フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)
精強サラブレッド 2026.10.08 試乗記 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。GTをもっと意のままに
フェラーリ初の4ドア4シーター、プロサングエが発表されたのは2022年9月のことだ。従来の跳ね馬とは明らかに異なるスタイルでありながら、あっという間に人気が出た。同年11月には、約2年待ちの受注残を背景に新規注文の受付を一時止めたとさえ報じられている(その後、再開した)。車種別の生産台数や納車台数をフェラーリは開示していないが、2023年にデリバリーが始まり、2024年の出荷台数増をけん引したモデルのひとつにマラネッロはプロサングエの名を挙げている。
単に背の高いフェラーリを望む需要があった、というだけではなさそうだ。マラネッロはプロサングエを、快適性や室内空間、長距離移動も重視する「スポーツカードライバー」に向けたモデルと位置づけている。V12の魅力とスポーツカーらしい操縦性、乗り心地のよさを評価する声が目立つ一方、荷室やタッチ式操作系まで含めた実用性では既存の大型SUV並みではない、とする見方もあった。裏を返せばプロサングエは、実用車にフェラーリのバッジを付けたクルマではなく、フェラーリの走りを日常と長距離へ広げたGTとして正しく受け入れられてきたといっていい。
そのプロサングエにハンドリング スペチアーレ(以下、HS)というモデルが新たに加わった。狙いは、GTとしての快適性や用途の広さを保ったまま、ドライバーが受け取るシャシーの情報をもう少し研ぎ澄ますことにあった。もう少しスポーティーに走らせたいという顧客からの要望も相次いだという。そのことを試すために、イタリアのバロッコにあるステランティスのテストコースへと向かった。
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改良のキモは足にある
ベースとなるパッケージはすでに、一般的な高性能SUVのそれとはかなり異なった仕様であった。65度V型の6.5リッター自然吸気12気筒エンジンをフロントミドに搭載し、8段DCTはリアアクスル側に配置するという、本格スポーツカーのレイアウトである。それに四輪駆動と後輪操舵を組み合わせた。4人を快適に乗せるという背の高いスタイルに、フロントV12スポーツカーの成り立ちを詰め込んだというわけだ。
HSでは電動アクティブサスペンションの制御を煮詰めている。現地で取材したプロダクトマネージャーの説明によれば、四輪のアクチュエーターは毎秒200回の頻度で制御され、ハード設定時の動的ロールは約10%低減されているという。
コースは、カントリーロードを模したレイアウトのハンドリング路であった。すでにやんで日差しも出てはいたが、朝から降った雨で路面にはぬれた部分が残るハーフウエットの状態だ。こういう難しいコンディションでは、パワーやグリップだけで走りやすさは決まらない。ドライバーが荷重の移り方をいかにつかめるか、姿勢を崩したときにクルマがいかに素早く次の操作を受け入れてくれるか、にかかっている。
常にFR寄りのフィーリング
走りだしてすぐ、HSの狙いはそのターンインに表れていた。フロントは当然ながら素早く反応するが、鼻先だけが急に向きを変えるような不自然さは全くない。その名から想像するよりずっとリニア。ステアリングに対してクルマが素直に動き、旋回の途中でも修正しやすい。大きく荷重が移ったあとには、姿勢の収まりの早さが効く。前のコーナーの余韻を引きずらず、次の舵を積極的に入れていける。
印象的だったのは、四輪駆動と後輪操舵を備えながら、感触が終始FR寄りだったことだ。後輪が路面を捉える様子は腰を通して伝わり、前輪は両手に直結して先にある。ハーフウエットのコーナーへ少し速めに入っても、クルマは過剰に介入感を示さず、姿勢を戻す余地を残してくれた。プロサングエを走らせているときに感じる、車体と体の距離の近さがHSではさらに密である。
8段DCTの変速制御にも手が入っている。5000rpmを超える領域では、よりスポーティーな変速フィールを目指し、オートモードでのキックダウンに要する時間は25%短縮されたという。確かに「レース」モードではダイレクトかつ素晴らしく歯切れのいい変速をみせた。
標準仕様のプロサングエと同じ条件で比較してはいないので正確にはいえないけれど、低速域での乗り味は、やはり少し引き締まった感触があった。それでも街なかを想定した速度で過度に身構えるほどではない。少なくとも、普段の用途を忘れてしまったような硬さではなかった。
長所を伸ばした“濃い味バージョン”
V12のラウドなサウンドもHSの大きな魅力だ。始動直後から加速へ移るあいだ、車内に届く音の存在感が強い。始動時と加速時のサウンドをより力強く聞かせるための設定にこだわって開発された。公道でエンジンを高回転まで回せる機会は限られる。だから低中速域でアクセルを踏み増したときに12気筒の気配が濃いことは、このクルマでは案外重要な要素だ。音を聞くためにHSを選んだ、という決断があってもいい。
外観の差異化は控えめにとどめられている。専用デザインのダイヤモンドカットホイール、カーボンファイバー製のサイドシールド、マットブラックの排気管などが与えられた。いずれもプロサングエの良好な存在感を過度に演出するものではない。
HSは、プロサングエを別の種類のクルマに変えるためのものではなかった。4人で使えて、長距離も苦にせず、それでいてドライバーが一人になったときにはフェラーリらしい操作感とV12サウンドを楽しめる。バロッコで乗ったHSは、プロサングエというGTの持ち味をより一層“濃厚”にした進化版、おそらくはV12を積んだサラブレッドの最終形であった。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4973×2028×1589mm
ホイールベース:3018mm
車重:2033kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:725PS(533kW)/7750rpm
最大トルク:716N・m(73.0kgf・m)/3000-5750rpm
タイヤ:(前)255/35R22(後)315/30R23(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:17.3リッター/100km(約5.8km/リッター WLTPモード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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