オートバイ復権なるか? 国内二輪市場の大転換について考える
2022.08.22 デイリーコラムコロナがきっかけ!? 25年ぶりの10万台超え
公のデータによると、251cc以上のバイクの国内販売台数は、2022年前半で前年同期比32%増の5万1035台。年間では1998年(10万4744台)以来の10万台超えになるとみられているそうだ。「若者のバイク離れ」に代表される、長年にわたるバイク業界の凋落(ちょうらく)ぶりからすると、考えられないほど好調だ。
要因として考えられるのは、まず新型コロナウイルスの影響。密にならないパーソナルな移動手段として、また大人の趣味としてのバイク人気の高まりから、新規免許取得者が増えているそうだ。棚ぼた的ではあるが、時流にも合っているし、それはそれで悪いことではない。また、肌感覚ではあるが、最近は若者がバイクに戻り始めていると感じる。1980年代のバイクブーマーだった世代が親になり、その子どもたちがバイクに乗り始めている。バイクに理解のある親たちのもとで育った世代だ。
それを実感したのが、今春3年ぶりに開催された東京モーターサイクルショー。コロナ禍が下火になったタイミングとはいえ、まだまだ以前のマインドには戻らない状況のなか、来場者数は3日間トータルで12万3439人と、過去最高を記録した前回(2019年)の14万9524人の83%を集客した。
もう数年前からだが、年季の入った革ジャンを着たコテコテのライダー姿(昔は革ツナギも珍しくなかった)は少なくなり、ラフな街着でふらっとやってきた風の若者や、おしゃれなライディングウエアを着こなした女性が高級ブランドの輸入車にさっそうとまたがる姿もよく目にするようになった。いい時代になったものだと思う。バイクはいつでも若者文化の象徴であってほしいし、ジェンダーレスでエイジレスの時代にあっては老若男女を問わずどんどんバイクに乗ってほしいと思うのだ。
メーカーの元気は“ミニモト”から 往年の名車が続々復活
ただ、近年は国産車も輸入車も高性能化に拍車がかかり価格も高騰するなど、バイクは若者にはなかなか手が届きにくいものになってしまった感があった。
それはそれで、四輪で言えばスーパーカーのように永遠の憧れとして必要だが、庶民の足としての魅力あるバイクがたくさん競ってこそ活力が生まれるはず。夏休みは原付で北海道までトコトコと旅してみたい、通勤通学にも使えるし渋谷にも遊びに行けそうだ……。そんな若者たちの素朴な夢をかなえられる等身大のバイクが求められていると思う。
そんななか、ホンダが東京モーターサイクルショー2022で初公開した新型「ダックス125」には連日ものすごい人だかりができていた。近年でも「モンキー125」や「CT125ハンターカブ」など往年の名車が現代の技術で復活して大人気となったことは記憶に新しい。
かつて戦後の復興期に、雨後のたけのこのように浜松あたりに現れたあまたの国産バイクメーカーも、原付や小排気量モデルから出発して昭和の高度成長期を通じて世界的メジャーブランドへと羽ばたいていった。ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4メーカーが“世界のビッグ4”と呼ばれるまでに成長した原動力は、生活に密着した実用車で培った優れた燃費性能や耐久性を含む、コストを抑えつつ品質の高い製品をつくり続けられる技術力だった。
それがベースにあったからこそ世界での競争に打ち勝って販売台数を伸ばし会社を大きくして、ついにはスピードと性能を競うレースの世界でも頂点へと上り詰めた。その最高峰であるMotoGPを見れば、長年にわたって国産メーカーが常にトップ争いを演じてきた歴史が分かるはずだ。今年限りでスズキが撤退を発表しているのは個人的にはとても残念だが、これも時流ではある。今後は二輪にもEV化の波が押し寄せてくると思うが、そこでバイク業界はどこへ舵を切っていくのか……。
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EVも大歓迎、でも「ちょっと待った」の感もある
その先行きを暗示するような出来事が、最近あった。2022年4月に道交法改正案が可決されて、従来は原付扱いとされた電動キックスケーターが免許不要&ヘルメット無しで乗れるようになったのだ。2年以内に施行される見通しで、年齢制限(16歳以上)や速度制限(20km/h以下)などはあるが、ほぼ自転車並みの乗り物へと規制緩和されていくのだ。
かつての屋台骨だった原付が売れず、環境問題やユーザーの意識の変化でEVなど環境負荷の小さい乗り物へと主役の座が移っていくのは仕方がないことだが、無防備な姿で小さな車輪が付いた板の上に立って乗るという、どう変えても不安定で危険な乗り物(バイク乗りであればその意味が分かると思う)が原付の代替えとなっていくことに関しては、どうも心がザワザワする。
それならば、ホンダやヤマハも新たに参入を進めていると思われる「足こぎペダルが付いた電動バイク」、つまりペダルをこいでもいいし電動モーターでも走れる“新たな電動バイク”の可能性を探っていってほしいと個人的には思うのだ。
とはいえ、人類の英知が結晶したガソリンエンジン150年の歴史をこのまま葬ってしまうのはもったいない。というかあり得ない。頭のいい人とテクノロジーの力でなんとかしてほしい。あの騒々しい音と匂いに恋い焦がれて育った世代の人間としては、心底そう思うのだ。
(文=佐川健太郎/写真=本田技研工業、カワサキモータースジャパン、webCG/編集=関 顕也)
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佐川 健太郎(ケニー佐川)
モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
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