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かの地の自動車市場を席巻しタイ!? 三菱自動車はなぜタイに力を入れるのか?

2023.04.07 デイリーコラム 工藤 貴宏
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三菱自動車の最量販モデル

タイ王国の首都バンコクで、2023年3月22日~4月2日にかけて開催された「バンコクモーターショー」。その盛り上がりっぷりに関しては先日のコラムでお届けしたとおりである。

そんなバンコクモーターショーにおいて日本のクルマ好きとして興味深かったクルマのナンバーワンといえば、何をおいても三菱自動車(以下、三菱)の「XRTコンセプト」。バンコクモーターショーで初公開されたモデルだ。

といっても車名だけ見てもよく分からないのだが、平たく言ってしまうと次期「トライトン」に化粧を施したコンセプトカー。トライトンとは現地で販売されているピックアップトラックで、「トヨタ・ハイラックス」「日産ナバラ」「いすゞD-MAX」などのライバルとなっている。

公開されたXRTは市販車そのものではないが、車体自体は市販モデルと同じと考えてよさそう。つまり、ラッピングやタイヤ&ホイール、Aピラーのシュノーケル、荷台のロールバーやタイヤなどのカスタマイズを除けば、フルモデルチェンジを経て今夏に正式発表される予定の次期トライトンそのものである。……といっても、日本のクルマ好きの多くはそもそもトライトンといってもピンとこないかもしれない。何を隠そうトライトンは三菱にとって欠かせないモデルで、タイ国内向けにとどまらず、タイを生産拠点として世界約150もの国と地域に輸出する世界戦略車だ。

現在のところ日本には導入されていない(初代モデルは2006年から2011年にかけて正規導入された)けれど、「グローバルにおける三菱の最量販モデル」と言えば、その偉大さが理解できるんじゃないだろうか。三菱の大黒柱なのだ。

2023年3月22日~4月2日にかけて開催された「バンコクモーターショー」。ご覧のとおりの盛り上がりっぷりだ。
2023年3月22日~4月2日にかけて開催された「バンコクモーターショー」。ご覧のとおりの盛り上がりっぷりだ。拡大
三菱自動車が世界初披露した「XRTコンセプト」。次期型「トライトン」の姿を示唆するコンセプトモデルだ。
三菱自動車が世界初披露した「XRTコンセプト」。次期型「トライトン」の姿を示唆するコンセプトモデルだ。拡大
次期型「トライトン」は2023年の夏に正式発表される予定。基本的には「XRTコンセプト」からラッピングなどのカスタマイズを取り除いた姿になる。
次期型「トライトン」は2023年の夏に正式発表される予定。基本的には「XRTコンセプト」からラッピングなどのカスタマイズを取り除いた姿になる。拡大
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社長自らプレゼンを担当

9年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型(3代目)は2023年7月に正式発表予定で、「三菱独自開発のエンジンとラダーフレームを採用」とのこと。独自っていうのはつまり、ルノーや日産などアライアンスとの共同開発ではないことを意味する(日産ナバラの次期型は新型トライトンの兄弟車になるらしい)。三菱のラダーフレームのモデルは日本から消えてしまったけれど、海外にはしっかり残っているのだ。

現地取材した筆者が驚いたのは、モーターショーのプレスカンファレンスにおけるスピーチ。現地法人の偉い人ではなく三菱自動車の加藤隆雄社長が現地に赴いて自らプレゼンを担当したのである。

ちょっと想像してみてほしい。東京モーターショーのメルセデス・ベンツブースで、ドイツ本国から訪れた社長が自らプレゼンしたら「ベンツは日本にかなり力を入れているなー」ってことになるのは想像に難くない。三菱はタイにおいてそれをやったのである。つまり、三菱はどれだけタイに力を入れているの? って話なのだ。多くの日本人が知らない、三菱の“海の向こうの顔”がそこにあるといっていいかも。

といっても、いかにトライトンが重要なモデルだとしても、モーターショーのプレゼンだけを見て“三菱はとにかくタイ重視”と決めつけるには説得力として十分とは言い難いだろう。「タイには同社にとって生産台数世界最多の工場があるからじゃないの?」と言われてしまえば身もふたもない。それはそうだ。

どこかに三菱がタイを重視していることを裏づける資料はないだろうか……。

「バンコクモーターショー」でプレゼンテーションする三菱自動車の加藤隆雄社長。
「バンコクモーターショー」でプレゼンテーションする三菱自動車の加藤隆雄社長。拡大
「XRTコンセプト」にはAピラーにシュノーケルが備わっている。
「XRTコンセプト」にはAピラーにシュノーケルが備わっている。拡大
立派なリアデフ(ケース)をのぞき見る。リアサスペンションはリーフリジッドだ。
立派なリアデフ(ケース)をのぞき見る。リアサスペンションはリーフリジッドだ。拡大

