シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)
割り切りが美しい 2025.10.31 試乗記 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。サイズのわりに立派に見える?
コミューターに特化した超小型電気自動車(BEV)の「アミ」を横に置けば、シトロエンの実質エントリーモデルが、このC3である。C3は欧州コンパクトカーでも比較的小さいサイズが売りで、それは通算4代目となる新型も例外ではない。全長は先代比で20mm大きくなって4m台となったが、それでも「プジョー208」より100mm短い。全幅とホイールベースもそれぞれ5mmの拡大にとどまる。
いっぽうで、全高だけは先代より95mmも高くなった。デザインにSUV風味を加えるのは近年のシトロエンのお約束で、先代C3も見た目はSUV風だったが、パッケージレイアウトは伝統的ハッチバックのそれだった。しかし、新型C3はいかにもSUV……というか、地上高が大きいわけではないから、正確にはハイトワゴン的なパッケージに脱皮した。
ただ、そうなると、「C3エアクロス」とのすみ分けが気になるところだ。といっているうちに、新型C3エアクロスも本国デビューしたが、それはC3より40cm近く長い3列シーターSUVに転身した。というわけで、新型C3と市場で食い合うことはないだろう。
3本のラインを組み合わせた前後ランプや、1919年の創業時を復刻させたような長円形エンブレムを直立させるフェイスデザインなど、丸みのなかにスクエアな造形を融合するのが、最新のシトロエンデザインである。そうしたデザインとパッケージレイアウトの相乗効果で、サイズのわりに小生意気かつ立派に見えるのも、新型C3の特徴といえる。
また、長年使ってきた「エアバンプ」のかわりに細い「カラークリップ」のアクセントを入れるのが、新しいシトロエンのお約束となりつつある。フロントバンパーとリアクオーターにあしらわれる新型C3のそれは、車体色によって変えたり、あるいは限定モデルやアクセサリーなどで遊んだりするポイントとなるらしい。
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デザインセンスとアイデアで勝負
ステランティス車の多くは、今後、新開発プラットフォームの「STLA」に切り替わっていくと報じられる。近く公開予定のプジョー208の次期型が、そのコンパクト版「STLAスモール」を土台とする最初のクルマらしい。
しかし、新型C3の骨格設計は、そうしたSTLAシリーズの下に位置づけられる「スマートカー」プラットフォームという。これは既存の「CMP」をベースに、安全性や電動化対応を高めつつも、中国市場や南米・東南アジア・インドなどの新興国市場を含めた、グローバルでの競争力のために低コスト化にも配慮されたプラットフォームだ。聞けば、次期208にはステアバイワイヤの用意まであるというから、STLAスモールは未来を見据えた高度な設計で、C3のような割り切ったコンパクトカーには過剰な部分も多いのだろう。
実際、新型C3は奇をてらったところのない、ベーシックなコンパクトカーである。内装もシンプルそのもので、メーターはカラー液晶ではあるが、画面サイズは最小限で表示内容に凝ったところもない。エクステリアデザインはSUV風でも、シートや荷室アレンジにギミックはほぼ皆無だ(そのぶん、荷室容量が素直に大きいのがシトロエンの良き伝統)。
そんな高級素材や複雑な造形がないところを、デザインセンスとアイデアで埋め合わせているのは内装も外装も同様だ。外装では、シトロエンエンブレムのV字モチーフをこれでもかとあしらったり、ウィンドウガラスのスミにパリの街なみが描かれたりしている。
いっぽうで、内装ではダッシュボードにニットが使われたり、アームレストにメッセージを縫い込んだタグをつけたり、あるいはグローブボックス内部に「11CV(通称トラクシオンアヴァン)」から「Hトラック」「2CV」「メアリ」、そして最新BEVの「アミ」……と、歴史的シトロエンが成形されたりしている。
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技術的に注目したい2つの特徴
欧州の新型C3には純エンジン車やBEVの用意もあるが、日本仕様はひとまずハイブリッド一択。ステランティスの多くのモデルに積まれる1.2リッター直3ターボとモーター内蔵6段DCTを組み合わせたハイブリッドだ。モーター出力が低めでエンジン主体のシステムながら、発進や低負荷巡航でモーター走行もする……という、欧州で流行しつつある“強化型マイルドハイブリッド”である。
このパワートレインはシトロエンでいうと「C4」で日本上陸済みで、欧州では新型「C5エアクロス」にも使われているくらいなので、小さなC3には性能的には十二分。実際、アクセルを積極的に踏み込めば、その走りはすこぶる活発である。ただ、モーターの出入りや変速でちょっとギクシャクする特有のクセが、同じパワートレインの「プジョー2008」や「3008」より強めに出ている。コストコンシャスなスマートカープラットフォームは、振動騒音も割り切っているようだ。
そういえば、新型C3では、ステランティス系で見慣れたドライブモードやシフトパドルも省略されている。さらにいうと、今回の試乗車でもある「マックス」は最上級グレードながら、アダプティブクルーズコントロール(ACC)の用意もないのだ!
