ダイハツ・ムーヴ キャンバス セオリーGターボ(FF/CVT)/ムーヴ キャンバス ストライプスG(FF/CVT)
“かわいい”の正常進化 2022.08.10 試乗記 累計で38万台を売り上げたというダイハツの軽乗用車「ムーヴ キャンバス」がフルモデルチェンジ。従来型と同じ“かわいい路線”の「ストライプス」に、シックな“オトナ路線”の「セオリー」という新たな個性を加えた2代目は、いかなる進化を遂げたのか。2つの個性を鮮明に打ち出す
2016年9月に「新感覚のスタイルワゴン」としてデビューして以来、ダイハツ・ムーヴ キャンバスの販売台数は38万台を超えたという。とにかく室内を広くしようという機能性第一のハイトワゴンと、とにかく無駄を排した質素で廉価な実用軽自動車との隙間に、かわいいムーヴ キャンバスがスマイルを振りまきながらするりと忍び込み、新たな市場をつくったのだ。人はパンのみに生きるにあらず、ということか。
ダイハツの開発陣によれば、街で見かけてひとめぼれして購入に至るケースが多かったとのことで、好評だったデザインは従来型から大きく変わっていない。デザインというよりこのクルマの場合は、キャラクターと呼ぶほうがふさわしいかもしれない。ただし、「360度のうち5度しか変わっていないように見えるかもしれませんが、真逆の方向の試作車もつくって検討しました」とのこと。
だからこのデザインの変化の針は、1周回って365度の位置にあるということらしい。1周回る間に、「MINI」や「フィアット500」をかなり研究したというエピソードが興味深かった。
余談ですが、街で見かけて気になったけれどムーヴ キャンバスという車名がわからず、「軽 かわいい」で検索する方が多かったそうで、車名をアピールすべく、新調された「CANBUS」というロゴが車体の前後で存在感を放っている。
新型ムーヴ キャンバスでまず目を引くのが、2トーンのストライプスと、モノトーンのセオリーという2つのスタイルがあること。ストライプスは従来型を気に入った方と同じ層にアピールする一方で、セオリーはもう少しシックなセンを狙っている。というのも、「デザインやパッケージングは気に入ったけれど、自分で乗るにはちょっとかわいらしすぎる」という声が多かったからだという。
ストライプスとセオリーは、外観だけでなくインテリアも雰囲気が異なり、前者はポップで明るい雰囲気、後者は落ち着いた大人のムードだ。
もうひとつ、ターボ仕様を新たに設定したことも新型ムーヴ キャンバスのトピック。これも、従来型が想定より幅広い層からウケたことが理由だという。お母さんと娘さんが共用することを想定していたけれど、父と娘とか、母と息子とか、いろいろな組み合わせがあり、「ターボがあれば買うのに」という声が届いたという。
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スタバを超えたスタバ
ストライプスとセオリーに、それぞれターボエンジンと自然吸気エンジンの仕様が設定され、どちらのエンジンにも前輪駆動(FWD)と四輪駆動(4WD)が用意される。トランスミッションはすべてCVT。
まず試乗したのが、セオリーのターボのFWD。運転席に座って周囲を見渡すと、MINIやフィアット500を研究したという言葉がすとんとふに落ちる。おそらく念入りに研究したのはエクステリアではなく、インテリアだったのではないだろうか。シンプルでありながら安っぽく見えないあたりがフィアット500っぽく、色使いや素材の組み合わせでしゃれた感じに仕上げるあたりにMINIの影響を感じた。
そして、このインテリアの雰囲気はなにかに似ている、つい最近も見たことがある、と思って記憶の糸をたどって、たどりついたのが、スタバの店舗の奥のほうにあるソファ席だった。ホテルのラウンジのような重厚感はないけれど、気軽にくつろぐことができるカジュアルな魅力がある。
食べ物をテイクアウトして外で食べる機会が増えたことを受けて、助手席側にランチボックスを置けるスペースが用意されるあたりには、時代を感じた。しかも、カップホルダーにはオプションの保温機能付きの「ホッとカップホルダー」がおごられていたので、飲み物が冷えないぶん、スタバのソファ席より快適に過ごせるのではないか。
もうひとつスタバのソファ席より快適に感じることがあって、それは収納スペースが豊富なこと。グローブボックスやアームレスト、それに後席座面下の「置きラクボックス」など、至れり尽くせり。スタバはたまに、手荷物収納用のラックがすべて出払っていて、困ることがある。
試乗車には装備されていなかったけれど、オプション表を見ると、スマホを置くスペースにはワイヤレス充電機能が用意され、マスクの収納を想定したというインパネアッパーボックスまで用意されている(!)。走るスタバというか、スタバを超えたスタバというか。
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新プラットフォームが効いている
発進から滑らかに加速する、3気筒のターボエンジンの印象は上々だ。といってもアクセルを踏むとタイムラグを感じさせることなく反応するし、タービンの音も聞こえないから、ターボチャージャーの存在を意識することはない。1.3リッターぐらいの自然吸気エンジンを扱っているように感じる。
吹け上がりも爽快で、「ターボがあれば買うのに」とおっしゃっていた方々が乗っても、満足できるはずだ。
ターボエンジンと同じくらい感心したのが、乗り心地のよさ。外観はキープコンセプトであるけれど、プラットフォームと呼ばれる基本骨格はDNGA(ダイハツニューグローバルアーキテクチャー)に一新されていて、それが効いているように感じる。
