目指せ国内生産100万台! 日産の国内事業再編にみる思惑と狙い
2026.09.28 デイリーコラムようやく前向きな未来の話ができるようになった
去る2026年9月10日、日産は「将来の成長に向けたグローバル競争力を強化」するために「日本事業を再構築」していくというプレスリリースを出した。その柱のひとつとして、国内で“年間100万台”を生産する体制を再構築する……としている。
ここでいう国内生産とは、日産自動車と、日産が50%の株式を握る日産車体という2社が国内工場で生産する台数のことを指す。ちなみに、軽乗用車の「サクラ」「ルークス」「デイズ」は、設計開発こそ日産だが、生産は三菱自動車の水島工場でおこなわれているので、今回の100万台には含まれない。
日産といえば、2024年度上半期(2024年4月~9月)の決算で営業利益9割減が伝えられて以降、経営難にまつわる話題ばかりが続いた。同年末にホンダとの経営統合を検討開始したかと思えば、翌2025年2月に破談。続く3月には当時の内田 誠社長が退任して、5月に発表された2024年度通期決算では6700億円超という過去3番目の巨額赤字を計上するとともに、世界7工場と2万人の人員の閉鎖・削減を含めた経営再建策が明かされた。
しかし、この2026年に入ると、日産は一転して、再建後の前向きな情報発信を増やす。4月には次期「スカイライン」の計画を含む長期成長戦略を発表。5月の2025年度通期決算発表では5300億円超という2年連続の赤字となったものの、2026年度には黒字化するとの見通しを示した。今回の日本事業再構築も、そうした成長戦略のひとつといえるだろう。
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日産の国内生産体制の現状
いまの日産は国内に、追浜、栃木、九州、日産車体湘南(以下、湘南)、日産自動車九州(同じく車体九州)という5つの完成車工場をもつ。
おおざっぱにいうと、追浜が小型乗用車(国内でいうと「ノート/ノート オーラ」や「キックス」)、栃木がFR系乗用車と電気自動車(同じくスカイライン、「フェアレディZ」「アリア」「リーフ」)、九州が中型以上のFF系乗用車(「エクストレイル」や「セレナ」)をつくる。さらに、車体九州ではミニバンとフレーム車(「キャラバン」と「エルグランド」のほか、海外専用車の「パトロール」「アルマーダ」「インフィニティQX80」)、湘南では「NV200バネット」をつくっている。
これら国内5工場には、もともとは年間100万台を軽く超える生産能力があった。実際、 当時のカルロス・ゴーン社長が「過去最高の業績」とうたった2005年前後には、年間140万台以上を国内生産していた。しかしその後はジワジワと下がりはじめ、リーマンショックの影響を受けた2009年には約89万台と、100万台を割った。2013年以降は恒常的に100万台を切るようになり、最後にそれを超えたのは2017年である。
日産の国内生産は2017年以降も基本的に右肩下がりで、コロナ禍の2021年には年間50万台割れとなった。その後は少し持ち直したものの、日産の巨額赤字とともに、その国内生産も2024年に約66万台、昨2025年は約57万台と落ち込んでいる。さすがにこれでは国内5工場は多すぎると、追浜と湘南の閉鎖が決まったのは既報のとおりである。
日産が今回発表した“年間100万台”とは、ご想像のとおり、2027年度末の追浜と湘南を閉鎖して以降の3工場が計画する台数である。単純にいうと、工場数を現在から4割も減らしつつ、生産台数は逆に現在の約2倍……あるいは2010年代の規模にまで復活させるというものだ。
で、そんな大胆(?)な計画のカギとなるのが、栃木工場の稼働率向上である。
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配置転換だけでの目標達成は難しい
