「北京モーターショー2026」で実感 中国車の進化のスピードは想像のはるか上をいっていた
2026.05.20 デイリーコラム3000PS・約500km/hの市販車
「もっと直線が長ければ500km/hを超えるでしょう。私たちはさらに長い直線を探しています」
ご、ごひゃっきろ!?
2026年4月に訪れた中国2大モーターショーのひとつ「北京モーターショー2026(オートチャイナ2026)」のBYDブースで「車両の技術責任者」と紹介されたその男性はそう教えてくれた。まさかの日本語で。
(技術責任者という肩書からは想像できないほど若く見える)彼が日本語を話せる理由は、かつて日本の大学へ留学していたからなのだとか。
それにしても500km/hである。中国人のエンジニアが日本語で説明してくれたのでもしかして数字の換算間違いかと思ったらそうではないらしい。本当にファイブハンドレッドだった。
BYDの最上級ブランド「仰望(ヤンワン)」には「U9」というハイパーカー(2025年のジャパンモビリティショーにも展示されていた)があり、くだんの車両は「U9 Xtreme」という世界限定30台のスペシャルモデル。最高出力は通常モデルの1300PSに対して3000PSにまで高められ、実際に記録した最高速は496.22km/h(さすがに最高速チャレンジ時はリアウイングを外していた)。
いっぽうで直線番長かといえば、みんな大好きニュルブルクリンクの北コースにおけるタイムアタックでも6分59秒157で“7分切り”というとんでもない速さをみせている。化け物か?
それにしてもスゴいのは、これが市販車だということ。実証実験車両とか記録をたたき出すための特別な車両というならまだ分かるけど、実際に販売する車両となればハードルはグンと上がる。もちろん496.22km/hという最高速は市販車最速。ニュルのラップタイムは市販車トップの「メルセデスAMG One」に比べると約30秒遅いけれど、それでも“7分切り”はスゴすぎないかい?
ちなみに値段は、スタッフの説明によると2000万元とのこと(公式資料では見つけられず)。日本円にして約4億6000万円となるけれど、性能を考えればそんなもんか。最高出力は3000PSで、最高速は“もうちょっとで500km/h”で、値段は4億6000万円。現実感がなさすぎて、逆に冷静に見られるような気がするのが怖い。意味の分からない世界だけど。
最大出力1500kWの充電器を実用化
というわけで北京モーターショーである。筆者は8年ぶりに訪れたわけだけど、その前回は「これから電気自動車(BEV)が来る!」という大フィーバーで、投資を引き込むためであろうスタートアップ企業のモックアップ展示がやたら多かったのを覚えている。筆者はそれを見て逆に「虚構の世界」だとドン引きしたけれど、まさにBEVバブル前夜だったのだ。
いっぽう今年訪れて感じたのは、しっかり「市販車の祭典」になっていたこと。市販車がズラリと並び、夢物語ではなく現実感がある。加えて北京や上海など沿岸部の都市はBEV需要が高いものの、それだけでは事足りず内陸などではエンジンもしっかり必要ということなのだろう。プラグインハイブリッドなどエンジン付き車両の展示もそれなりにはあった。
それにしても今の中国車はブランドが多すぎて追いつけない。BYDや奇瑞汽車、そしてメルセデス・ベンツの筆頭株主でありボルボやロータスの親会社である吉利など主要メーカーも多くのブランドを展開している。しかも常に増えたり消えたりしているからまた混乱させられる。これ、すべてを把握できている人はいるのだろうか?
BEVといえば、そんなにBEVが増えちゃって充電は大丈夫なの? という声もあるだろう。その答えのひとつが、BYDが実用化済みの「フラッシュ充電」だ。同社の最新モデルが対応しているこの充電器は、最大出力1500kW。日本だと出力150kWなんてあったら「スゴく速いね」だけど、そんなレベルじゃないのだ。「通常の条件ならわずか5分で400~700km走行分の充電ができ、バッテリー残量10%から10分あれば97%、最大で1000km走行分以上まで回復できる」というなんともスゴい急速充電システム。筆者も実際にその充電を確認したけれど、航続可能距離がグングン増えていく様子は映像を早回ししているかのよう。これが普及すれば「BEVは充電待ちが……」なんて誰も言わなくなるだろう。
そしてこれも単なる絵に描いた餅じゃなくて、すでに約5000カ所に設置済みというからスゴい。年末までには2万基まで拡大するというから信じられない。中国4000年の歴史はダテじゃないなあ……。
でも、寒いとしっかり充電できないんでしょ?
