【F1 2022】ベルギーGP続報:14位から圧勝、フェルスタッペンの異次元の速さ
2022.08.29 自動車ニュース![]() |
2022年8月28日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第14戦ベルギーGP。夏休み前のハンガリーGPで予選10位から優勝したマックス・フェルスタッペンが、2戦連続で“離れ業”をやってのけた。
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ベッテル引退からの連鎖移籍、ビッグメーカー参戦表明
8月のサマーブレイクを終えて残り9戦の後半戦を迎えた2022年のF1は、ベルギー、オランダ、イタリアと一気に3つのレースを連戦で駆け抜ける多忙なスケジュールで進むことになる。
夏休みにあっても話題には事欠かず、まずはセバスチャン・ベッテルの今季限りでの引退表明のあと、空いた来季のアストンマーティンのシートに、フェルナンド・アロンソがおさまることが決まった。現在コンストラクターズランキング4位のアルピーヌから、9位アストンマーティンへの電撃移籍に「なぜ?」といぶかしがる向きも多かっただろうが、一番驚いたのは当のアルピーヌだったことだろう。
アルピーヌを率いるオットマー・サフナウアー代表は、アロンソの移籍を事前に知らなかったとされている。アロンソ自身は「アルピーヌのローラン・ロッシCEOとルノーのルカ・デ・メオCEO、担当のメカニックやエンジニアには伝えていた」とメディアに語っていることからも、この組織内での意思疎通がうまくいっていないことがうかがえるエピソードである。
まさに青天のへきれき、チームの要の離脱に焦ったか、直後にアルピーヌはリザーブドライバーで2021年のF2チャンピオン、オスカー・ピアストリの昇格をアナウンスしたものの、なんとピアストリ本人が自身のSNSで「アルピーヌには乗らない」と否定する珍事が発生。そのピアストリは、内々でマクラーレンでの来季デビューを画策しており、両チームの間でこの若手オーストラリア人ドライバーの契約問題が勃発(ぼっぱつ)している。
そしてマクラーレンは、ベルギーGP直前になって、不調のダニエル・リカルドとの契約を1年前倒しで終了させることを発表。5冠王者ベッテルの引退から、移籍や離脱が連鎖的に起きている状況である。
一方、2026年にアウディがパワーユニットサプライヤーとして参戦することが正式発表された。8月半ばに次世代パワーユニットのレギュレーションが承認されたことを受けてのことで、具体的な方法は明言されていないものの、現在アルファ・ロメオとして参戦しているザウバーを買収するかたちで交渉が進められているとみられている。またアルファ・ロメオを傘下におさめるステランティスは、2023年でザウバーとの契約を終了することを明らかにしており、こちらも水面下で事態が進展しているようである。
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断トツでフェルスタッペン最速、ポールはサインツJr.
100億円を超える巨費を投じ改修された名コース、スパ・フランコルシャン。有名な急坂の「オールージュ」をはじめとする個性豊かなコースの魅力はそのまま、主に安全性の向上を眼目に、一部路面の再舗装やランオフエリアの拡大などが行われた。今季限りとうわさされた同地でのベルギーGPが、ひとまず1年の契約延長で2023年も開催されることになったのは、ファンにとって朗報だっただろう。
抜きやすいコースであるがゆえに、ここでパワーユニットやギアボックス交換のグリッド降格ペナルティーを受けるマシンが続出。結果的に8台がグリッドダウンとなり、そのなかには、80点もの大量リードを築くマックス・フェルスタッペンのレッドブルや、彼を追うシャルル・ルクレールのフェラーリも含まれていた。
予選Q3では、この週末は早々から絶好調だったフェルスタッペンが0.632秒もの大差をつけてトップタイムをマークするも、ポールポジションからスタートするのは2番目に速かったフェラーリのカルロス・サインツJr.。レッドブルのセルジオ・ペレスがキャリア通算4度目のフロントローに並んだ。
その後ろにも、いつもとは違う顔ぶれがそろうことになり、アルピーヌのアロンソ3位、メルセデス勢はルイス・ハミルトン4位、ジョージ・ラッセル5位、そして今季初Q3進出となったウィリアムズのアレクサンダー・アルボンが6位につけた。さらにマクラーレンはランド・ノリスが降格し、代わってリカルドがトップ10内の7位と好位置からの出走。アルファタウリのピエール・ガスリー8位に続き、5列目にはアストンマーティンの2台が並び、ランス・ストロール9位、ベッテル10位となった。
