新型「パジェロ」はこれから生産するのに!? 国産自動車メーカーのタイ離れが進んでいる深刻な理由
2026.09.23 デイリーコラム日本車大好きだったはずなのに……
少し前のコラムで「日本車をタイでつくって日本へ輸入する背景」について書いた(関連記事)。その最後に「そんなタイにおいて昨今は日本の自動車メーカーが工場を閉じる動きもある」と書いたところ、編集部が非常に興味を持ってくれたので、今回はタイの日本車事情第2弾として、日本車の現地生産の縮小事情についてお伝えしよう。
まずタイにおける日本車の現地生産についてお伝えすると、日産は1962年から、トヨタは1964年からと半世紀を超える歴史を持っている。最近始まったような付き合いではないのだ。そんな流れもあってタイはついこの間まで、日本車率が9割以上という“圧倒的日本車ラブ”な国だったのである。9割越えという比率は、東京23区の状況よりもずっと高い。だから六本木交差点よりも、タイの首都バンコクの中心にあるアソーク交差点のほうが日本車を多く見かけるという逆転現象になっていたりもする。初めてタイへ出かけたクルマ好きは驚くことだろう。
現地における日本車の現地生産は、日産やトヨタをはじめ、三菱自動車(1964年生産開始)やホンダ(1965年に二輪車の製造をスタートし1984年に四輪車の生産を開始)、いすゞ(1963年に委託生産をはじめ1966年から本格的な現地生産をスタート)、マツダ(1975年に現地組み立て開始)、スズキ(1967年に二輪車生産をスタートし2012年から四輪車も生産)、スバル(2019年からノックダウン生産を開始)と多くのメーカーが手がけている。いや、正確にいえば手がけていた。ピークは2010年代だっただろうか。
ただ、2020年代に入ると状況は一転。ここへきてスズキ(の四輪事業)とスバルはタイでの生産をすでに終了。日産とホンダはタイに2つあった生産工場のうちひとつを閉め、生産能力を減らしている。どうしてそんなことになってしまったのか? あれだけ日本車を愛していてくれたのに。あれは幻の愛だったというのか?
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勢いを増す中国メーカー
極論を言ってしまえば、その最大の理由はタイ国内における日本車の需要減だ。
まず国内の販売台数が減った。2019年に100万7552台あった新車販売は、2024年には57万2675台まで減少した。激減である(2025年は62万1166台へと若干増加)。多くのメーカーはタイの生産工場を輸出拠点として活用していてそちらは堅調とはいえ、足元の国内需要がそれではさすがにつらい。
なぜそこまで国内需要が減ってしまったかというと、まず景気動向。そしてローン審査の厳格化が挙げられる。日本と比べて物価水準が低く、なおかつ新車が高いタイではローン購入比率が高く、しかもギリギリのローンを組むこともある。だからローン厳格化により新車を買えなくなってしまった人も少なくないというわけ。新車マーケットの縮小はその逆風をもろに受けた格好だ。
さらにいえば、中国車の台頭も日本メーカーにとっては痛い。コロナ以前は「あるけどないに等しい」と聞いていたくらいだった中国車のシェアは、2020年代になって急上昇。昨今のタイ新車市場は、電気自動車(EV)の販売比率が全体の2割ほどになっているが、その多くは中国メーカーだ。全体のマーケットが小さくなっているうえに、中国車の勢いが増してますます日本車は厳しい状況というわけである。
余談だが、タイにおいてEVが売れる理由は「複数台所有のお金持ちが興味本位で高額なEVを買う」というのを除けば、「ガソリン車やハイブリッド車を選ぶよりも割安だから」という理由がほとんど。中国車はコスト競争力が高いうえに、EV補助金政策に加えて減税もあって安く購入できるのだ。「安いからEVを買う」という、世界的にもまれな状況が起きている。
ところでスズキは2012年に四輪車工場を新設したにもかかわらず2025年までに撤退してしまったのだが、それは政治に振り回された結果といっていいだろう。工場新設時は政府が「エコカー戦略」という方針をとり、燃費がよくて安価な小型車(非ハイブリッド)を普及させるためにさまざまな優遇策をとっていた。工場誘致にも好条件を出した。スズキはそれを前提に参入を決めたのだ。しかし、その政策は長続きせず、スズキは政府からはしごを外されたかたちに。それが撤退の大きな理由だ。投資の大きさと当初の見込みを下回った生産台数から考えると、タイのスズキ四輪工場は利益を生まなかっただろう。その後、スズキが生産を終えた工場をフォードが居抜きで取得すると発表されている。
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マツダが進める逆張り戦略
まとめると、タイでノックダウン生産をしていたスバルはマレーシア工場も閉じて東南アジアでの生産から撤退。日本からの完成車輸出に切り替えている。スズキはインドネシアでの生産を強化して、タイ工場で生産していた分もカバー。2つあった工場のうち1つを閉じた日産とホンダは、純粋に市場縮小に伴う生産減といえる。
海外勢をみると、タイから生産だけでなく販売も撤退したゼネラルモーターズの工場は、中国の長城汽車(GYM:Great Wall Motor)が居抜きで買い取って生産拠点として活用している。今後は海外輸出拠点としても使われることになるだろう。余談だが、その工場はかつて日本向けに「スバル・トラヴィック」をつくっていた場所だけに、日本とも縁があるし感慨深い。
そんななか、他とは全く違う動きをしているのがマツダ。日本向けの「CX-3」もつくっているタイの工場に追加で50億バーツ(約230億円)を投じて生産力を増強し、新型となる小型SUVの生産・輸出のハブとする計画を2025年2月に掲げた。その後、投資額は74億バーツ(約350億円)へと引き上げられている。ますます生産拠点としての重要度を高めようと鼻息が荒いのだ。
そこでは2027年中に新型の小型SUVがつくられるようになるというが、それは次期型CX-3で間違いないだろう。この追加投資はタイ政府が推進するマイルドハイブリッド車支援策にのっとり、タイ国内で販売する車両の物品税率を抑えるためのようだ。5000万バーツ以上の追加投資に加え、国内生産のバッテリーや駆動関連部品の採用、先進運転支援システムを搭載した車両が物品税優遇の対象になるという。
生産を減らす日本メーカーが多いなかで新たに多額の投資をして重要度を高めていくというマツダの逆張りは、タイ自動車市場ウオッチャーの筆者としても非常に興味深いもの。さすがわれらのマツダだ。スズキの一件のように政府の方針転換によってはしごを外されないことを切に祈るばかりである。政権が変わった際に前政権のプロジェクトを強制終了するのは“タイあるある”なので。
(文=工藤貴宏/写真=三菱自動車、トヨタ自動車、webCG/編集=藤沢 勝)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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