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エディターから一言番外編島下泰久が提言、「東京ショーは、生のクルマ情報のネタ元たれ!」

2009年10月23日から11月4日まで催された「東京モーターショー」。今回は海外主要メーカーの出展とりやめ、開催期間の短縮などもあって、総来場者数は61万4400人と前回(2007年)より81万1400人も減ってしまった(57%の減少)。
そんなショーを、自動車ジャーナリストの島下泰久はどう見たのだろうか?

■クルマへの熱、まだまだあるじゃん!

今年の東京モーターショーには、取材者といういつもの立場とはちょっと違ったかたちでも関わることになった。今年初頭、今年のショーがどうやら危機的状況となりそうだと判明した時点で、何とかしなければと立ち上がった同業有志とともに、色々なイベントを行ったからだ。

まず10月24日と11月3日の休日には、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)主催のタウンミーティングを開催した。講演会でもトークショーでも無く、タウンミーティング。ようするに皆でクルマのことを話そうよ、ということだ。清水和夫氏と行った24日のテーマは「クルマ好きが考えるクルマ社会の未来」。3日には河口まなぶ氏、それと「トヨタFT-86コンセプト」開発責任者の多田哲哉氏、「マツダ・ロードスター」開発主査の貴島孝雄氏らと「スポーツカーに未来はあるのか?」というテーマで話をした。

また、これもAJAJからの提案として「自動車ジャーナリストによるモーターショーガイドツアー」も行った。我々が取材などで得た知識をもとに、色々な角度から、あるいはもっと深くショーを観てもらえるようガイドを務めたのである。

これらもあって、結局都合5日間通った今回のショーを振り返って思うのは、クルマへの熱、まだまだあるじゃん! ということだ。彼らと話もしないで「若者のクルマ離れ」とか安易に言わないでほしいもんだ、と改めて思ってしまう。

たしかに来場者数は激減した。けれど、これだけ悲観的な報道の中で、これほどの人が来たのだ。楽観しろというわけではなく、それでも来てくれた人達のことを思わなければ、という話である。

現役自動車ジャーナリストが来場者を案内する「ガイドツアー」には、約450人が参加した。
現役自動車ジャーナリストが来場者を案内する「ガイドツアー」には、約450人が参加した。
目玉のひとつ、「レクサスLFA」のメカニズム。じっくり眺めると面白い発見がいくつもあったが、詳細な説明があればもっと楽しめたはず。
目玉のひとつ、「レクサスLFA」のメカニズム。じっくり眺めると面白い発見がいくつもあったが、詳細な説明があればもっと楽しめたはず。
なんとショー直前にブランドの撤退、日本市場撤退ではなくブランド自体の終了が決まってしまったビューエル。東京が最後の勇姿となった。
なんとショー直前にブランドの撤退、日本市場撤退ではなくブランド自体の終了が決まってしまったビューエル。東京が最後の勇姿となった。

■クルマ界を盛り上げるために

それとも関連するが、ショーは楽しみ方を示すということについて、今後は真剣に考える必要があるだろう。ガイドツアーをやると決めてから思っていたのは、実はモーターショーって結構不親切だな、ということだった。極端な話「観たければどうぞ」と言われているようで。

実は今、クルマ自体も同じような状況なのかもしれない。興味を持った人を引っ張りきれていないというか……。手前味噌ではあるけれどこのガイドツアー、例年だったら行かなかったかもしれない部品メーカーのブースも、ガイドによっては「あ、そう観れば楽しいかも」と思ってもらえたと思う。それと似た話で、クルマが売れないとかクルマ離れだとか嘆く前に、もう一度、クルマの楽しみ方をガイドしてもいいんじゃないかという気がしたのだ。少なくとも、皆に話題にしてもらえるだけのネタを提供することに、もっと真剣に取り組んだっていい。

たとえば今回のショー、お客さんの集まり具合を見ても、あるいはインターネットなどでの採り上げられ方を見ても、スターはやはり「FT-86」だったと思う。「ホンダCR-Zコンセプト2009」もそうだろうか。でもこの2台、観に行ったところで、ネットで拾える以上のネタがあっただろうか? 実際はただクルマが置いてあるだけだった。より詳細なスペックのヒントでも、開発テストの映像でも、チーフエンジニアのトークでも、ここに来てネタが拾えたら、それを持ち帰って誰かと話ができる。そうやって日常にクルマの話を広げていく、なんてことは考えても良かったのではないだろうか?

すでに市販されているクルマについてもそうだ。ハイブリッドで世界をリードしていると自負するならトヨタやホンダは、いかにハイブリッドは優れているのか、それがわかる展示なり何なりをしてほしかった。そうすれば、「プリウス」や「インサイト」を買った人は自分の選択が間違いじゃなかったという気分になれるし、ユーザーじゃない人も日本の技術の誇りに触れることができただろう。世界に対しても強いメッセージとなり得たはずだ。

モーターショーは、そうした話題づくりのきっかけになるべきなのだ。インターネットでは手に入らない生の情報と、ライヴでしか味わえない熱気によって。クルマへの熱を抱く人が、周囲をその熱に巻き込んでいくという図式をつくること。それこそクルマ界を盛り上げるためのひとつの道のはずである。

最初にも書いたように、熱気はまだまだあると信じている。少なくとも、まだくすぶってはいる。それを感じることができたし、だからこそやるべきことも見えた。そんな気がした今回のショーだった。

せっかくの(?)危機である。次に生かさなければ損ってもんである。

(文と写真=島下泰久)

「トヨタFT-86コンセプト」の周囲はいつも黒山の人だかり。クルマをちゃんと見られなかった人も多いのでは? 周りにキーとなる技術の説明あるいはヒントの提示などがあれば良かったのだが……。
「トヨタFT-86コンセプト」の周囲はいつも黒山の人だかり。クルマをちゃんと見られなかった人も多いのでは? 周りにキーとなる技術の説明あるいはヒントの提示などがあれば良かったのだが……。
LFAのパーツは多くの部品ブースで見ることができた。
LFAのパーツは多くの部品ブースで見ることができた。
興味深い技術展示が行なわれていたのがダイハツだ。この今までとまったく異なる概念の燃料電池も、軽自動車用2気筒直噴ターボエンジンも、明るい未来を感じさせてくれた。
興味深い技術展示が行なわれていたのがダイハツだ。この今までとまったく異なる概念の燃料電池も、軽自動車用2気筒直噴ターボエンジンも、明るい未来を感じさせてくれた。
島下 泰久

島下 泰久

モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。

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