第11戦ヨーロッパGP「バリケロ、5年ぶりの勝利の重み」【F1 09 続報】
2009.08.24 自動車ニュース【F1 09 続報】第11戦ヨーロッパGP「バリケロ、5年ぶりの勝利の重み」
2009年8月23日、スペインのバレンシア市街地コースで行われたF1世界選手権第11戦ヨーロッパGP。最多出場記録保持者、37歳のルーベンス・バリケロは、力強い走りでライバルをミスへと追い込み、見事優勝した。今世紀初めのフェラーリ黄金期を身を挺して支えた大ベテランは、ホンダでの不遇の時代を経て、5年ぶりに勝利を掴んだ。
■新2強対決の間を割って
F1は、サマーブレイクと称したファクトリーの強制シャットダウン期間を終え、中盤戦を再開した。場所は2度目のGP開催となる地中海沿いの都市、スペインのバレンシア。ストップ/ゴーが続く、高速コーナーがない、抜きにくいストリートサーキットだ。
前戦ハンガリーで起死回生の今季初勝利をあげたチャンピオン、ルイス・ハミルトンは、その好調さを維持したまま、予選で今年初のポールポジションを獲得した。ヘイキ・コバライネンもフロントローに並んだことで、マクラーレンはハンガリーでの勝利がフロックでないことを証明した。
これまでブラウンとレッドブルの“新2強”を中心に展開されてきた今年のチャンピオンシップは、マクラーレンの復活でまた新しい局面を迎えつつある。
シーズン序盤に大量マージンを築いたブラウンと、夏に反撃を開始した、ブラウンに一刻も早く追いつき追い越したいレッドブル。そこに高得点をさらうマクラーレンが加われば、ブラウンの貯金はなかなか減りづらくなる。点差を効率よく詰められないレッドブルにとっては苦しい状況だ。
そんなレッドブルは、強力な武器である空力特性を十分生かせないバレンシアで、2台揃って無得点という最悪の結果を残した。いっぽうでブラウンは、最大のライバルの脱落を尻目に、自らの力でマクラーレンを撃退した。チームを勝利へ導いたのは、これまで6勝しているポイントリーダー、ジェンソン・バトンではなく、その影で悶々としていた大ベテラン、ルーベンス・バリケロだった。
■レッドブルの大敗
フロントローを独占したマクラーレンに続くのは、予選3位バリケロ、4位セバスチャン・ベッテル、5位バトン、6位キミ・ライコネン。KERS搭載のマクラーレンとライコネンのフェラーリがスタートで有利とされ、現に決勝レースがはじまると、トップ2台は好スタートを切り、バリケロは3位をキープしたが、ライコネンは6位から4位にジャンプアップを果たした。
その後ろ、5位にはベッテルがつけたが、6位に続くのはバトンではなく、ニコ・ロズベルグ、そして7位にはフェルナンド・アロンソ。バトンはポイント圏内ギリギリの8位まで落ち、さらにシケインをカットして追い越したとして、マーク・ウェバーに8位の座を返し9位からレースを組み立てることになった。
バトンはタイトルを争うレッドブルの2台に先行を許し、またトラフィック中でペースを上げられないという状況に陥ったが、後述するベッテルのリタイアに加え、前方がクリアになると速さを取り戻し、2度目のピット作業を終えるとウェバーを抜くことに成功。7位ゴールと戦績はぱっとしなかったが、痛手はほとんどなくレースを終えた。
トップのハミルトンは、レース序盤に2位の僚友コバライネンをどんどん引き離し、10周で5秒以上のギャップを築いた。いっぽう3位を走行するバリケロはコバライネンの2秒内をキープ。虎視眈々と上位を狙っていた。実は、グリッドでこそマクラーレンが1-2を取ったが、燃料搭載量から導き出される計算上の最速タイムは、バリケロが叩き出していたのだ。