アセアンに経営資源を集中

探してみたところ、ありましたよ。タイ(を含むアセアン)重視が明文化されている資料が。それは「Challenge 2025」として同社が2023年3月に発表した中期経営計画。こう言っては何だが、意外に簡単に見つかった(笑)。

その計画によると「当社の柱であるアセアン」に「事業中核地として経営資源を集中。台数、シェア、収益すべての拡大を目指す」。「当社の柱事業として、新中期計画中に多くの新型モデルを投入」とのこと。タイはアセアンを構成している国のひとつであり、今後の三菱はその地域に注力していくことが明記されているのだ。それにしてもタイを含むアセアンに「経営資源を集中」というのだからなかなかの言いっぷり。

グローバルでの販売比率は2022年度の見通しだとアセアン3割+オセアニア1割となっている(ちなみに日本は1割弱)。いっぽうで「Challenge 2025」に掲載されている今後の地域別販売台数見通しを見ると、2025年には全体の半分以上の車両をアセアンとオセアニア地域で販売するもくろみになっているのである。となれば鼻息が荒くなるのも当然だろう。

加えて、三菱の決算報告資料で現時点での同社の国別生産台数を見ると、日本の次に生産台数が多い国はなんとタイ。そのうえ現地では、単に三菱の知名度が高いだけでなく日本や欧米以上にブランドイメージも伴っているのだから、同社がタイに力を入れるのも納得だ。

そういう数字や実情を見ると、昨年末にバズったネット記事の「トヨタは日本を捨ててタイに行く」じゃないけど、三菱はいつタイに本拠地を移してもおかしくないのでは、という印象にさえなってくる。

現地では「プリティ」と呼ばれるステージモデル。後ろの車両は日本未導入の「エクスパンダ― クロス」。
現地では「プリティ」と呼ばれるステージモデル。後ろの車両は日本未導入の「エクスパンダ― クロス」。拡大
ずらりと並んだ「プリティ」の皆さん。衣装も色とりどりだ。
ずらりと並んだ「プリティ」の皆さん。衣装も色とりどりだ。拡大
「エクスパンダ― クロス」のバンパー下に示された最低地上高220mmを示すパネルが誇らしげ。
「エクスパンダ― クロス」のバンパー下に示された最低地上高220mmを示すパネルが誇らしげ。拡大

三菱にとっての“第2の本国”

というわけで三菱は明確に、タイを中心としたアセアンに力を入れている。その理由は、世界戦略車を生産する拠点であることにとどまらず、三菱のブランドイメージが高く、今後もますます成長が見込め、より稼げることが期待できる市場だからなのだ。タイを生産拠点として活用すれば、アセアン域内には関税なしで車両を輸出できるのも大きい。

「タイは弊社にとって非常に重要なマーケットです。タイ政府のバックアップを受けながら長年にわたり事業を進めており、(国内需要を賄うだけでなく)輸出拠点としても今や欠かせない存在となっています。また“ミツビシ”というブランドもよく知られています」

「しばらく(タイをはじめアセアンでは)新しいモデルがありませんでしたが、今後は毎年のように新型車を投入していきます。もちろん電動車も用意。中国のメーカーに負けないようにプレゼンスを高めていくつもりです」

加藤社長はタイにおける三菱の立ち位置と今後をそう説明する。今や三菱にとって、タイは“第2の本国”といっていいだろう。

ところで、ハイラックスが一定の販売台数を保っているだけに、そろそろ日本にもトライトンが復活してもいいと思うのですが、いかがですかね?

(文と写真=工藤貴宏/編集=藤沢 勝)

アジアクロスカントリーラリー2022で総合優勝を果たしたチーム三菱ラリーアートの「トライトン」(現行モデル)。
アジアクロスカントリーラリー2022で総合優勝を果たしたチーム三菱ラリーアートの「トライトン」(現行モデル)。拡大
チーム三菱ラリーアートの総合監督は増岡 浩さん。初参戦での総合優勝は快挙だ。
チーム三菱ラリーアートの総合監督は増岡 浩さん。初参戦での総合優勝は快挙だ。拡大
トヨタの「ハイラックス」が日本でもカタログモデルとして健闘しているだけに、「三菱トライトン」にも可能性があるのではないだろうか。
トヨタの「ハイラックス」が日本でもカタログモデルとして健闘しているだけに、「三菱トライトン」にも可能性があるのではないだろうか。拡大
工藤 貴宏

工藤 貴宏

物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。

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