BEVかいわいに詳しい人はきっとそう思うでしょう。そこで論より証拠というわけで北京モーターショーのBYDブースに設置されていたのが巨大な冷凍倉庫(みたいな箱)。内部は-30℃以下に冷やされ、そこでこのフラッシュ充電を使うデモがおこなわれたのだ。ここまでの極寒でも「通常より3分伸びる程度」だという。こういう最新技術は「見せて納得させる」とばかりにインパクトがスゴい。
伝統にすがる欧州ブランド
ところで、会場を歩いていて面白かったのは、欧州の自動車メーカーの展示の傾向が中国メーカーとはあまりに対照的だったこと。「これはスゴいだろう!」と誰もが驚く最新技術を見せるというよりは、ヒストリックカーを展示して“伝統”や“歴史の重み”をアピールしているのだ。メルセデス・ベンツも、ポルシェも、そしてアウディやロータスだって。
彼らは最新のBEV、しかもメルセデスでいえば新型「CLA」や「VLE」など中国を相当に意識したモデルがあったりアウディは中国専用車を進めたりしているわけだけど、正直に言えば「めちゃめちゃ目を引く」といったギミックや特徴があるわけではなかった。そこで中国勢との差をつける方法となれば、“ヘリテージ”を誇らしげにアピールするということなのだろう……か? 中国車にはそれがないんだから。まあ中国には4000年の歴史があるけど。
そしてまたまた会場を歩いていると、「フリーランダー」なるクルマを発見。まさかこれはランドローバーのパクリか? ……と思ったら、休眠していたネーミングを使い、奇瑞汽車とJLR(ジャガー・ランドローバー)との合弁で、中国のテクノロジーでつくるフリーランダーというブランドを展開するのだとか。だからパチモンじゃなくて半分本物だ。しかもこれ、中国国内で販売するだけでなく海外へも輸出するというから怖すぎる。
実はそんな動きはこの1年ほどで大きく広がっていて、例えばマツダの「EZ-6(マツダ6e)」や「EZ-60(CX-6e)」がそうだし、日産は中国の技術を使い中国で生産する「N7」や「NX8」を中国から海外へ展開することを発表している。フォルクスワーゲンも中国向けに現地で開発したBEVを中心に中国から世界へ輸出するプランを明らかにしている。かつては「使い古しの技術で中国向け車両をつくる」だった海外メーカーだけど、今は「中国の最新技術でつくったクルマを世界へ」と流れは大きく変わった。
メルセデス・ベンツグループのオラ・ケレニウス会長は「中国はメルセデス・ベンツにとって最大の市場。それだけでなく、世界に向けたイノベーションの源泉である」と語った。中国のテクノロジーをどんどんクルマづくりに反映しようというのである。中国は単なる生産工場だけにとどまらず、自動車テクノロジーの集積地になろうとしているのだ。
「中国と共同でプロジェクトをおこなうと技術を抜かれる」なんていうのは今やとっくに昔の話。昨今は「中国の技術をいかに活用して展開するか」が海外メーカーの腕の見せどころになっているというわけ。十数年前まではパクリカーの本拠地だったのにねぇ。
個人的には中国は壮大なガラパゴスだと思っている。だけど、今やそこで生み出されるクルマが国内だけでなく世界を動かし始めているのは疑いようがない。最もスゴいのは「スピード」だろう。技術革新のスピードもそうだけど、決断のスピードとか開発のスピード、それから軌道修正のスピードも。それが脅威だ。日本をはじめ海外の自動車メーカーはそんな中国の自動車産業とどう付き合っていくかを模索している状況といえるだろう。
というわけで北京モーターショー会場の真ん中で感じた中国の最新技術。そして奥深さ。日本人としては目を背けたいような気もするけど、悲しいかなこれが現実だ。夢なら早く覚めないかな。
(文と写真=工藤貴宏/編集=藤沢 勝)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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