電動化された新型「A110」の登場はいつ? 来日したアルピーヌのクリエフCEOに未来戦略を聞く
2026.10.12 デイリーコラムまさに一大転機を迎えたアルピーヌ
仏アルピーヌは去る2026年9月24日、フィリップ・クリエフCEOが今後のブランド戦略を説明するメディアイベントを、東京都内で開催した。クリエフCEOがこの時期に来日した主な理由は、ファンならお察しだろう。9月25日から27日にかけて富士スピードウェイで開催された、FIA世界耐久選手権(WEC)の第6戦となる富士6時間耐久レース(通称WECジャパン)のためである。
現在WECを走っている「アルピーヌA424」は、デビューシーズンとなった2024年の最高位となる3位をWECジャパンで記録し、2025年には現時点で唯一の優勝を同じくWECジャパンで飾るなど、富士スピードウェイとの相性がいい。今年のWECジャパンでも、ゴールまで残り1時間を切ったところで発生したGT3マシンのクラッシュによる混乱で惜しくも優勝は逃したものの、フロントローでのスタートから5時間あまりを1位、2位体制で走り続けて、A424は相変わらずの富士での速さを見せつけた。
しかし、アルピーヌはこの2026年をもってのWECからの撤退を発表している。富士スピードウェイでアルピーヌの勇姿を見るのも、残念ながら、ひとまず今年が最後となる。
アルピーヌといえば、同ブランド初の電気自動車(BEV)となる「A290」を2024年秋に、第2弾BEVの「A390」を2025年初夏に欧州デビューさせた。そして、この2026年7月には2代目「A110」の生産も終了したことで、アルピーヌは現在、まさに一大転機を迎えており、WEC撤退もそうした転換点の一つとみることもできる。
ご承知の向きも多いように、少なくともA290については日本導入が前向きに検討されている。それが実現すれば、日本市場では2018年の2代目A110以来の新型アルピーヌの導入であり、2026年は日本におけるアルピーヌブランドの“第2章”の幕開けともいえる。そう考えると、これまでアルピーヌにとって世界で3位~5位という高い地位を常に占めてきた日本市場において、CEOみずからがこのタイミングで今後の戦略を語ることには大きな意味がある。
クリエフCEOによると、今後のアルピーヌはWEC撤退後は唯一の世界選手権モータースポーツ活動となるF1を“レーシングソウル”の核として、大きく3つの柱からなるラインナップを構築していくという。
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新型A110の登場は2027年?
日本導入が期待されるホットハッチのA290と、その上級GTモデルとなるA390は“日々に刺激を与えてくれる日常モデル”である。ご承知の好事家も多いように、A290は「サンク」、A390は最新の「メガーヌ」と、ともに基本骨格をルノーブランド車と共有するBEVである。
2つめの柱は“アイコン”で、ずばり通算3代目となる新型A110のことだ。新型A110については、それが新開発の「アルピーヌパフォーマンスプラットフォーム(APP)」を土台としたBEVスポーツカーであり、前後2分割バッテリーレイアウトや左右2モーター式の後輪駆動になることはすでに公表済み。そのAPPに2代目A110の上屋をかぶせたテスト車両を、2026年7月に英国で開催された「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で走らせてもいる(参照)。
そして、WECジャパン直後の9月28日には、担当デザイナーによると「超音速旅客機コンコルドからインスピレーションを得た」というシルエット(の一部)を、彫刻というカタチで公開。2027年ともいわれる正式デビューに向けて、新型A110のティーザーキャンペーンは着々と進んでいる。
そして、最後となる3つめの柱が、今回初めて明確に語られた“スペシャルプロジェクト”である。これは2代目に用意された「A110Rウルティム」に相当する特別な高性能モデルを指す。ちなみに、2代目ベースのA110Rウルティムは「公道も走れる究極のサーキットカー」として2024年秋に発表。世界で110台という超限定モデルで、日本では4200万円~5200万円(!)という破格の値段で販売された。
今後のアルピーヌはこの3本柱のラインナップを基本として、「軽量こそ力なり」をコンセプトに、ハイエンドスポーツブランドとしてあらためて訴求していくという。クリエフCEOによると、そのなかでも「軽量」で、それゆえ「俊敏」であることはアルピーヌの生命線であり、新型A110の土台となるオールアルミのAPPにもその思想が貫かれている。
新しいスペシャルプロジェクトアルピーヌがA110をベースにするかどうかは定かではないが、 コストより性能を優先したスーパースポーツカーになることは確実だろう。
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エンジン搭載モデルが登場する可能性は?
現時点では新型A110用の前後2分割バッテリーの2シーター後輪駆動レイアウトのみが公開されているAPPだが、設計上は床下へのバッテリー搭載や、前後2モーター4WD、さらには2+2シーターレイアウトへの発展も想定したモジュラー構造になっている。将来的にはAPPを使った“アイコン”モデルの拡充、あるいはA290やA390を超える高性能かつ日常的なアルピーヌが登場する可能性もある。
今後のアルピーヌはこうした新しい戦略に合わせて、現在は世界で約170店(日本では23店)となっている販売拠点を、世界で300店レベルまで引き上げることを目指すという。現在のほぼ倍増という野心的な目標だが、従来どおりのアルピーヌ専売店をやみくもに拡充するわけではなく、既存のルノー販売店に新たにアルピーヌコーナーを設置するのが主たる戦略になるようだ。さらにいうと、そうしたルノー併売店であつかうのはA290やA390といった日常モデルだけで、新型A110や新たなスペシャルプロジェクトモデルを手に入れられるのは、これまでどおり、アルピーヌ専売店のみになるらしい。
……と、今回語られたアルピーヌの将来戦略や紹介されたBEVは、2021年1月に発表された全車BEV化を含む「ドリームガレージ」と称した戦略に沿ったものである。ただ、いったんは完全BEV化を宣言しつつも、(少なくともしばらくは)エンジン搭載車との併売に軌道修正する欧州ブランドも増えているが、アルピーヌはそうではない。
その点について、今回あらためてクリエフCEOにうかがったところ、最近メディアでも報じられているとおり、「APPはエンジンも搭載できる設計にはなっています」としつつも、「現時点ではAPPにエンジンを搭載する計画はありませんし、かりに今日か明日にゴーサインを出したとしても、それが実際の商品として世に出るまでに数年はかかるでしょう。繰り返しになりますが、現時点ではそうした計画はありません」との回答だった。
というわけで、この記事がアップされる10月12日に開幕するパリモーターショー2026では、新型A110を彫刻のカタチでチラ見せする「A110スカルプチャー」やA290とA390の最新仕様のほか、今回語られたスペシャルプロジェクトを示唆する初のコンセプトカー「SP1」が出展予定だ。そこでは、現時点で計画されている新生アルピーヌの世界観とラインナップがフルで表現されることになるわけだ。
(文=佐野弘宗/写真=アルピーヌ/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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