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14位スタート、フェルスタッペンのオーバーテイクショー
スパでの過去7戦でポール・トゥ・ウィンは6回と統計上はサインツJr.が有利。とはいえ、ここで優勝したドライバーの最も低いグリッドポジションは16位(1995年のミハエル・シューマッハー)という記録もあり、14番グリッドのフェルスタッペン、15番グリッドのルクレールと実力あるドライバーの追い上げもあり得ない話ではなかった。
実際、GP最長7kmを44周するレースでは、カーナンバー1をつけたチャンピオンがはやての如く駆け抜け、異次元の速さで圧勝を飾るのだった。
スタート直後の鋭角コーナーをトップで抜けたのはサインツJr.。次いでアロンソ、ハミルトン、ラッセルと続き、ペレスは5位にダウン。長い「ケメル・ストレート」のエンドでハミルトンとアロンソが接触すると、メルセデスは早々にマシンを止めざるを得なくなった。またバルテリ・ボッタスのアルファ・ロメオ、ニコラス・ラティフィのウィリアムズなどの接触もあり、2周目にセーフティーカーが出動することとなった。
順位は、1位サインツJr.、2位ペレス、3位ラッセル、4位アロンソ、5位ベッテル。このときフェルスタッペンは8位、ルクレールも9位と早くも入賞圏内に駒を進めてきていたのだが、ルクレールはフロントブレーキにヘルメットの捨てバイザーが張り付いたことで緊急ピットインを余儀なくされ、一気に17位まで下がってしまった。
5周目にレースが再開すると、いよいよフェルスタッペンのオーバーテイクショーが始まる。リスタート後の一周で2台を抜き6位、翌周には5位、そしてアロンソを、さらにはラッセルをオーバーテイクし、8周目にはポディウム圏内の3位まできていたのだから驚く。その勢いは止まらず、時に1秒以上速いペースで、首位サインツJr.と2位ペレスを追いかけるのだった。
12周目、首位サインツJr.がピットに入りソフトタイヤからミディアムに交換し、さらに3周後にはペレスがミディアムから再びミディアムに換装。翌周にはフェルスタッペンがソフトからミディアムへとつなぐと、1位サインツJr.、5秒開いて2位フェルスタッペン、3位ペレスとなった。
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フェルスタッペン圧勝、62年ぶりの快挙
フェルスタッペンの快進撃はとどまることを知らず、18周目にサインツJr.をかわしてトップ奪取に成功すると、サインツJr.の視界からどんどん遠ざかるのだった。さらにこの日のレッドブルはもう1台も元気で、ペレスは21周目にサインツJr.をストレートでぶち抜き、レッドブルはレース折り返しを待たずして1-2フォーメーションを築いてしまった。
決勝日は気温が上がったことも影響してか、フェラーリは2台そろってタイヤのデグラデーションが顕著で、サインツJr.はレース後「オーバーヒートがひどく、各所でマシンをスライドさせていた」と語っていたほど。フェラーリは、26周目にサインツJr.をピットに呼び寄せてハードに履き替えさせ、またルクレールは再びミディアムを装着することとなった。
2位ペレスも28周目に2度目のタイヤ交換でハードを選択。31周目にはフェルスタッペンもピットでミディアムに替えると、フェルスタッペンは孤高の一人旅を続け、ペレスは引き続きレッドブル1-2を支えたのだった。ペースが伸び悩んだサインツJr.だったが、ラッセルも同様だったことが幸いし、3位の座をキープしたままチェッカードフラッグが振られた。
「レールの上を走るようだった」とは、同じマシンのペレスに18秒近くの差をつけ圧勝したフェルスタッペン。マシンとドライバーとサーキットとが、これだけ完璧にかみ合ったレースも珍しい。また前戦ハンガリーGPは10位から優勝、今回は14位からの勝利と、10位かそれ以下からの連続勝利は、62年前にマクラーレンの創設者ブルース・マクラーレンが打ち立てた記録に次ぐ、これまた珍しい快挙である。
これでフェルスタッペンのポイント上のリードは80点から93点に拡大。コース上の走りのみならず、チャンピオンシップでも文句なしの結果に、隣国オランダからベルギーに大挙してやってきたフェルスタッペンのファン「オレンジ・アーミー」は狂喜乱舞したに違いない。
次戦は、その熱狂的なファンが待ち受けるオランダGP。決勝は1週間後の9月4日に行われる。
(文=bg)