かつて栃木工場は、「フーガ」や「シーマ」「スカイライン クーペ」とそのインフィニティ版も含めたFR系乗用車を一手に引き受ける高級車専用の生産拠点だった。こうしたモデルが廃止されてからは、熟練の職人技を高度に自動化した最先端の「インテリジェントファクトリー」に転換して、いまは最新のアリアやリーフも生産している。しかし、これら電気自動車(BEV)の需要がいまひとつ盛り上がらないのに加えて、「GT-R」の生産終了、そしてスカイラインのモデルチェンジが追い打ちをかけた2025年の栃木の稼働率は、なんと1割台まで落ちたという。また、九州の稼働率も直近では6割台と推測されている。一般的に自動車工場の損益分岐点は8割とされているから、栃木のみならず、九州もこのままではまずい。
いっぽう、車体九州はパトロールなどのフレーム車の世界的人気で、近年はフル稼働状態が続いているのに、さきごろエルグランドまでが新型となって、さらなる需要拡大が見込まれる。つまり、今回の“年間100万台”とは、栃木と日産車体九州、そして日産自動車九州という3工場の役割分担とモデルラインナップを再構築して、各工場の能力を最大限に引き出すことを目指すという意味だ。
具体的には、ノート/ノート オーラやキックスなどの小型車生産は追浜から九州に移管して、九州の稼働率を高める。栃木についてはエルグランドの生産を車体九州から移すほか、年末には新型スカイライン、さらにはそのインフィニティ版も復活させる……というのが現時点で明かされている再構築策である。
ただ、そうした配置転換だけで国内生産を年間100万台は達成できそうにないのは、素人目にもわかる。なにせ、2025年の日産の国内販売台数は、軽自動車を除くと約24万台しかない。
今回出されたプレスリリースには、エルグランドの移管で余裕が出るはずの車体九州で今後生産される小型商用車の、グローバル展開も示唆されている。しかし、それだけでは到底足りず、加えて、数年内にフルモデルチェンジするであろう次世代コンパクトカーやFF系SUVを確実にヒットさせること、そして現在は事実上の日本専用車であるノート/ノート オーラを輸出でも稼げるグローバル商品にすることが必須だろう。さらにBEVも当然、このまま放置するわけにもいくまい。
それでも日本での生産にこだわる理由
それにしても、日産のようなグローバル企業にとって、少子高齢化が急速に進む日本は、市場としても、また生産拠点としても、もはや魅力的な土地といえないのでは……と思ってしまうのも、残念ながら事実である。にもかかわらず、日産があらためて国内生産の再構築に取り組む理由はなんなのだろうか。
もちろん、日産が日本企業であることは大きな理由のひとつだろう。実際、追浜と湘南の2工場を閉鎖しても、生産台数が現状のままなら、国内の生産能力はまだまだ過剰である。しかし、足もとの日本国内でこれ以上の工場閉鎖に追い込まれるようなら、日産が今のようなカタチで存続するのはきわめて困難となる。
さらに、今回のプレスリリースには「日本は日産の競争力と成長の源泉にならなければなりません」、そして「日産のホームマーケットである日本は、次世代プロパイロットやモビリティサービスを含む先進技術の実証を推進する役割を担います」など、グローバル戦略のためにも、国内生産は軽視できないという意味の文言が記されている。
プレスリリースにあるように、日本国内で開発した新技術を世界でハイレベルに量産するには、マザー工場となる国内生産拠点は欠かせないだろう。また、現在の円安下では、日本でつくって海外に輸出するというビジネスは素直に儲かる。
さらに、なんだかんだいっても、わが日本は自動車市場としてはまだまだ大きい。国内の新車販売台数は年間で約450万台。年間で3000万台超という中国、同じく約1700万台のアメリカ合衆国という2トップは別格だが、日本はインドとならんで、それに続く3~4位の地位を維持している。近年のグローバル販売台数で、日産が(トヨタはともかく)ホンダやスズキにまで僅差でゆずっているのも、軽自動車を含む国内販売で両社に大差をつけられているのが理由のひとつといっていい。
というわけで、日産がこうして国内事業の重要性にあらためて「目覚めた」とすれば、それはわれら日本のクルマ好きは素直に喜ばしいニュースだ。とにもかくにも、日本のクルマ好きが、もっと魅力的な日産車を、もっともっと多く買えるようにしてほしい。
(文=佐野弘宗/写真=日産自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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