【F1 2022】オランダGP続報:メルセデスの“奇襲”にも負けなかったフェルスタッペンの“無敵”
2022.09.05 自動車ニュース![]() |
2022年9月4日、オランダのザントフールト・サーキットで行われたF1世界選手権第15戦オランダGP。レッドブル、フェラーリ、そしてメルセデスによる三つどもえの戦いとなったレースは、シルバーアローの“奇襲”により、がぜん面白みを増すのだった。
![]() |
![]() |
“レッドブル・ポルシェ”黄色信号?
前戦ベルギーGPの週末には、2026年からアウディがF1に参戦することが発表された。そうなると気になるのは、同じフォルクスワーゲン グループ内でF1へのエントリーを画策しているポルシェのアナウンスがないこと。既報のとおり、レッドブルとの協業で調整が進んでいるようなのだが、オランダGPを前にレッドブル側の声色が変わってきた。
アウディが自らパワーユニットを手がけ、アルファ・ロメオの母体であるザウバーを買収してチームとしての参戦を計画しているとみられているのに対し、ポルシェはレッドブルのF1活動に資本参加し、レッドブルが立ち上げた「レッドブル・パワートレインズ(RBPT)」開発によるパワーユニットに自社バッジを付ける、マーケティング的な関わり方を検討しているといわれている。レッドブルとポルシェは、ビジネスパートナーとして手を結ぼうとしており、なかなか正式発表とならない背景には、水面下での両社の政治的な駆け引きがあるというのだ。
ポルシェと手を組むことには、エナジードリンクメーカーであるレッドブルの創業者のひとり、ディートリッヒ・マテシッツの強い後押しがあるとされているが、F1チームを率いるクリスチャン・ホーナー代表をはじめ、アドバイザーのヘルムート・マルコ、テクニカルオフィサーのエイドリアン・ニューウェイらチーム首脳陣が反対しているというのがもっぱらのうわさ。ホーナー代表らにとっては、ビッグメーカーの影響力が増せばレースチームとしての独立性が損なわれること、また自分たちが築いてきたチャンピオンチームをみすみす手放すようなまねはしたくないという懸念があるとされている。
ホーナー代表は、RBPTが予定どおり自前のパワーユニット開発にまい進しており、ポルシェの支援は必要不可欠なものでもないとの立場から、「仲間に入るかどうか彼ら(ポルシェ)が判断する必要がある」と突き放すような発言でまるで交渉相手をけん制しているかのよう。さらに、2025年までレッドブルとアルファタウリにパワーユニット供給を続けるホンダの名前も度々メディアに取り沙汰され、レッドブルがホンダに復帰を働きかけているとかいないとか。
さまざまな思惑が絡み合う弱肉強食のF1は、グローバルスポーツとしての華やかさの裏に、「ピラニア・クラブ」と呼ばれるほど血なまぐさい一面も持ち合わせている。“レッドブル・ポルシェ”という大物同士のパートナーシップも例外ではないということは容易に想像がつくが、果たして実態は……。
![]() |
三つどもえの戦いから抜け出し、フェルスタッペンがポール
高速コースのスパで行われた前戦ベルギーGPでは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが14番手スタートから圧倒的な速さでレースを席巻。あまりの圧勝ぶりに誰もが驚いたのだが、続くオランダGPではライバルたちが息を吹き返し、レッドブル、フェラーリ、メルセデスによる三つどもえの戦いで予選から白熱した。
一周4.2kmの短いコースに、最大19度のバンク角を持つ個性的なコーナーを配したザントフールト。トップ10グリッドを決める予選Q3では、フェラーリのシャルル・ルクレールが記録した暫定タイムを、最後のアタックでフェルスタッペンが塗り替え、カーナンバー1を付けたオランダのヒーローが今季4回目、通算17回目のポールポジションを奪った。
ルクレールは、今シーズン最も僅差となる0.021秒遅れで2位。「ターン10のミスでポールを失ったね」と語るフェラーリのエースだったが、レースには自信をのぞかせていた。フェルスタッペンとルクレールという今年7度目の最前列ペアの後ろには、フェラーリのカルロス・サインツJr.が続いた。
Q3最後にレッドブルのセルジオ・ペレスがスピンしたことで、メルセデスのルイス・ハミルトンはタイムアップを果たせず4位。そのペレスは5位で、メルセデスのジョージ・ラッセルが6位につけた。
マクラーレンのランド・ノリス7位、ハースのミック・シューマッハーは今季4度目のQ3進出で8位。アルファタウリの角田裕毅も、チームメイトのピエール・ガスリーを上回る9位となり、アストンマーティンのランス・ストロールは10番グリッドからのスタートとなった。
![]() |
フェルスタッペン快走の後ろで、不気味に動くメルセデス勢
