驚異のスペックもブームのうち? 「最大トルク1000N・m」の新車が続々登場する理由
2024.11.11 デイリーコラムトランスミッションも決め手のひとつ
「われわれと加速で勝負するなんて、無駄な抵抗はよせ」。BEV陣営はそう言うだろう。
「やってみなきゃわからない。俺たちには音と振動という強い味方がいる!」。そう応じる内燃機関車(ICEV)陣営の最新兵器が1000N・mという途方もない最大トルクスペックだった。
このところ立て続けに最大トルク1000N・mを誇る新型モデルの国際試乗会があった。V8ツインターボに電気モーターでPHVとなった「ベントレー・コンチネンタルGTスピード」と新型「BMW M5」のセダン&ツーリング、ピュアな内燃機関ながらV12ツインターボの「アストンマーティン・ヴァンキッシュ」だ。
共通点としては、いずれのモデルにもZF製8段AT「8HP」が使われていることを挙げていいだろう(ただし世代やレイアウトは異なる)。つまり、1000N・mとピッタリ合わされた最大トルクスペックは、最新のハイパフォーマンスエンジンに対応するトランスミッション側の境界値であるとみることもできるだろう。
そうまでして最大トルクを上げておきたい理由は何か? もちろん高性能マシンの進化における順当なステップでもあるわけだが、開発陣の念頭には、例えばメルセデスの「EQE AMG」や「ポルシェ・タイカン」といった“ビッグトルクBEV”の台頭もあったに違いない。
とにかく最新の高性能BEVときたら、とんでもないトルクでとんでもない車重をぶっ飛ばす。ゼロ発進加速のスリリングさは、いっときICEスーパーカーの速さなどすべて忘れさせてしまうほど強烈だった。もちろん、ICEV軍団だって黙ってはいられない。彼らにしたところである程度の電動化は避けて通れず、PHVともなればそれなりに重量もかさんでくるわけで、山盛りのトルクはあっても決して邪魔なもんじゃない、という事情もあった。
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情緒的なるBEVへの抵抗
その結果、どうだったか。はっきりいって中間加速フィールは超絶すごかった。なにしろ、1000N・mの威力といえばBEVでもかなりのものだ。PHVだとしても車重はBEVより軽いわけで、そうなれば1000N・mの中間加速フィールはそれ以上である。
さらに、ICEVには音と振動という強力な助っ人があった。乗り手を“より速い気分”にさせる、それは最も有効な手段の“ふたつ”だ。PHVのコンチネンタルGTスピードとM5は、エンジンと電気モーターとのスムーズな協調制御にも気を使っているから、脳みそも震えるほどのバイブレーションは皆無だけれど、電気モーターに頼らないV12ツインターボのヴァンキッシュなら、音と振動がその速さに二重の輪をかける。
もちろん、停止状態からのカタパルト発進ではまだBEVに軍配が上がるだろう。さらにいえば最高出力2000PSだの2500PSだのと、破天荒な最高出力スペックでもクチプロレスを制するのはBEVかもしれない。数字の上では、いくら重量ハンディがBEVにあろうとも、まさに「無駄な抵抗はよせ」な状況が続くに違いない。
それでもエンジン付きモデルは、モーターとターボという2つの“回転パワー”を駆使してシンプルな電気モーターに対抗していくだろう。レジスタンスは続くのだ。今ではターボエンジンが不得意な低回転域を電気モーターに担わせることによって、より大きなタービンを、なんならそれも電気で弾みをつけつつ大いに回すことができるようになった。高回転域において有能で官能的なエンジンをフルに生かすシステムがプラグインハイブリッドシステムのもうひとつのメリット、エンジンにとって、であるともいっていい。
ベントレーやBMWのV8ハイブリッドパワートレインは、高回転域におけるエンジンの官能性において過去になく秀でた存在でもあった。レジスタンスはいつだって情緒的なのだ。無駄な抵抗は、そもそも多くのユーザーにとって無縁で無駄に思える“ハイパフォーマンス”にエモーションという存在理由を与えている。それが、高性能マシンにおける付加価値の正体でもあった。
(文=西川 淳/写真=ベントレーモーターズ、アストンマーティン、BMW、ロータス・カーズ、ブガッティ、ZF/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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