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第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ

2025.09.18 エディターから一言 渡辺 敏史
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すべてが新しいアーキテクチャー

フランクフルト催行での斜陽感にコロナ禍も挟んで、一時は存続も危ぶまれたドイツ国際モーターショー=IAA。これはデトロイトや東京のモーターショーも対峙(たいじ)している壁ですが、場所をミュンヘンに移してからのIAAはBtoB向けの展示をメッセ内にコンパクトに集結する一方で、コンシューマー向けには都心部のプラッツ=広場に各メーカーが特設のパビリオンを用意して発表直後の新型車や市販車を展示、無料で気軽に触れてもらえる環境を用意するという二段構えのフォーメーションを採るようになりました。

こういう適材適所化は収益度外視かつ自治体の協力も不可避な面もありますし、建て込みものの耐震・耐火問題もありますから、日本の場合、オペレーション的にはあんまり参考にならないかもしれません。でも、このやり方がIAAに新たな存在感をもたらしているようにみえるのもまた確かです。

と、そんななか、ここウチの庭やし……と言わんがばかりの立派なブースをメッセ内に構えたのが地元組のBMW。その場で世界初お披露目されたのが新しい「iX3」です。車両の詳細な情報は前のリポート(参照)をご覧いただくとして、このモデルで最も注目すべきはゼロスタートで興したアーキテクチャーを採用したこと。ゆえにしばらくは従来のCLARプラットフォームを用いた内燃機の「X3」と併売されるかたちになります。BMWは2030年までに電気自動車(BEV)比率を50%まで高める(現時点は約25%)という目標を掲げていますが、到達に向けてブースター的な役割を果たすのがこれというわけです。

この隅から隅まで真新しいアーキテクチャーに支えられるモデル群をBMWでは「ノイエクラッセ」(新しいクラス)とくくっています。これは大成功によりBMWの方向性を決定づけた1960年代前半からのモデル群になぞらえているわけですが、その端緒は2010年代後半からみてとれました。xEVのあり方を原材料やリサイクルレベルから考えた最初の「iシリーズ」は、個人的には21世紀の自動車史に名を残す傑作だと思っていますが、商売的にはまるで振るわず大失敗となりました。

ドイツ国際モーターショーに合わせて世界初披露された新型「BMW iX3」。正式発表までは「ノイエクラッセX」と呼ばれていた。
ドイツ国際モーターショーに合わせて世界初披露された新型「BMW iX3」。正式発表までは「ノイエクラッセX」と呼ばれていた。拡大
ラインナップは順次拡大されるはずだが、まず発表されたのは「iX3 50 xDrive」の1グレードのみ。前後にモーターを搭載し、システム最高出力469PSを発生する。
ラインナップは順次拡大されるはずだが、まず発表されたのは「iX3 50 xDrive」の1グレードのみ。前後にモーターを搭載し、システム最高出力469PSを発生する。拡大
近年の傾向から一転してフロント中央に小さなキドニーグリルを装備。かつて「ノイエクラッセ」と呼ばれた「BMW 1500」などをモチーフとしている。
近年の傾向から一転してフロント中央に小さなキドニーグリルを装備。かつて「ノイエクラッセ」と呼ばれた「BMW 1500」などをモチーフとしている。拡大
「iX3 50 xDrive」では49:51の前後重量配分を実現したとされている。BEVでもBMWのこだわるポイントは変わらない。
「iX3 50 xDrive」では49:51の前後重量配分を実現したとされている。BEVでもBMWのこだわるポイントは変わらない。拡大
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妙に気になるシルエット

と、ここでBMWのうまいところは中核のプラットフォームをxEVにも対応できる拡張性の高い構造にしていたことです。2010年代後半からのニーズ不在、政治的背景の強いBEV化への急進に、彼らはこれをもって柔軟に対応することができました。一方で、BEVシフトにおいて効率の最大化を図れる専用プラットフォームの必要性も織り込んでいたことが、新世代のノイエクラッセの登場へとつながったわけです。パッケージ的な利としては、先代iX3と遠からぬ全長×全幅……つまり床面積にして、108kWhと大容量の円筒型バッテリーを搭載できていることがそれを示しています。もっとも、そのエネルギー密度の高さはあえて円筒型にこだわり、モジュールを介さずセルをじか詰めしたバッテリー構造によるところも無視できません。

新型iX3の最初のプレミアはIAAのひと足先、一部メディアを含むステークホルダーを招いたカンファレンスの場で行われました。そこでのステークホルダーの歓喜は役員のプレゼンテーションを遮るほどで、いち新型車の発表では経験したことがないものでした。先述のとおり、台数や販売比率面で他社の後塵(こうじん)を拝しているわけではないのですが、欧州的な感覚でいえばBEV専用アーキテクチャーがいかに競争領域化しているかが伝わってきます。BMWの関係者にとっては、この戦える駒は待望だったのでしょう。だからといって日本のメーカーがあわてる必要はないと思いますが、彼らが実地での走行性能やUXにおいて日々見識を積み重ね、工夫を加え続けていることは意識しておくべきではないかと考えます。

iX3は内外装にも見るべきところが盛りだくさんですが、ちょっと注目したいのはシルエットです。前後席間などは広々としていてさすがBEV専用と感心させられますが、キャビンを最大化したわけではなく、ボンネットまわりはいかにもエンジンが乗っかりそうな余幅もあります。ちなみにこの後、ノイエクラッセには「3シリーズ」の後継的位置づけとなる「i3」が控えていますが、こちらが現行の3シリーズとの併売になるのかといえばそれは年次的にも考えにくい。さりとて、BMWの屋台骨を支える3シリーズの巨大な商圏には、BEVのみでは困るというリージョンもあることでしょう。もしi3の鼻っ面にエンジンが押し込められるとするなら、どちらを立てることもできなくはありません。ただし、直6を縦置きするほどの余裕があるか否かは現時点では分かりかねるところです。

現在欧州でテストの様子がスクープされているi3は音的にみてBEVのみのようにもうかがえます。果たしてこの先、ノイエクラッセはどのように拡張していくのか。そんな目線でiX3を見るのも面白いかもしれません。ちなみに実車は10月のジャパンモビリティショーで日本初お披露目される予定とのことです。

(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)

4782mmのボディーの全長は先代モデルとほとんど変わらない。ボンネットの長いスタイリングは、もしかしてエンジンが積めるのだろうかという想像をかき立てる。
4782mmのボディーの全長は先代モデルとほとんど変わらない。ボンネットの長いスタイリングは、もしかしてエンジンが積めるのだろうかという想像をかき立てる。拡大
床下に敷き詰められた駆動用リチウムイオンバッテリーの総容量は108kWh。WLTPモードの一充電走行距離は約800kmとされている。
床下に敷き詰められた駆動用リチウムイオンバッテリーの総容量は108kWh。WLTPモードの一充電走行距離は約800kmとされている。拡大
インテリアも完全な新設計。ドアパネルとダッシュボードを有機的なラインでつなぐことで包まれ感のある空間をつくり上げている。
インテリアも完全な新設計。ドアパネルとダッシュボードを有機的なラインでつなぐことで包まれ感のある空間をつくり上げている。拡大
17.9インチのセンターディスプレイはドライバー側に17.5度傾けて配置される。新機軸の「パノラミックiDrive」はウインドシールド基部にさまざまな情報を表示できる(ドライバー側はメーターになる)。
17.9インチのセンターディスプレイはドライバー側に17.5度傾けて配置される。新機軸の「パノラミックiDrive」はウインドシールド基部にさまざまな情報を表示できる(ドライバー側はメーターになる)。拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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