具体的には、路面の凸凹を通過する瞬間のショックを上手にやわらげる一方で、凸凹を通過した後のボディーの揺れをしっかりと収める。ハンドル操作に対する反応も素直で、カーブでも交差点でも気持ちよく曲がってくれる。
開発陣は、「硬すぎず、やわらかすぎず、乗る人がクルマ酔いをしないような乗り心地と、手足のように扱える操作性の両立を目指した」とのことで、その目標は達成している。また、これくらいしっかりと走れば、「ターボがあれば買うのに」という層も納得するだろう。
大人っぽい内外装と、ターボエンジン仕様の設定、そして新プラットフォームがもたらした乗り心地と操縦性の好バランスで、ムーヴ キャンバスは新たなユーザー層を獲得するはずだ。
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ファン層の広がりを狙う
と、好感触を得てからターボのない自然吸気エンジンのストライプスに乗り換えて、むむむと思う。内外装がオジサンにはスイートに過ぎるのはひとまずおくとして、走りはターボ仕様に比べると物足りなさは否めない。
まず、ターボに比べて力がないので、必然的にアクセルを多めに踏むことになり、エンジン回転が高まる。すると、エンジン回転を上げずに粛々と走るターボ仕様と比べると、ノイズと振動を感じることになる。また、ターボでは気にならなかった、CVT特有のエンジン回転が上がってからしばらく遅れて加速感がついてくる、いわゆるラバーバンドフィールも強く感じた。
足まわりのセッティングも微妙に違っていて、しなやかな乗り心地はターボ仕様と遜色がないものの、凸凹を乗り越えた後の車体の揺れの収束に少し時間がかかる。ブワンブワンという、悪い意味での余韻が残る。
ま、ムーヴ キャンバスというモデルは、そうした重箱の隅をつつくような比較検討の末に買うクルマではないことは重々承知しているつもりだ。ターボエンジン仕様と自然吸気エンジン仕様の価格差は12万円ちょいと、価格との割合からすると決して小さくないことも考慮する必要がある。
ただ、「キャラが好評だから、さらにファン層を広げたい」という新型ムーヴ キャンバスの狙いを体現しているのは、セオリーのターボ仕様であることは間違いない。母と娘だけでなく、おしゃれなおばあちゃんと孫など、ユーザー層のイメージが広がる。クルマ好きのおじいちゃんと孫娘が共用していたら、すごく似合うのではないか。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴ キャンバス セオリーGターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2460mm
車重:900kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6400rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.4km/リッター(WLTCモード)/25.2km/リッター(JC08モード)
価格:179万3000円/テスト車=217万3666円
オプション装備:スマートパノラマパーキングパック(7万1500円) ※以下、販売店オプション 10インチスタイリッシュメモリーナビ(23万1000円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万6026円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7380円)/ドライブレコーダー<スタンドアローンモデル>(3万4760円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:606km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ダイハツ・ムーヴ キャンバス ストライプスG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2460mm
車重:880kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52PS(38kW)/6900rpm
最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:22.9km/リッター(WLTCモード)/25.7km/リッター(JC08モード)
価格:167万2000円/テスト車=192万0666円
オプション装備:ボディーカラー<シトラスイエロークリスタルシャイン×シャイニングホワイトパール>(2万2000円)/9インチスマホ連携ディスプレイオーディオ スマートパノラマパーキングパック付き(14万8500円) ※以下、販売店オプション カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万6026円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7380円)/ドライブレコーダー<スタンドアローンモデル>(3万4760円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:538km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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