンの動力の一部がサブモーターに振り分けられ、必要に応じて発電も行う。エンジンには4段のドグクラッチトランスミッションが組み込まれており、この際、負荷に応じて変速する。メインモーターにも2段の変速機がある。このためルーテシアE-TECHハイブリッドには、モーターのみで走行する場合に2段、エンジンのみで走行する場合に4段、モーターとエンジンが協調して走行する場合に2×4の8段、合計14通りのギア比が存在することになる。が、そのうち2通りが事実上同じ(=近い)ギア比のため、使っているのは12段になる。
エンジン側の変速機にはシンクロメッシュやクラッチが付いておらず、ギアがかみ合うドグクラッチ式。ショックや機械音を覚悟していたのだが、変速の瞬間は意識して注意深くチェックしてもほとんど分からなかった。マニュアル変速はできず、完全にシステム任せとなる。やれと言われても段数が多すぎてシステム以上にはうまくやれないはずだ。
高速域で楽しめる
高速域(80km/h~)はエンジンが主体となって走行する。追い越し時などにはモーターがアシストする。中速域までの挙動は日本車のフルハイブリッドに近く、パワーに不足はないもののドライバーのアンダーコントロール感は希薄。実用的だが特に走らせて楽しい部類のものではない。が、エンジン主体の高速域の、特に加速の際にはそこはかとなく段付きのトランスミッションの存在感が出てきて、日本のフルハイブリッドよりも自分で運転している感覚を得られる。全体としては十分な力強さを持つ実用的なパワートレインという印象を得た。1.3リッター直4ターボモデルよりも50万円ほど高いが(細かい装備差はあるが)、はっきりとE-TECHモデルをオススメしたい。
実用的と書いたのには省燃費によるランニングコストの低さも含まれる。E-TECHハイブリッドは、同社のCセグSUV「アルカナ」に続く2車種目の採用となる。パワートレインの印象はほぼ一緒で、車体が小さく軽いぶん(約160kg軽い)、挙動はより軽快なのだが、アルカナよりもエンジン音が車内に侵入してきて、加速時にはやや騒がしいように思えた。パワートレインは共通なので、単にボディー形状や遮音材の量による違いと思われる。
漏れなく得られる希少性
そしてE-TECHハイブリッドを採用した一番の目的である燃費向上については効果抜群。1.3リッター直4ターボ搭載モデルを8.2km/リッター上回る25.2km/リッターのWLTCモード燃費を獲得した。これは輸入車の燃費性能ナンバーワンだ。
「日産ノート」などと共通の「CMF(コモン・モジュラー・ファミリー)-B」という車台を用いて開発されたルーテシア。日本で使うのに適したサイズでありながら、同サイズ、同クラスにたくさんの国産車がひしめくなかで、希少性も得られる。“輸入車に乗っているんだぞ”というオラオラ感を出したくないけれど、“何でもいいんだ”とも思われたくないという人に適している。
昔とは違う
惜しむらくはインテリアが少々味気ないこと。質感は決して低くないのだが、例えば取ってつけたようなセンターのディスプレイや旧態依然としたシフトレバー(結局これが一番使いやすいのだが)が、ひと世代前のデザインだ。へたに奇をてらって使いづらいだけのデザインになるよりはずっとよいが、最近はメーターパネルやセンターディスプレイ、シフトレバーまわりで競うように独自性を表現するブランドが多いので、できたらルノーもそのコンテストに参加してほしい。BYDみたいにフローティングデザインのディスプレイを90度回転させたってよいのだ。ひと昔前、パトリック・ルケマンというデザイナーが在籍し、実用車だからって地味でなければならないというルールはないと言わんばかりにやりたい放題だったころのルノーの内外装デザインを思い出す。
とはいえ、2021年にルノーが日本市場で過去最高の販売台数を記録した事実を考えれば、一部のクルマ好きが喜ぶものの販売台数は伸びない奇抜デザイン&コンセプトよりも無難なほうがビジネスとして正しいのだろう。いまルノーにはE-TECHハイブリッドがあり、パワートレインという根幹部分に武器がなかったために奇抜路線で戦わなくてはならなかったひと昔前とは違うのだ、ということかもしれない。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ルノー・ルーテシアE-TECHハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4075×1725×1470mm
ホイールベース:2585mm
車重:1310kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:4段AT(エンジン用)+2段AT(モーター用)
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:144N・m(14.7kgf・m)/3200pm
メインモーター最高出力:49PS(36kW)/1677-6000rpm
メインモーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/200-1677rpm
サブモーター最高出力:20PS(15kW)/2865-1万rpm
サブモーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/200-2865rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88H XL/(後)205/45R17 88H XL(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:25.2km/リッター(WLTCモード)
価格:329万円/テスト車=354万4500円
オプション装備:ボディーカラー<ルージュフラムメタリック>(4万4000円)/レザーパック(15万円) ※以下、販売店オプション ETCユニット(2万8600円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4621km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:123.7km
使用燃料:6.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:20.2km/リッター(満タン法)/20.4km/リッター(車載燃費計計測値)