抜きにくいザントフールトでのタイトな戦いは、今シーズン最速のフェラーリ勢、さらに決勝で強さを発揮するメルセデス勢と、各陣営がそれぞれの強みを生かしながらフェルスタッペンに勝負を挑むこととなった。
まずフェラーリだが、72周レースのスタートからフェルスタッペンに置いていかれることになる。先頭のフェルスタッペンに、ルクレール、サインツJr.、ハミルトン、ペレスらが続いて始まったレースは、首位を堅持するフェルスタッペンが序盤の数周で2位ルクレールに1秒以上のギャップを築き、主導権をしっかりと握った。
15周目、上位勢で最初にピットに入ったのは3位サインツJr.と5位ペレスだったが、フェラーリはタイヤの準備が間に合わないというおなじみのドタバタ劇を演じてしまいタイムロス。サインツJr.は無線で「オーマイゴッド!」と叫び、ペレスに先を越されるのだった。
18周目、5秒近く後れを取っていた2位ルクレールがピットに入り、ソフトからミディアムに交換。翌周には1位フェルスタッペンも同じ動きを取り、結果、ミディアムタイヤでスタートしたメルセデスの2台、ハミルトンとラッセルがタイヤ無交換のまま暫定1-2、そしてタイヤ交換済みのフェルスタッペン3位、ルクレール4位、ペレス5位、サインツJr.6位と続くことになった。
ここから不気味な動きを見せることになるのがメルセデスだ。30周目に暫定トップのハミルトン、2周後にラッセルもピットに入り、ミディアムからハードに履き替えたのだ。ライバルはデータに乏しいハードを選択肢に入れていなかったようで、メルセデスがこのまま1ストップで走り切るつもりならば、2ストップを念頭に置いていたレッドブル、フェラーリにとっては脅威になりかねなかった。
順位は1位フェルスタッペン、7.8秒後方に2位ルクレール、さらに7秒遅れて3位ペレス、そしてトップから19秒離れて4位ハミルトン、5位ラッセル。作戦の異なるメルセデス勢の追い上げが、ここから始まった。
![]() |
![]() |
シルバーアローの猛追、突き放すフェルスタッペン
一般に「長持ちするがペースは遅い」とされるハードタイヤを履き、メルセデスの2台はハイペースで上位との差を急激に詰め、37周目にはペレスにハミルトンが襲いかかり3位、程なくしてラッセルも4位に上がってきた。
ハードの実力を試すべく、レッドブルは41周目にペレスをピットに呼びハードを装着。やはり抜群に速いことをみてとったフェラーリも、46周目にルクレールにハードを与えた。
このままではメルセデスに勝利を奪われる──緊迫感が増したフェルスタッペン/レッドブル陣営に幸運が訪れる。角田のアルファタウリがコース脇に止まりリタイアとなったことでバーチャルセーフティーカーが出ると、このタイミングでフェルスタッペンら多くがピットに飛び込んだ。フェルスタッペンが選んだタイヤもやはりハード。このバーチャルセーフティーカーで勝機を失ったかに思えたメルセデスは、すかさずハミルトン、ラッセルにミディアムタイヤを与えコースに返した。
これでオーダーは、1位フェルスタッペン、15秒後方に2位ハミルトン、そして3位ラッセル、4位ルクレール、5位ペレス。デビュー以来毎年勝ち星をあげているハミルトンは、今季メルセデスが勝てるまたとないチャンスだと必死に追いかけたが、55周目、今度はバルテリ・ボッタスのアルファ・ロメオがメインストレートでストップしたことでセーフティーカーが入ると、勝機がぐっと遠のいてしまった。
徐行中にフェルスタッペン、ラッセルは速いソフトタイヤに履き替える一方、ハミルトンはミディアムタイヤのまま走行を続け、これで1位ハミルトン、2位フェルスタッペン、3位ラッセル、4位ルクレールとなった。61周目にレースが再開すると、フェルスタッペンが瞬く間にターン1でトップを奪い去り、ファステストラップで後続を突き放しにかかり、今シーズン10勝目を母国のファンの前で飾ったのだった。
逆にハミルトンは、フェルスタッペンと同じソフトを装着したラッセルにも抜かれ3位、そしてルクレールにもオーバーテイクされ4位に落ち、ミディアムタイヤを選んだチームにいら立ちを伝えるほど。メルセデスは今季初勝利を逃すもラッセルが2位と善戦し、またルクレールにとっては惨敗から3位表彰台となんとかメンツを保つことができた。
自身初の4連勝、チャンピオンシップでは109点ものリードを築いたフェルスタッペン。ベルギーGPのグリッド降格も、また今回のメルセデスの“奇襲”にも負けず、圧倒的な強さを誇示し、2年連続のタイトル獲得に向けてまっしぐらだ。ハミルトンとの熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げた昨季の経験に加え、大量リードから生まれる余裕が、今季の無敵のパフォーマンスを支えているといえるかもしれない。
3連戦の最後はイタリアGP。決勝は9月11日に行われる。
(文=bg)