バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件
2026.05.06 デイリーコラムクルマをオトクに買えるモーターショー
「ランドクルーザー“FJ”」が正式発表されるらしいよ、バンコクのモーターショーで!
……そんなうわさをキャッチした筆者はさっそくタイの首都バンコクへ。バンコクでは毎年2回の大きなモーターショー(主催者が異なる)があり、今回出かけたのは“春のモーターショー”。実はこのイベントが侮れないんです。
なにが侮れないかといえば、来場者数。例えばジャパンモビリティショーの来場者は2023年秋が無料ゾーンも含めて111万人で、2025年秋は101万人。「規模が大きい」といわれる中国のモーターショーでも、2025年5月の上海モーターショーは101万人でした。
ところがバンコクモーターショーは毎年160万人超え。3月25日から4月5日にかけて開催された今年はなんと179万8312人が来場したのだとか。これは、筆者の知る限り世界最多の来場者数。世界的に「モーターショーのオワコン化」なんて叫ばれているなか、バンコクは人を集めすぎでしょ。
そこまで人を引き寄せる、他のモーターショーとは明確に異なる理由はしっかりある。それは「会場でオトクにクルマを購入できる」からだ。会場内の各ブース裏には商談スペースが用意され(トヨタともなればそれも広大!)、そこで新車の購入予約ができる。そのうえ会場限定の値引きとかローンの特別金利をやっているのでモーターショーはクルマを見るだけでなく「即売会かつバーゲン会場」というわけです。「どうせ新車を買うなら、オトクに買いたい」という消費者の心をガッツリつかんでいる感じですね。ここでの予約受注はタイの年間新車販売台数の1割近くにもなり、さすがにそうなれば多額の出展料を払ってブースを構えるメーカー(インポーター)も参加しないなんていう選択はないでしょう。
入場料は100バーツ(約500円)ですが、主催者によると多くの来場者を呼ぶための策として「無料招待券を数十万枚配布している」とのこと。「たくさん人を呼ぶのがわれわれの仕事。それでクルマがたくさん売れればみんなハッピーじゃないか」(主催者)と“タイ以外”のモーターショーとはかなり方向性が違うんですが、それが成功の秘訣(ひけつ)みたいです。
日本人注目の2モデル
というわけでランドクルーザー“FJ”でした。すでに実車は日本でも公開されているわけですが、正式発表&発売はなんとタイが初めて。となれば気になるのが世界で初めて提示される価格ですが、タイでは128万9000バーツ(約645万円)。高っ!
ただ、ここまで高いのには理由があってひとつは価格に物品税が含まれているから(日本は消費税が含まれているけど)。その影響もあってタイでは日本よりも新車価格が高くなりがちです。
もうひとつは為替の影響。いまタイバーツに対して日本円がとんでもなく安く、1バーツは約5円。かつて1バーツが3円なんていう時期もあったし、せめて1バーツを4円として計算すれば「515万円」ほどでそこから物品税を差し引けばなんとか適正価格という感じでしょうか。
まあこの価格に関しては現地でも「もうちょっとで『フォーチュナー』(『ハイラックス』と共通メカニズムでつくられたSUV)に届くのはさすがに高すぎでは」なんて言われているようですが。
そしてこのバンコクショーでは日本人にとってもう一台の注目モデルがありました。それは「日産キックス」。キックスはもうすぐ日本でも新型が登場するとうわさされていますが、タイへ出かけて「新型『キックスe-POWER』初公開」なんて聞くと「日本よりも先に新型登場か! これは必見!」と期待しないわけにはいかないでしょ。
というわけでベールを脱いだ新型キックスは、確かに見たことがない顔つき。これまでの「Vモーショングリル」とはまったく違う、先進的かつスッキリ感がいいですね。
ただ、よくみるとプロポーションは先代の面影が強すぎ……っていうか同じ? というわけでタイで登場した新型キックスは、フルモデルチェンジする(といわれている)日本仕様とは別であろう“大規模マイナーチェンジ”だったというわけ。でも、このデザインはなかなかカッコいいと筆者は思うのでした。
絶対王者の陥落
さて、バンコクモーターショーの面白いところは会場でクルマを買えることですが、となれば気になるのが販売状況。実は会期中の予約受注台数が公表されていて、それを見ると4位が1万0537台でMG、3位が1万5088台でOMODA JAECO、2位が1万5750台でトヨタ、そしてトップは1万7354台でBYDでした。
……実はこのランキングは大きな事件。これまで数十年にわたり絶対王者として君臨していたトヨタがついに陥落し、ついにBYDが頂点に立ったのですから。何を隠そうOMODA JAECO(奇瑞汽車)もMG(上海汽車集団)も中国車であり、トップ10内は2位のトヨタと10位のホンダ以外はすべて中国車という状況。タイといえばコロナ前までは日本車が新車販売の9割以上を占める日本車ラブだった国。当然モーターショー会場内での売り上げランキングも上位は日本車が独占だったわけで……。それがたった6年でここまで中国車に浸食されてしまうなんて。
この現実を見てしまうと、日本人としてはなんとも微妙な気持ちとしか言いようがない心境。少なくとも「中国車なんて」と笑っていられる時代はとっくに過ぎ去っているという認識だけは持ったほうがいいでしょうね。
(文と写真=工藤貴宏/編集=藤沢 勝)

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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