ほぼレーシングカーの過激な高性能車は、なぜビジネスとして成り立つのか?
2022.10.17 デイリーコラムポイントは「形」「性能」「希少性」
ポルシェの「RS」モデルやフェラーリのスペチアーレ、国産車で言えば「日産GT-R NISMO」といった、トラック(サーキット)走行を重視した高性能モデルが、スーパースポーツのトップグレードに君臨するようになって久しい。最近ではアルピーヌまで「A110 R」という過激なグレードを発表した。
高性能グレードの起源はレース用ホモロゲーションモデルにさかのぼる。ポルシェはRSモデルを半世紀にわたってつくり続けているし、フェラーリに至っては“そのままサンデーレーシング”というべき「GTO」があった。
近年になってワンメイクレースやGT3/GT4クラスといったレースカテゴリーが盛んになってくると、ベースモデルとレーシングカーとの性能の乖離(かいり)が始まっていく。当然のことながらサーキットユースのほうが高性能化は早く進むからだ。
つまり、それまでベースモデルの進化と歩調を合わせてきたレーシングカーが毎年のようにグレードアップすることで一気に発展し、もはやベースモデルとの共通点は“見た目の感じ”のみという状況に至った。ミドシップとなった「ポルシェ911 RSR」などはその最たるものだろう。
とはいえ、GT3やワンメイクレース用モデルは格好のマーケティングアイテム(もちろん、そのためにつくられた)。そこで培われた技術なり装備なりをフィードバックする(もしくはしたように見える)モデルをつくればビジネスチャンスも増える。さらにそれを、突出したレーシングカーとそれまでのトップグレードとの“離れすぎた間”を埋める最上級グレードとして数を絞って売り出せば人気を得ること必至。ポルシェで言えば、「911 GT3 R」と「911 GT3」の格差を埋めるモデルが「911 GT3 RS」だ。
スポーツモデルの魅力は形と性能だ。つまり、スポーツモデルにおける高級化はレーシングカーのようなスタイル(空力デバイス)とパフォーマンスを手に入れることと同義になる。生産数も限られるとなれば、人気に火がつくのは当然だろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
乗って遊ぶか、資産とするか
いったいどんな人が買っているのか。2パターンあると思う。筆者の周りに多いのは、やはり、サーキットに持ち込んで楽しむという人だ。頻繁というほどではないけれど、技量があってサーキット走行を楽しむというレベルの人たちである。もっとも、そういう人たちのなかからは、必ずトラック専用のレーシングカーへとグレードアップする人も出てくる。サーキットを本格的に楽しむのならレーシングカーのほうが楽しいに決まっているからだ。
フェラーリなどはワンメイクレースと並行する別軸としてクラブチャレンジやクラブGTといった、レースではないサーキットアクティビティーを始めており、それ専用のマシン(もちろん公道走行不可)もつくっている。競争はしたくないけれど腕を磨いてサーキット走行を極めたい、自分自身のペースでサーキット走行を楽しみたいという、全く別の欲求を満たす活動で、これが大いに当たった。
要するにトラック重視の高性能モデルは、ワークス活動を頂点とするスポーツモデルピラミッド(底辺にベースグレード)の重要なミドルステップになっているというわけだ。
もうひとつのパターンは、こういった高性能グレードは生産の数や期間を限定したモデルにどうしてもなってしまうため、投資としても有効だと考えられている。コレクションとしてそろえておけば値上がりも必至、というわけで、広いガレージの中で大切に保存されているというケースも少なくない。乗ってナンボのクルマではあるけれど、飾ってナンボの時代でもあるのだ(そのおかげで未来のスーパーカーマニアは新車同然のクラシックモデルに乗れるかも?)。
ピュアな内燃機関モデルは今後ますます少なくなっていく。高性能モデルを楽しむ場所も限定されるだろう(事実上なくなる)。これからはサーキットや専用コースで官能的なエンジンをガンガン回し大いにサウンドを響かせつつ、そのパフォーマンスを安全かつスリリングに楽しむことがスポーツカーの主流になっていく。トラック重視モデルは、公道からサーキットへのマインドチェンジを図る存在でもあるだろう。
(文=西川 淳/写真=ポルシェ、アストンマーティン、フェラーリ、webCG/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」NEW 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた 2025.12.18 デビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。
-
人気なのになぜ? 「アルピーヌA110」が生産終了になる不思議 2025.12.17 現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。
-
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか? 2025.12.15 2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
NEW
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。 -
NEW
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す
2025.12.19エディターから一言2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。 -
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた
2025.12.18デイリーコラムデビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。 -
フォルクスワーゲンID. Buzzプロ ロングホイールベース(前編)
2025.12.18あの多田哲哉の自動車放談現在の自動車界では珍しい、100%電動ミニバン「フォルクスワーゲンID. Buzz」。トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんが、実車に初めて試乗した感想は? -
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る
2025.12.18マッキナ あらモーダ!デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。







































