シトロエンë-C3マックス(FWD)
カタチ以外はなお個性的 2026.07.28 試乗記 シトロエンのコンパクトハッチバック「C3」に電気自動車(BEV)版の「ë-C3」が登場。さすがはシトロエンらしく、操作系やスペック、装備の設定、さらには乗り心地にいたるまで、普通のBEVとはひと味違う。誰にでも勧められるクルマではないが、そもそもシトロエンとはそういうポジションだ。キーを回すBEV
ユニークでアバンギャルドであることがシトロエンの生命線ではなかったのか! と憤慨するクルマ好きの声が聞こえてきそうだ。だが、安心してください。シトロエンは依然として普通ではありません。
“ゆるふわ”な先代C3から一転、ガチムチでボクシーに生まれ変わったボディーデザインはいったんおいて、なんと今どき起動がキーである。金属製のカギをシリンダーに刺して回してシステムオン、という手順はすっかり久しぶりで戸惑った。しかも試乗車はこの5月に追加された新型C3のBEV版ë-C3であるから、スターターが回るわけでもなく単に準備完了となるだけ。それなのにこのアナログ手順はどういうことか。割り切りもここまでくると、何か特別な理由や使い方があるのではないかとかえって落ち着かなくなるほどだ。
もっとも、シトロエン自慢のソフトな「アドバンストコンフォートシート」に身をゆだね、インテリアを見回せば、他と横並びを嫌うシトロエンびいきの人たちも納得してくれるのではないかというぐらいには個性的だ。高級素材は見当たらないものの、ファブリックを組み合わせたトリムは品よく落ち着いた雰囲気でさすがの手腕である。ステアリングホイールはプジョーのように小径で上下が押しつぶされた形状となり、その上からウインドシールド基部に設けられたスリットのような簡潔なメーターを見るタイプだが、プジョーの「iコックピット」よりもずっと違和感がない。
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全高アップでいかにもSUV
新型C3はBEV前提で「スマートカープラットフォーム」なる新しい車台を採用しているというが、2540mmのホイールベースは先代比でわずか5mm伸びただけ。全長も若干伸びて4mをわずかに超えたが、ボディーサイズは従来型とほぼ同じ、と言いたいところだが、全高が一気に95mmも高くなってせいで、いかにもなコンパクトSUVのプロポーションである。
しかも3代目C3の特徴だったエアバンプと薄目のシグネチャーライトが姿を消し、その代わりにたくましさを押し出したフロントまわりがまた一般的なSUVとの印象を与える。よそとは違う、風変わりなところに魅力を感じていたファンにとっては残念かもしれないが、予想を裏切る斬新な手法を取り入れるのがシトロエンである。
フォロワーがこぞって採用し、薄目デイタイムランニングライトが当たり前になってしまった今、たとえ主力モデルであっても(C3はシトロエン全体の3割を占めるという)自分たちはさらに大胆に先をいくとの主張なのかもしれない。今どき大きなエンブレムを前後に戴いているのも最近のトレンドとは違う。それにしても見た目は何だか普通になってしまったというのが偽らざる気持ちである。
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割り切りはっきり
選択と集中はパワートレインにも見てとれる。駆動用バッテリーの容量は44kWhと少なめで、WLTCモードの一充電走行距離は388kmである。いっぽうで急速充電は100kW出力まで対応しており、「マックス」グレードにはバッテリーのプレコンディショニングも備わるという。モーターの最高出力は113PS、最大トルクは125N・mと、他のBEVに比べて明らかに控えめで(例えば新型「リーフB5」は177PS/345N・m)、本国仕様のデータでは0-100km/h加速は10.4秒、最高速も130km/h程度とされている。
強烈な加速などのパフォーマンスを追求していないことは明らかだが、高速道路を含めて実用上の不足は感じない。バッテリー容量を抑えたぶん、BEVとしては軽い1470kgの車重のおかげで十分に身軽といえる。センターコンソールには「B」ではなく、ほとんど回生ブレーキが働かなくなる「C(クルーズ)」ボタンが備わっていることでも、明確な優先順位がうかがえる。
性能を追求していない代わりにë-C3はリーズナブルであり、車両価格は上級グレードのこのマックスで425万円(エントリーグレードの「プラス」は399.9万円)。ハイブリッドモデルも含めてC3は割り切りがはっきりしているのだ。
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BEVらしからぬソフトな乗り心地
BEVとしてはかなり軽い車重(それでも「C3ハイブリッド」よりは200kg重い)は乗り心地の面でもいい効果をもたらしているようだ。ë-C3の乗り心地は明らかにソフトなのである。一般的なBEVはバッテリー搭載で増えた車重に対応するためにサスペンションを固めざるを得ず、コンベンショナルなスプリング/ダンパーではどうしてもゴツゴツ、ヒョコヒョコした挙動を示すクルマが多いのだが、ë-C3はその点他のBEVとは違う。これにはシトロエン自慢の「PHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)」=バンプストッパーの代わりにセカンダリーダンパーを内蔵したダンパー)と柔らかなシートも奏功しているはずだ。
人によってはもっと引き締まっているほうが安心できると感じるかもしれないが、柔らかさの奥にはしっかりコシがあるのはこれまでどおり。パキパキしたレスポンスはなくてもハンドリングに不安はない。これまた思い切って実用域に的を絞ったキャラクターといえるだろう。
ちょっと残念なのは単なるクルーズコントロールしか備わらないことだ。すっかり思い込んでいたところ、前走車にスルスルと近づいてあわててしまったが、先行して発売されたハイブリッドのC3にもアダプティプクルーズコントロール(およびブラインドスポットウォーニング)は備わっていなかった(エマージェンシーブレーキやレーンキープアシストは装備される)。これまたコストを抑えるためなのだろうが、最新モデルでここまでの割り切りはちょっと説得力に欠ける。実用車としての魅力は認めるものの、自らの使い方に合わせて慎重に判断する必要があるだろう。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=ステランティス ジャパン)
テスト車のデータ
シトロエンë-C3マックス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4015×1755×1590mm
ホイールベース:2540mm
車重:1470kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:113PS(83kW)/9030rpm
最大トルク:125N・m(12.8kgf・m)/5270rpm
タイヤ:(前)205/50R17 93V XL/(後)205/50R17 93V XL(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
一充電走行距離:388km(WLTCモード)
交流電力量消費率:132Wh/km(WLTCモード)
価格:425万円/テスト車=441万5650円
オプション装備:メタリックペイント<ブルーモンテカルロ>(4万9500円)/プレミアムフロアマット(3万8500円)/ドライブレコーダー<V263A>(5万9950円)/ETC1.0車載器<ハーネスキットを含む>(1万7700円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1354km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:309.8km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:19.8kWh/100km(5.05km/kWh。車載電費計計測値

高平 高輝
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