ホンダ・シビック タイプR ユーロ(FF/6MT)【試乗速報】
これぞプレミアムホットハッチ 2009.11.05 試乗記 ホンダ・シビック タイプR ユーロ(FF/6MT)……298.0万円
予定からおよそ半年遅れ、英国製「シビック タイプR」がついに日本上陸。ニッポンの「タイプR」との違いはどれほど? 下野康史が試した。
「タイプR ユーロ」は2010台限定
欧州版「シビック タイプR」が、ついに、というか“やっと”発売された。セダンベースの日本版(以下FD2)とは別物。コンパクトな3ドアボディに構築された英国ホンダ製の“タイプR ユーロ”である。ヨーロッパで本格デリバリーが始まったのは2007年から。以後、日本でも並行輸入する好事家が出るほど、一部で人気が高かった。それに応えて、ホンダも導入を表明したが、折悪しく、金融危機で延び延びになっていた。
待望の国内デビューといっても、「日本版シビック タイプRはFD2」というホンダの基本方針は変わっていない。タイプR ユーロは2010台の限定輸入モデルで、完売しても限定の“おかわり”は考えていないという。FD2同様、変速機は6段MTのみ。価格は298万円。FD2より約15万円高い。
ワインディング・ベストを目指す
2リッターの高性能FFモデルという括りは同じでも、タイプR ユーロはFD2とは同名異車のシビック タイプRである。ベースは「フィット」。彫刻的なカタマリ感のある3ドアボディはセダンのFD2よりコンパクトで、ホイールベースは65ミリ短く、全長は27センチ小さい。
クルマとしてのキャラクターも異なる。ホンダの説明を要約すると、「サーキット・ベスト」のFD2に対して、タイプR ユーロはヨーロッパの一般道、とくにワインディングロードでのベストを目指してつくられた。具体的にはFD2よりコンフォートを重視したタイプRである。
乗り込むと、中は意外や広い。量感のあるダッシュボードや広々した前方視界から、ミニバン的なムードすら漂う。「タイトなコクピット」という緊張感はない。こう見えて、後席にも大人がちゃんと座れる。荷室も確保され、背もたれを倒せば、座面も同時にダイブダウンしてフルフラットなカーゴルームが出来上がる。こんなところはフィット譲りだ。ボディの実用性もユーロスタンダードである。
だが、このクルマの真価はもちろんそんなことだけではない。箱根乙女峠麓の試乗会場から道路へ出て、最初の“ひと加速”をくれた途端、ぼくは、シビれた。これは「全身スポーツ」と呼びたくなるようなプレミアムホットハッチである。
洗練、生き生き、もうサイコー!
FD2と決定的に違うのは、足まわりの印象だ。ザックスのダンパーでコントロールされるサスペンションは“タイプR”だけに、硬いことは硬い。だが、乗り心地無視、ヤケクソのように硬いFD2と比べると、オンロードカーとして格段に洗練されている。18インチのヨンマルでも、ゴツゴツした硬さはよくチェックされているし、サスペンションのストローク感も申し分ない。それでいて、ボディも足まわりもFD2よりギュッと引き締まった実感がある。
ロック・トゥ・ロック2.25回転のステアリングは実にクイックなだけでなく、路面のインフォメーションも生き生きと伝えてくれる。1320kgの車重は大柄なFD2より60kg重いのだが、それが信じられないくらいユーロは身軽だ。やはり英国直輸入だった先代シビック タイプR(EP3)からFD2に変わったとき、「ああ、デッカクなっちゃった……」と嘆息したタイプRファンにとっては、間違いなく垂涎モノのクルマである。
「K20A」の型式名こそ変わらないが、2リッターのi-VTECエンジンも“ユーロ化”の施された独自ユニットである。ピークパワーはFD2の225psに対して201psと控えめにとどめ、そのかわり二次バランサーを付けて、いっそうのスムースさを手に入れている。VTECのカムチェンジがもたらす二段ロケット的な回転フィールは影をひそめたが、8300rpmのレブリミットまでいっさいの雑味なしに吹き上がる、その回転フィールといったら「サイコー!」と声を上げるしかない。控えめとはいえ、依然として1000ccあたり100psを超すハイチューンユニットである。
触れた途端、人肌に温まる球形アルミシフトノブを握り、静止からフル加速すると、最短6.6秒(メーカー公表値)で100km/hに到達する。しかしそんな韋駄天データを持ち出すまでもなく、とにかくこれほど回して気持ちのいいエンジンも珍しい。
欧州は3/5ドアのハッチバック、日米は4ドアセダン、というシビックの世界戦略に基づいて、現行タイプRもこれまでの品ぞろえでやってきた。だが、数量限定お取り寄せのユーロ版に乗ってみると、これはもう「うらやましさのカタマリ」である。試乗する直前まで、新しい「ルノー・ルーテシア ルノースポール」に乗っていたのだが、ユーロホットハッチのなかでは偏差値の高い新型ルノースポールも、シビック タイプR ユーロと比べると「一世代前のクルマ」に感じてしまった。 欧州マスコミの大絶賛はウソではなかった。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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