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大きなボディーに小さなエンジンを積んだクルマを考察する

2025.08.20 デイリーコラム 沼田 亨
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わずか9PSで4人乗り

前回の「小さなボディーに大きなエンジンを積んだクルマ」(参照)に続いて今回はその逆、「大きなボディーに小さなエンジンを積んだクルマ」を考察してみよう。最初にお断りしておくが、先日、筆者のコラム(参照)で取り上げた「フォルクスワーゲン・タイプ2」の初期型マイクロバスのように、ボディーの全幅は5ナンバー枠を超えて乗車定員8人だがエンジンは1131ccのフラット4、なんてモデルを含めると話がややこしくなるので、候補車両は原則としてセダンなど背の低いモデルを対象とさせていただく。

さて、かつては「大きなボディーに小さなエンジン」といえばフランス車、というのがクルマ好きの共通認識だった。フランス人はよく言えば合理的、悪く言えばケチなので……という説はさておき、実際問題としてエンジン出力に応じて税金が課される課税馬力(CV)という制度が存在するためである。

その課税馬力を車名に冠し、1948年に量産化された「シトロエン2CV」。全長×全幅×全高=3780×1480×1600mmという、幅と高さは現行の軽ハイトワゴンとほぼ同じだが、40cm近く長いボディーに搭載された空冷水平対向2気筒OHVエンジンは375ccで最高出力はわずか9PS。車重が500kgに抑えられていたとはいえ、あまりに非力ということで1955年には425ccに拡大され、1968年には602cc仕様を追加し、やがてこれが標準となった。

シトロエン2CVと同時代、1947年から量産化された同じフランスの「ルノー4CV」。日本でも日野自動車でライセンス生産されたモデルだが、課税馬力が2倍であることからも明らかなようにエンジンは760cc水冷直4 OHVで19PSだった。だがボディーサイズは全長×全幅×全高=3640×1430×1420mmと2CVよりひと回り小さかったといえば、2CVの特異性がお分かりいただけるだろう。

1951年「シトロエン2CV」。最高出力9PSの375ccの空冷フラットツインで最高速は55km/hしか出なかったが、燃費はリッターあたり20~25kmと優秀だった。
1951年「シトロエン2CV」。最高出力9PSの375ccの空冷フラットツインで最高速は55km/hしか出なかったが、燃費はリッターあたり20~25kmと優秀だった。拡大
1954年にはフラットツインを425cc・12PSに拡大し、最高速は75km/hに向上。写真のように大人4人がちゃんと乗れた。
1954年にはフラットツインを425cc・12PSに拡大し、最高速は75km/hに向上。写真のように大人4人がちゃんと乗れた。拡大
「2CV」のFFに対してRRとレイアウトも真逆だった1948年「ルノー4CV」。日本で日野がライセンス生産したモデルは小型タクシーにも大量に使われた。
「2CV」のFFに対してRRとレイアウトも真逆だった1948年「ルノー4CV」。日本で日野がライセンス生産したモデルは小型タクシーにも大量に使われた。拡大

2気筒848ccでプリウスサイズを動かす

誕生が1955年、すなわちちょうど70年も前とは信じられないほど未来的な姿をしていた「シトロエンDS」。これも弟分の2CVと同じく「大きなボディーに小さなエンジン」だった。初期型である「DS19」は全長×全幅×全高=4800×1790×1470mm、ホイールベース=3125mmという立派なサイズだったのに対して、エンジンは最高出力75PSの1.9リッター直4 OHV。1959年に追加された「ブレーク」(ワゴン)では全長4975mmとほぼ5mに達したがエンジンは同じだった。

DSがらみだと、市販車ではないが記しておきたいのが、1968年に当時のフラッグシップである「DS21」をベースにつくられた「プレジデンシャル リムジン」、すなわち大統領専用車。全長は6530mmまでストレッチされ拡幅もされていたが、エンジンはDS21と同じ2.1リッター直4 OHVのままだったという。だが、つくらせたシャルル・ドゴール大統領は翌1969年に退任したため、使われたのはわずか数回だったとか。

ちなみに次のジョルジュ・ポンピドゥー大統領の専用車として、「シトロエンSM」をベースに全長5.6mまで延ばして4ドアのオープン仕様としたプレジデンシャル リムジンは現存している。

同じフランス車で、ボディーサイズ比のエンジンの小ささではシトロエンをしのぐチャンピオンか? と思われるのが1954年に登場した「パナール・ディナZ」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4570×1610×1450mmで、車幅は150mm狭いものの長さと高さは先代「トヨタ・プリウス」とほぼ同じ。だが前輪を駆動するエンジンはわずか848ccの空冷水平対向2気筒OHV。しかし、ボディーパネルはもとよりフレームまでアルミ製として車重を780kgに抑えるなど、軽量化と空力性能を追求した設計によって最高速130km/hが可能とうたった、合理性の塊のようなクルマだった。

1960年に登場した後継モデルの「PL17」は、コストと耐久性の問題からボディーをアルミ製からスチール製とし、同時に全幅を1670mmまで拡大して乗車定員を5人から6人に増やした。当然ながら車重は805kgに増したが、エンジンは848ccのままだった。

