第17戦韓国GP「アロンソ、ポイントリーダーの理由」【F1 2010 続報】
2010.10.25 自動車ニュース【F1 2010 続報】第17戦韓国GP「アロンソ、ポイントリーダーの理由」
2010年10月24日、韓国・インターナショナル・サーキットで開催されたF1世界選手権第17戦韓国GP。サーキット建設が遅れ、開催すら危ぶまれた韓国初のGPは何とか行われたものの、激しい雨の影響で予想外の展開に。先行するレッドブルの2台がまさかのリタイア、その背後で虎視眈々(たんたん)と表彰台を狙っていたフェラーリのエースが敵失で勝利を得て、チャンピオンシップテーブルの最上に名前を載せた。
■5番目の東アジアGP
F1の歴史がない国で、まったく新しいサーキットを舞台にGP初開催、と聞いても驚きはしないだろう。1999年のマレーシアにはじまり、初開催ではないが初コースのアメリカ(インディアナポリスF1コース/2000年)、バーレーン(2004年)、中国(2004年)、トルコ(2005年)、シンガポール(2008年)、スペイン(バレンシア/2008年)そしてアブダビ(2009年)と、近年相次いで新顔が仲間入りを果たしてきたことを考えれば、これまではモータースポーツがそれほど盛んではなかった韓国でGPが開かれることになっても不思議はない。
F1は、かつての中心地ヨーロッパから、その軸足を新興国へとシフトしている。韓国の登場で、カレンダー中の東アジアの国は日本を含め5つとなった。
サーキットは、ソウルから370km離れた、朝鮮半島南西にある霊岩(ヨンアム)の干拓地に立地。最近の新設サーキットのほとんどを手がけたヘルマン・ティルケの設計となる。最長1.2kmのストレートの後のビッグブレーキングターンやハイ/ロースピードコーナーを織り交ぜた構成になるが、一部が市街地区域に指定されており、その部分は壁に囲まれたストリートコースの様相を呈していた。
一時はレース開催が危ぶまれるほど建設は遅れをとった。FIA(国際自動車連盟)の最終ゴーサインが出たのは日本GPが終わった直後の10月12日という異例の遅さ。一気呵成(かせい)に仕上げられるはずだったが、レースウィークエンドに入っても各所で工事が行われるという、綱渡りの運営だった。
何とか開催にこぎ着け、迎えた決勝日は雨。敷かれたばかりのアスファルトを激しく叩く雨粒が、残り3戦でタイトルをわが身に手繰り寄せんとする5人のドライバーを等しく濡らし、そして各者の運命は大きく揺さぶられた。
■レッドブルの悪夢
ドライで行われた土曜日午後の予選は、レッドブルによる今年8度目のフロントロー独占で終わった。
1位は前戦日本GPでポール・トゥ・ウィンを達成したセバスチャン・ベッテル、2位はポイントリーダーのマーク・ウェバー。その差はわずか0.074秒だったが、チャンピオンシップでウェバーを追うベッテルと、追われるポイントリーダーのウェバーの“心持ち”の違いは、予選後の両者の表情からもうかがえた。前戦からの余勢を駆るベッテルの落ち着きのなかにある自信、一方落ち着き払っているようだが若武者の追撃に速さで負けているウェバーの焦り……。この神経戦は、レース中如実にあらわれることになる。
明けて日曜日の天候は、予報が当たり雨。しかもスタート時間の午後3時に激しくなるということで、10分遅れで、セーフティカーが先導し徐行のままスタートすることになった。ベッテル、ウェバーに続き、フェルナンド・アロンソ、ルイス・ハミルトン、ニコ・ロズベルグ、フェリッペ・マッサらがグリッド通りの隊列を組んで周回を重ねるが、水煙に視界を阻まれたドライバーは口々に走行困難を無線で訴え、3周目走行中にレッドフラッグが提示され、レースは中断となった。
約50分後、セーフティカーを先頭に再開されたがコンディション回復は遅れ、セーフティカーが戻り本当のレースがはじまったのは定刻から1時間40分を過ぎた55周レースの18周目からだった。ベッテルがトップを守り、ウェバー、アロンソと続いたが、この週末好調だったニコ・ロズベルグがハミルトンを抜き4位にポジションアップ。その後方ではやはり上向き調子のミハエル・シューマッハーが、ロバート・クビサをオーバーテイクし9位から8位にあがっていた。