そう、この日のブラウン/バリケロには速さがあった。16周で1位ハミルトン、翌周コバライネンがピットストップを行うと、暫定トップのバリケロはファステストラップを記録しながらトップ2台との差を詰めにかかった。20周でピットへ飛び込み、コースへと復帰するとコバライネンの前に。バリケロは、いよいよトップのハミルトンに照準を合わせた。
この間、16周でピットに入ったベッテルは、フューエルリグのトラブルで十分に給油ができず再度ピットイン、ポイント圏内から脱落した。そして24周、土曜日のフリー走行同様、ベッテルのルノーエンジンから白煙があがり、2戦連続のリタイアが決まった。ウェバーの9位無得点完走とあわせ、レッドブルはタイトル争いに大きな影を落としかねないリザルトを記録した。
■マクラーレンのミスの理由
バリケロ最大の見せ場は第2スティント。履き替えたタイヤに問題を抱える1位ハミルトンに果敢に挑み、アグレッシブな走りを披露した。
そんななか、37周目にハミルトンが2回目のピットへ。だがマクラーレンのクルーは交換するタイヤを用意しておらず、貴重なタイムが失われてしまった。
このマクラーレンの初歩的なミスは、ピット戦略をギリギリまで決めかねていたからだったと、レース後、マクラーレンのボス、マーティン・ウィットマーシュが明かしている。ハミルトンより長くスティントを走るバリケロを後方にとどめるためには、ハミルトンもなるべくスティントを長くし、軽いマシンでプッシュし続けたい。しかし、ハミルトンはどれほど周回を延ばせるのか? コバライネンとのピットタイミングは調整できないか? 思惑と計算が交錯するうちに、ピットクルーへの指示伝達が遅れてしまった、ということだった。上位2台の間では、ギリギリまで決断を待つほど緊迫した接戦が繰り広げられていたのだ
ハミルトンがピットでもたついていた時、暫定首位に立ったバリケロは最速タイムでギャップをどんどん縮めていた。そしてハミルトンの3周後に給油・タイヤ交換を済ますと、「P1」のまま復帰。そしてそのままゴールまで駆け抜けた。
■5年ぶりの頂点
バリケロの初優勝は、フェラーリに移籍した2000年、参戦125戦目に訪れた。遅咲きのブラジル人ドライバーは、その後フェラーリで9勝を記録したが、ミハエル・シューマッハーを頂点に据えるチームのなかでは常にナンバー2の役回りを強要され、勝利すら譲らなければならないことも度々あった。
そんな複雑な環境に嫌気がさして、2006年にフェラーリを飛び出し、新天地ホンダへ。だが競争力あるマシンに恵まれず、勝利も栄光も過去のものとなっていった。2008年末にはホンダが突如F1撤退を発表し、GPドライバーとしてのキャリアも終わりかかった。新生ブラウンの一員として2009年もドライブを続けられることになったばかりか、勝てるマシンを手に入れたことはまさに奇跡だった。だが、ウィニングマシンを駆る喜びは、やがて苛立ちに変わっていく。
勝利を重ねるのはチームメイトばかりという状況で頭をよぎるのは、フェラーリでの悪しき思い出だったに違いない。チームはバトンに肩入れしていないか? なぜ同じマシンで自分は勝てないのか? くしくもフェラーリ時代の指揮官は、いまのチーム代表、ロス・ブラウンその人である。シーズンが進むにつれ、チームへの批判も度々聞かれるようになった。
37歳、キャリア終盤を迎えているドライバーに一番必要だったのは、自分はまだ勝てる、という自信だった。5年ぶりに表彰台の頂点に立った男の顔からは、大きな喜びとともに安堵が感じられた。そしてGPドライバー歴17年の老兵の勝利に、誰もが惜しみない拍手を送っていた。
次戦はスパ・フランコルシャンでのベルギーGP。決勝レースは8月30日に開かれる。
(文=bg)
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