「シトロエンDS19」。宇宙船にもたとえられた姿は永遠のアバンギャルドといえる。2015年の世界を想定した映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(1989年)では空飛ぶタクシーのベースとなっていた。
「シトロエンDS19」。宇宙船にもたとえられた姿は永遠のアバンギャルドといえる。2015年の世界を想定した映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(1989年)では空飛ぶタクシーのベースとなっていた。拡大
「シトロエンDS21プレジデンシャル リムジン」。DSの「デカポタブル」(コンバーチブル)なども手がけていたカロシェ(カロッツェリア)のアンリ・シャプロンが製作した。
「シトロエンDS21プレジデンシャル リムジン」。DSの「デカポタブル」(コンバーチブル)なども手がけていたカロシェ(カロッツェリア)のアンリ・シャプロンが製作した。拡大
「シトロエンDS」に負けずに前衛的だった「パナール・ディナZ」。パナールは経営難から1965年に皮肉なことにシトロエンに吸収され、2年後には自動車生産を終了した。
「シトロエンDS」に負けずに前衛的だった「パナール・ディナZ」。パナールは経営難から1965年に皮肉なことにシトロエンに吸収され、2年後には自動車生産を終了した。拡大

5m超のボディーに1.3リッター3気筒

大柄なセダンといえば、往年のアメリカ車を思い浮かべる人が多いのではないだろうか? だが、それらは大排気量のV8エンジンを積んでいるはず……というのは間違いではないが、すべてがそうというわけではなかった。米車が最も大きかったのは排ガス規制の強化と石油危機によるダウンサイズが始まる前、1960年代後半から1970年代半ばあたり。この時代のフルサイズは、ゼネラルモーターズ(GM)のシボレー、フォードのフォード、クライスラーのプリムスという普及ブランドでも軒並み全長5.5m前後、全幅約2mの巨大なボディーを持っていた。だが排ガス規制によるパワーダウンが始まる1970年代初頭までは、エンジンはV8だけでなくベーシックグレード用として直6もラインナップされていたのだ。

それらは4リッター前後だったが、最も小排気量だったのは「プリムス・フューリー」の3.7リッター(225立方インチ)。選択可能な最大のV8が7.2リッター(440立法インチ)だったからおよそ半分で、絶対的には小さくないもののボディーに対してはかなり小さかった。

大柄なボディーに小さなエンジンの組み合わせは、アメリカ車の隠れた伝統(?)として近年まで残っていた。シボレーブランド最後のフルサイズセダンとして2020年までつくられた「シボレー・インパラ」。伝統ある車名だが、最終型のボディーサイズは全長×全幅×全高=5113×1854×1496mm。全長は現行の「トヨタ・クラウン セダン」よりも長いが、搭載された最小のエンジンは自然吸気の2.5リッター直4 DOHCだった。

ボディーの割には小さいといった程度だが、驚くべきは同じボディーを使った兄弟車である「ビュイック・ラクロス」の中国仕様。なんと1.3リッター直3 DOHCターボユニット搭載車が存在したのだ。いくらターボ付きとはいえ、全長5m超のボディーと3気筒エンジンの組み合わせはほかに類がないだろう。

1969年「プリムス・フューリー」。4ドアセダンのボディーサイズは全長×全幅×全高=5450×2020×1450mmで、同年から1973年までのベーシックユニットは3.7リッター直6 OHVだった。
1969年「プリムス・フューリー」。4ドアセダンのボディーサイズは全長×全幅×全高=5450×2020×1450mmで、同年から1973年までのベーシックユニットは3.7リッター直6 OHVだった。拡大
2013年から2020年までつくられた最終世代の「シボレー・インパラ」。ちなみにインパラより小さい「マリブ」が2024年をもって生産終了したことで、シボレーブランドのセダンは消滅した。
2013年から2020年までつくられた最終世代の「シボレー・インパラ」。ちなみにインパラより小さい「マリブ」が2024年をもって生産終了したことで、シボレーブランドのセダンは消滅した。拡大
最終世代の「シボレー・インパラ」の兄弟車だった「ビュイック・ラクロス」。米国ではインパラ同様2020年で消滅したが、ビュイックブランドが強い中国向けには新世代モデルが存在している。
最終世代の「シボレー・インパラ」の兄弟車だった「ビュイック・ラクロス」。米国ではインパラ同様2020年で消滅したが、ビュイックブランドが強い中国向けには新世代モデルが存在している。拡大

ダウンサイジングターボの衝撃

先にビュイック・ラクロスの中国仕様の話が出たが、ターボチャージャーなどの過給器付きエンジンを排気量だけで判断することはできない。言うまでもなく、過給器には排気量アップと同様の効果があるからだ。モータースポーツでも主催団体やカテゴリーによって過給器係数があり、例えばJAF公認レースではガソリンエンジンが1.7、ディーゼルエンジンでは1.5と定められている。

とはいうものの、従来はもっぱら高性能化のためのデバイスとして用いられていたターボに対して、燃費を向上させるべくあえて小排気量化したエンジンのパワーを補うためにターボを装着した、いわゆるダウンサイジングターボが登場し始めた当初はけっこう驚いた。

