国内でも売ってほしい! バンコクで人気を集める“日本にはない日本車”たち
2024.04.08 デイリーコラム世界一アツいモーターショー!?
サワディカーップ。花粉が飛び交う日本を離れ、満席のエコノミークラスに揺られて6時間。タイの首都バンコクへ行ってきました。
目的は観光……ではなく「バンコク国際モーターショー」。バンコクでは毎年3月末~4月はじめと11月末~12月はじめの2つの大きなモーターショー(それぞれ主催者が違う)が開催されるのですが、そのうち“3月末~4月はじめのモーターショー”を見てきたというわけ。日本の自動車メディアの人は“春のモーターショー”なんて呼んだりするけれど、それは日本の季節感。実はタイの4月上旬は“一年で一番暑い時期”なので現地の人には“春のモーターショー”と言っても全く通じませんのであしからず。
とまぁ話が脱線したけれど、そんなバンコクのモーターショーのすごさは実は来場者数が(おそらく)世界一だということ。2023年の春のモーターショーの来場者数は約160万人で、それは第1回「ジャパンモビリティショー」(111万2000人)はもちろん、規模が大きいといわれている中国の「上海モーターショー」(2023年開催時に91万人)や「北京国際自動車ショー」(コロナ禍前の2018年に82万人)をも上回る。
その大きな理由は会場内だとローン金利などお得な条件で新車の購入予約ができちゃったりする(そして招待券を多く配っている)からだけれど、オワコンが叫ばれるモーターショーのなかでは、このショーは勝ち組なのだ。
それにしても、会場に入って驚いたのは中国車の台頭。コロナ禍前は「ほぼ日本車ショー」だったことが信じられないほど、中国メーカーの出展が増えているのです。ここだけの話、2025年はもっと中国ブランドの出展が増えるんだとか。日本の自動車ファンとしてはちょっと複雑な気分。この勢いはちょっと……じゃなくてかなりヤバいです。タイの自動車市場はある意味、東南アジアの縮図なので、ほかの国でも……。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
よく見るとどこかが違う
もうひとつ日本のクルマ好きとして興味深いのは、日本では見かけない日本車の数々。何を隠そう、ここからが本コラムの本題です。
例えばトヨタブースでは「ヤリス」や「ヤリス クロス」に会えるのですが、どちらもボクらが知っているクルマじゃない……。最初は目の錯覚かと思ったけれど、そうでもないみたいで、ヤリスはひと回り車体が大きく(アジア向け仕様)、ヤリス クロスはDNGAプラットフォームを使ってダイハツが中心となり開発した、いわば“ライズのお兄さん”的な存在だったりする。こちらも日本(&欧州)向けよりひと回り大きな車体。“ミニRAV4”的な雰囲気は、これはこれでアリかと。
おっと、トヨタブースには「カローラ クロス」もあった。さすがにこれは日本仕様車と同じデザインだろう……と思ったら、顔が違う。というかこのグリルの処理は「クラウン エステート」とも同じトヨタの最新の顔つきじゃないですか。しかも、お世辞抜きに端正でカッコいい「GRスポーツ」まであってちょっとうらやましいぞ。これはマジで日本でも欲しいと思う。日本でも選べるようにしてほしいなあ。
ホンダブースには「シビック」があるけれど、よく見ると日本で売っているハッチバックではなくて日本未発売のセダンじゃないですか。しかも「RS」もあったりしてうらやましいなあ。ただ、RSの中身を見ると、2024年の秋に日本でも追加される「チューニングしたターボエンジンをはじめ、けっこう手が入ったスポーツモデル」ではなく、「ハイブリッドのパワートレインは標準仕様と共通で、内外装をスポーティーに仕立てたグレード」という位置づけっぽい。それならあんまりうらやましくはないか……。
タイのホンダ車は内外装をドレスアップした「Modulo(モデューロ)」仕様が大人気。なぜならタイの人たちは見た目をカスタムしたクルマが大好きだからだ。
「ホンダ・シティ」はエンジンにも注目
ところでRSといえば、実はタイには「ホンダ・シティ」もある。そしてRSグレードを展開している。
シティは何を隠そう日本で「グレイス」として販売していた小型セダンの現行世代で、かつて「ジャズ」として販売していたハッチバック版となる「シティ ハッチバック」もラインナップされている。先代までは「フィット」と全く同じだったけれど、新型になって車体自体がフィットと決別(プラットフォームは同じ)しフィットよりも大型化したのが興味深いところ。見たところ、“ミニシビック”って感じです。
みなさんはフィットとこのシティ ハッチバックとどっちが好みでしょうかね。個人的には日本のフィットのほうが好きだな……と言ってみたり。ただ、シティに積むVTECターボ(1リッターの3気筒で最高出力122PS)は日本にないだけに魅力的(フィットと同じe:HEVも用意)。日本でも「フィットRS」に積んだら楽しそうだ。
ところで、ホンダブースには顔つきが未来的になった「ヴェゼル」も……と思ったら、なんとヴェゼルではなく電気自動車「e:Ny1」じゃないですか。実はウワモノはヴェゼルと共用だけど、プラットフォームはヴェゼルとは異なるEV用というのがこのクルマの正体。日本車メーカーでの「タイ現地生産EV第1号」(現地でのモデル名は「e:N1」)で、一般販売はしないけどレンタカー用に供給するのだとか。
日本でもウケる! 「パジェロスポーツ」