まあ、もともと回生ブレーキが強めであるうえに、マニュアルモードのかわりに用意されるLレンジにすると、さらにエンジン回転が高めにキープされるので、現実にパドルがほしくなるようなシーンはほぼない。ただ、今や日本の軽自動車にも普通につくACCの用意がないのは、欧州車としてはめずらしい。ここもスマートカーならではの割り切った設計ゆえか。
このように、良くも悪くもオーソドックスそのものの新型C3だが、他社のコンパクトカーにはない技術的な特徴が2つある。「アドバンストコンフォートシート」と「プログレッシブハイドローリッククッション(PHC)」だ。
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わかりやすい魅力をトッピング
アドバンストコンフォートシートは、表皮下のウレタン層を約10mm厚(通常は数mm)とすることで、昔ながらのソファのような座り心地を実現している。PHCはフルバンプ付近の最後のショック吸収を担当するセカンダリーダンパーを内蔵したダンパーである。どちらも、ステランティスでもシトロエンだけに許された独自技術だ。
基本設計はベーシックカーの域を出ていないC3なのに、意地悪な路面のジョイントもスイッと柔らかに吸収して、そのときの上下動も最小限。伝統のハイドロニューマチックなみ……とはいわずとも、サイズに似合わないフラット姿勢をキープする所作には、1~2クラス上のクルマ?……と思わせる瞬間がある。直進性も高いし、メインダンパーの減衰がソフトな設定にできているので接地感も豊かである。
シートの肌ざわりも、なんとも柔らかく心地よい。ソフトな乗り心地にはこのシートも奏功していると思われるが、(シャシーはフラットなのにシートのせいで)走行中に身体が上下してしまう副作用がなくはなく、そこは好き嫌いが分かれそうだ。ただ、もう少し距離を重ねればシートがなじんで落ち着く可能性はあるし、同様のシート表皮が採用された後席の座り心地は、このクラスでは一頭地をぬく。いずれにしても、これらの独自アイテムが、新型C3にシトロエンならではわかりやすい魅力をトッピングしているのは間違いない。
また、プジョーではすっかりおなじみの超小径の異形ステアリングが、新型C3で、ついにシトロエンにも採用された。ステアリングホイール自体は、これまでのプジョーとは別デザインだが、サイズはさらに小さくなっているくらいで、なるほどステアリングの操作性は明らかに軽やかになった。しかも、ステアリングギアレシオもそのぶんスローに再調律されており、無意識に操っても急ハンドル操作にはならず、シトロエンらしい身のこなしに影響を与えないのはさすがである。
(文=佐野弘宗/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一/車両協力=ステランティス ジャパン)
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テスト車のデータ
シトロエンC3ハイブリッド マックス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4015×1755×1590mm
ホイールベース:2540mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:101PS(74kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)/4264rpm
モーター最大トルク:51N・m(5.2kgf・m)/750-2499rpm
システム最高出力:110PS(81kW)
タイヤ:(前)205/50R17 93V(後)205/50R17 93V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:22.3km/リッター(WLTCモード)
価格:364万円/テスト車=364万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1273km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:373.7km
使用燃料:26.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/15.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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