最初の衝撃は2009年に登場した2代目「サーブ9-5」。今はなきスウェーデンのメーカーの最終作となってしまったモデルだが、ボディーは全長×全幅×全高=5010×1870×1465mmだった。それに対してエンジンは2リッター直4 DOHCターボであることを2011年の日本導入時に知り、「全長5m超で2リッターとは!」と思った。だが、本国にはさらに小さい1.6リッター直4ターボも存在することを知って驚いたのだった。

もう1台も同じく2009年に登場した、5代目にして最終世代となる「ジャガーXJ」。これまたボディーはショートホイールベース仕様でも全長は5m超の5122mmだが、2013年に2リッター直4 DOHCターボユニット搭載車が加えられた。上級グレードは5リッターV8スーパーチャージドユニット搭載だったから、気筒数は半分で排気量は半分にも満たない。これを見て、「ついにジャガーのフラッグシップサルーンにまで直4が……」と、時代はダウンサイジングであることを痛感させられたのだった。

「サーブ9-5」。日本では2011年から2リッター直4ターボ(FF、4WD)と2.8リッターV6ターボ(4WD)が販売された。
「サーブ9-5」。日本では2011年から2リッター直4ターボ(FF、4WD)と2.8リッターV6ターボ(4WD)が販売された。拡大
「ジャガーXJ」。日本では5リッターV8と同スーパーチャージドが2010年に発売され、2012年に2リッター直4ターボと3リッターV6スーパーチャージドを追加し、自然吸気の5リッターV8は廃止された。
「ジャガーXJ」。日本では5リッターV8と同スーパーチャージドが2010年に発売され、2012年に2リッター直4ターボと3リッターV6スーパーチャージドを追加し、自然吸気の5リッターV8は廃止された。拡大

苦肉の策だった13B搭載

ターボ付きと同様に排気量を単純比較できないエンジンを積むモデルではあるが、日本車にも「大きなボディーに小さなエンジンを積んだクルマ」は存在した。1975年に登場した「マツダ・ロードペーサーAP」。トヨタや日産と違って大型乗用車を自社開発する体力のなかったマツダが、戦前から左側通行の国情に合わせて「右ハンドルのアメリカ車」のようなモデルをつくっていたGM傘下のオーストラリアのホールデンから輸入したボディーに自慢のロータリーエンジンを載せた、主としてショーファードリブン向けの大型サルーンである。

「ホールデンHJプレミア」から流用したボディーのサイズは全長×全幅×全高=4850×1885×1465mm。これに「ルーチェAP」用をやや中低速重視にチューンし、654cc×2から最高出力135PS、最大トルク19kgf・m(いずれもグロス値)を発生する13B型ロータリーエンジンが搭載された。ちなみにロータリーエンジンは同排気量のレシプロエンジンに比べて高出力のため、かつてモータースポーツではロータリー係数が存在し、排気量で課税される現行の自動車税では実際の1.5倍換算となる。

1565kgという車重は仮想ライバルの「日産プレジデント」や「トヨタ・センチュリー」よりは軽かったが、本来は強大な低中速トルクを持つ5リッターV8などで走らせていたボディーに、グロスで20kgf・mにも満たない最大トルクでは文字どおり荷が重かった。とはいえレシプロを含め、当時のマツダで最も強力な乗用車用ガソリンエンジンが13Bであり、ほかに選択肢はなかったのだ。

最後に、現行モデルで「大きなボディーに小さなエンジンを積んだクルマ」といえば? 思いついたのはDSオートモビルズのフラッグシップサルーン「DS 9」。全長×全幅×全高=4940×1855×1460mmのボディーに対してエンジンは1.6リッター直4 DOHCターボである。

ということで、「大きなボディーに小さなエンジン」といえば、グローバル化が進んだ現代でもやはりフランス車……というのは強引すぎるかな。

(文=沼田 亨/写真=ステランティス、ゼネラルモーターズ、ジャガー・ランドローバー、マツダ、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)

「マツダ・ロードペーサーAP」。車名のAPとはAnti Pollution(反公害)の頭文字で、エンジンが昭和50年排ガス規制をクリアしていることに由来する。約3年間の生産台数は約800台にとどまる。
「マツダ・ロードペーサーAP」。車名のAPとはAnti Pollution(反公害)の頭文字で、エンジンが昭和50年排ガス規制をクリアしていることに由来する。約3年間の生産台数は約800台にとどまる。拡大
「マツダ・ロードペーサーAP」。当時の日本では数少なかった3ナンバーサイズだが、アメリカ車にあてはめれば「シボレー・ノーバ」などのコンパクト級だった。
「マツダ・ロードペーサーAP」。当時の日本では数少なかった3ナンバーサイズだが、アメリカ車にあてはめれば「シボレー・ノーバ」などのコンパクト級だった。拡大
「DS 9」。現行フランス車では唯一の4ドアサルーンである。
「DS 9」。現行フランス車では唯一の4ドアサルーンである。拡大
沼田 亨

沼田 亨

1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。

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