レッドブルの悪夢の第一幕は、再開から2周しかたっていない19周目。2位ウェバーが縁石に乗り上げて挙動を乱しウォールにヒット、レッドブルは反対側に跳ね返り、その途中で無実のロズベルグを巻き添えにしてコース脇に止まった。ポイントリーダーとしての保身の結果か、自らも認める決定的なミスで、今シーズン2度目のリタイアをきっした。
ライバルの涙はみつの味。首位ベッテルと2位にあがったアロンソには、そのままの順位でゴールすれば選手権ポイントでウェバーを抜ける可能性が出てきた。
なぜ可能性か? レース前、ともに206点のベッテル、アロンソに対し、ウェバーは220点だった。ベッテルが優勝すれば25点、アロンソ2位なら18点が加算され、ベッテル231点、アロンソ224点となるが、中断時間を挟んだレースは日没により途中終了になる可能性もあった。レギュレーション上、規定周回数の75%未満で終わった場合はポイントは半減される。今回の場合、42周を過ぎるか否かで、チャンピオンシップリーダーが誰になるかも変わるのだ。
■残り10周、ベッテルのエンジン止まる
ウェバーのクラッシュで再び出番を迎えたセーフティカーが去ると、ベッテルはアロンソに3秒前後のマージンを築き、その間コースコンディションも上向きはじめる。28周目、5位でペースのあがらないバトンがピットに入り、浅溝インターミディエイトタイヤに履き替えるギャンブルに出たが、早々にセバスチャン・ブエミとティモ・グロックの接触によるセーフティカーでその賭けは失敗に終わる。
徐行走行中の32周目、ハミルトン、マッサ、シューマッハーら上位陣もピットへ駆け込み、インターミディエイトへ交換。翌周にはトップのベッテルと2位アロンソも同様のアクションをとるが、フェラーリの交換作業に時間がかかり、アロンソはハミルトンに2位の座を奪われてしまう。それも35周目にレースが再開すると、ブレーキに手を焼くハミルトンが1コーナーでコースオフしたことで、アロンソが再び2位に返り咲いた。
アロンソはベッテルにプレッシャーをかけ、ミスを誘おうとするが、タイヤをいたわるようにというチームからの無線で自制をかけた。レースも終盤の40周目、1位ベッテルの2.3秒後方に2位アロンソ、アロンソの1.8秒後ろに3位ハミルトンというオーダーで落ち着きつつあった。そしてハーフポイントの境目、42周を過ぎた。
水煙も薄くなったコースでは、今度は暗闇が視界の邪魔をしはじめた。いつでもチェッカードフラッグが振られる可能性があった。そんな状況下の46周目、先頭を走るベッテルのマシンが失速した。「RB6」に搭載されるルノーエンジンが白煙をあげ、ストップ。レッドブルの首脳陣は頭を横に振り、フェラーリとマクラーレンのガレージは驚喜した。
■まだわからない
敵失で得た勝利とはいえ、残り2戦でアロンソがチャンピオンシップ首位の座にのぼりつめたのには強運以上の理由がある。開幕戦バーレーンGP以来久しく勝ちがなかったが、(チームオーダー騒動が起きた)7月の第11戦ドイツGPで優勝して以来、7レースで4勝し、その他ポディウムに2度のぼったパフォーマンスはライバルを圧倒しているのだ。
このレース後のチャンピオンシップトップ5は、
1位 アロンソ 231点(↑)
2位 ウェバー 220点(↓)
3位 ハミルトン 210点(↑)
4位 ベッテル 206点(↓)
5位 バトン 189点(-)
バトンはアロンソから42点引き離され、数字上は可能性を残すものの事実上タイトル争いから脱落した。
アロンソと同点だったベッテルは無得点で4位に落ちた。首位アロンソとの差は1勝分の25点。ブラジル、アブダビと2連勝し50点満点を獲得したとしても、アロンソの結果次第ではチャンピオンになれない。
アロンソにとっては3度目のタイトルを大きく引き寄せた1勝だったが、当の本人はチャンピオンシップについて「(タイトなタイトル争いは)何も変わっていない」と落ち着き払っている。「新しいポイントシステムだと、1レースでどんなことも起きる。自分がポイントを取れなかったら、ライバルに25点も奪われるのだから」
次戦は、昨年バトンが初の栄冠を手にし、ウェバーが優勝したブラジルGP。決勝は11月7日に行われる。
(文=bg)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |