あの『ナイトライダー』が現実に!? 開発が進む「パートナーのようなクルマ」の今を知る
2026.07.03 デイリーコラムSFの世界が現実に
メルセデス・ベンツ日本は2026年6月11日、「車両全体の50%以上、約2700点の部品を新規開発または再設計した」という改良型「メルセデス・ベンツSクラス」を発表した。これにより、エンジンやサスペンション、エクステリア、インテリアなどさまざまな領域で進化を遂げている。
なかでもハイライトは、進化した対話型AIの採用だろう。メルセデス・ベンツ日本のゲルティンガー剛社長兼CEOは、東京都内で行ったメディア向け発表会のプレゼンテーションで「私たちはこれからも次の当たり前をつくり続けます。未来を象徴する一台が新しいSクラスです」と話した。その“次の当たり前”のひとつが、対話型AIだ。
対話型AIはメルセデス・ベンツが自社開発したオペレーティングシステム「MB.OS」と、第4世代に進化した「MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザーエクスペリエンス)」によって実現する。Sクラス開発責任者のフランク・ヴンドラック氏は、「MBUXバーチャルアシスタント」と名づけた対話型AIについて、次のように説明する。
「MBUXバーチャルアシスタントは、自然な言葉を理解します。つまり皆さまは、同僚や友人、あるいは家族に話しかけるのと同じように、クルマに話しかけることができます。それは『ChatGPT4.0』と『Microsoft Bing』によって支えられた短期記憶つきの複数ターン会話を可能にし、話題に応じて『Google Gemini』とChatGPTを切り換える機能を備えています。走行中は会話をシームレスに続けることができ、文脈を学習。“リトルベンツ”を含む3つの表情豊かなアバターデザインは、会話を自然で人間的に感じさせます」
世代を限定した例えになるが、1980年代の米テレビドラマ『ナイトライダー』の世界が40年余りの時を経て実現することになる。マイケル・ナイトとキットのような軽妙なやり取りが、「ポンティアック・ファイヤーバード トランザム」ではなく、メルセデス・ベンツSクラスで可能になるのだ。
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違和感のない会話で通じ合う
最新型Sクラスの発表会では、ゲルティンガー社長兼CEO(以下、ゲ)がMBUXバーチャルアシスタント(以下、AI)とのデモンストレーションを行った。「ハイ、メルセデス」とバーチャルアシスタントに話しかけると、間を置かずに「どうぞ、お話しください」と答えが返ってきた。
ゲ:「ドイツから友人が来ています。おすすめの場所を教えてください」
AI:「東京には本当にたくさんの魅力的な観光地がありますね。友人の興味に合わせて、いくつかの提案をさせていただけたらと思います。どんな場所が好きですか。教えてもらえますか?」
ゲ:「そうですね、ドイツの方は結構自然が好き。なので、自然が感じられる場所、リフレッシュできる場所を提案してもらえますか?」
AI:「東京で自然を感じられるスポットはたくさんありますよ。例えば新宿御苑や昭和記念公園は自然豊かで、散策やピクニックにぴったりです。また、国立公園の奥多摩や高尾山も自然を満喫できる場所です。どちらも(想定する出発点からは)少し離れていますが、都市の喧噪から離れてリフレッシュするには最適です」
ゲ:「ちなみに、新宿御苑の評価は?」
AI:「新宿御苑の評価は4.6とかなり高いです。口コミでは『広々とした芝生、季節ごとの花、手入れの行き届いた庭園はいつ来ても心が癒される』と書かれています。いかがでしょうか?」
といった具合である。ごく自然に双方向の会話が成立しており、「これなら使えそう」と感じた。
“先回りのサービス”が常識に
一方、日産自動車は2026年6月24日、「AWS Summit Japan」においてSDVソフトウエア開発のデモンストレーションを行った。
このなかで日産はAIを中核とした「AIディファインドビークル(AIDV)」の実現に取り組んでいると説明。AIDVは「AIドライブ技術」「AIパートナー技術」「AIソフトウエア技術」の3つの技術で構成し、順次適用していくという。
デモンストレーションの主眼はAIソフトウエア技術で、AIを活用することにより開発期間を大幅に短縮し、OTA(無線通信)によってスピーディーに新たな機能を実装していくことが可能というもの。
日産は2027年度に市街地でのハンズオフ運転を実現するAIドライブを導入する予定で、AIパートナー技術の導入時期は明示されなかったが、これが実装されれば、AIパートナーがドライバーとの会話やその日のスケジュール、通話内容などから自動でカーナビゲーションの目的地を設定したり、「いつものカフェに行きますか?」などと提案したりするようになる。
車載AIとクラウドAI、さらにはサードパーティーのデータをシームレスに連携させることで、ドライバーの期待を超えた一歩先のサポートをするのが、日産が開発するAIパートナーの特徴。「いままさに技術検証しているところ」(開発担当者)だそうで、「ドライバーだけでなく同乗者の好みを学習することで運転体験を良くしていく」ことを狙っているという。そして、「いかに早く出していくかが競争力の源泉になっていくと思う」と話した。
AI導入が安全につながる
トヨタ自動車は2025年の「ジャパンモビリティショー(JMS)」で、「AIエージェント」の技術を公開した。利便性の向上や移動体験の価値を高める使い方も提供しようと開発に取り組んでおり、この領域では2023年のJMSですでに開発中の技術を公開している。2025年のJMSでは「交通事故ゼロ社会を実現するため」にAIエージェントを活用する技術が提示された。
例えば、市街地を走行中に同乗者との会話に気をとられ、左折時に横断歩道を渡る歩行者への注意がおろそかになったとする。このとき、AIエージェントは周囲の状況とドライバーの行動を先読みし「ここ、左折に注意ね」と注意喚起する。これにより事故を未然に防ぐといった具合だ(クルマ側も各種センサーで周囲の状況を捉えているので、緊急ブレーキをかける準備はしている)。ドライバーの操作や対話から、その日の体調や心情を把握し、それに合わせた内容の声がけを行う気づかいもみせるという。衝突被害軽減ブレーキをかける前に手を打つことで、安全性の向上につなげる考えだ。
ナイトライダーのキットのような対話型のAIパートナー/AIエージェントはメルセデス・ベンツSクラスによって現実のものになった。今後は国内メーカーのクルマにも高価格帯のモデルから順次実装されていくことになる。
AIパートナー/AIエージェントの役割を利便性の向上に振るのか、それとも安全性向上に結びつけるのか。開発の舞台裏では、早く実装して先行者利益を狙うだけでなく、AIの実装が当たり前になる状況を先読みし、どのようにして競合との差別化を図るかの検討と開発が行われている。
(文=世良耕太<Kota Sera>/写真=日産自動車、トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)

世良 耕太
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