ところで、日本では売っていないけど日本にも導入してほしいクルマだと強く思うのが三菱の「パジェロスポーツ」。ひとことで言えばピックアップトラック「トライトン」から派生したフレーム付きのSUVですね。
現行モデルは旧型トライトンの中身がベース(エンジンは新型トライトンと同じものにアップデートされた)ですが、将来的に新型トライトンベースになるのは疑いようのないところ。その時には新型トライトン同様に日本デビューもアリなんじゃないでしょうかね。
ボクが三菱の人だったら、「パジェロ」待望論が根強く渦巻く日本市場へ向けて「ほーら、キミたちが待ち望んでいるパジェロだよ!」って導入するんだけどなあ。熱心なパジェロファンからは「違うだろ!」って怒られちゃうだろうけど。
でも、バンコク国際モーターショー会場内で個人的に最も日本で売ってほしいと思ったのは「マツダBT-50」。あっ、「CX-50」の打ち間違いじゃなくて「BT」です。
デザインも中身もいいトラック
クルマの知識が豊富な読者諸兄の間でも知られていない車種かもしれないけれど、これがなんと鼓動デザインを身にまとったピックアップトラック。日本で「トヨタ・ハイラックス」が想定以上の人気を博し、トライトンも復活した今、マツダも「最高にクールな乗り物」として日本に導入したら爆発的ヒット……までは難しいかもしれないけれど、話題づくりにはなりそうですよね。インテリアも「いすゞD-MAX」とは異なるマツダのオリジナル仕立てになっていますね。
えっ、いすゞ? D-MAX? どういうこと?
実はこのBT-50はタイでナンバーワン人気を誇るピックアップトラックであるいすゞD-MAXと基本設計を共にするOEMモデルなのでした。だから製造もマツダではなくいすゞですが、まあそんなことはどうでもいいじゃないですか。
というわけで、タイのモーターショーへ行ってみたら車名は同じだけどなんだか違う日本車や日本で売っていない日本車がたくさんあって面白い、そしてパジェロスポーツとマツダBT-50はぜひ日本でも売ってほしい……というのが今回の結論でした。
ところで、日本から輸入される「シビック タイプR」の現地価格はいくらだと思います?
なんと約1600万円。「トヨタ・アルファード」の新型もだいたい1600万円から1800万円くらい。驚くと同時に「日本人でよかった」と思っちゃいました。高価な理由は関税をはじめとする税金が高いからですが、とはいえバンコクの街の中心部はそんな超高級車アルファードが(まだほとんど先代だけれど)東京並みにバンバン走っているのだからスゴいですなあ。
(文と写真=工藤貴宏/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
米国に130億ドルの巨額投資! 苦境に立つステランティスはこれで再起するのか? 2025.10.31 ジープやクライスラーなどのブランドを擁するステランティスが、米国に130億ドルの投資をすると発表。彼らはなぜ、世界有数の巨大市場でこれほどのテコ入れを迫られることになったのか? 北米市場の現状から、巨大自動車グループの再起の可能性を探る。
-
なぜ“原付チャリ”の排気量リミットは50ccから125ccになったのか? 2025.10.30 “原チャリ”として知られてきた小排気量バイクの区分けが、2025年11月生産の車両から変わる。なぜ制度は変わったのか? 新基準がわれわれユーザーにもたらすメリットは? ホンダの新型バイク発売を機に考える。
-
クロスドメイン統合制御で車両挙動が激変 Astemoの最新技術を実車で試す 2025.10.29 日本の3大サプライヤーのひとつであるAstemoの最先端技術を体験。駆動から制動、操舵までを一手に引き受けるAstemoの強みは、これらをソフトウエアで統合制御できることだ。実車に装着してテストコースを走った印象をお届けする。
-
デビューから12年でさらなる改良モデルが登場! 3代目「レクサスIS」の“熟れ具合”を検証する 2025.10.27 国産スポーツセダンでは異例の“12年モノ”となる「レクサスIS」。長寿の秘密はどこにある? 素性の良さなのか、メーカー都合なのか、それとも世界的な潮流なのか。その商品力と将来性について識者が論じる。
-
自動車大国のドイツがNO! ゆらぐEUのエンジン車規制とBEV普及の行方 2025.10.24 「2035年にエンジン車の新車販売を実質的に禁止する」というEUに、ドイツが明確に反旗を翻した。欧州随一の自動車大国が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」と表明した格好だが、BEVの普及にはどんな影響があるのか?
-
NEW
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
NEW
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
NEW
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
NEW
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
NEW
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
NEW
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。


















