バーストナー・ネッソーT687(FF/6MT)【試乗記】
キャンプしなくていいじゃない! 2009.08.13 試乗記 バーストナー・ネッソーT687(FF/6MT)……627万9000円
ドイツ製高級キャンピングカーに試乗した。日本ではアウトドア好きの一部マニアが乗るクルマ!? といった印象だけれど、欧州では生活の中にしっかり根付いているこのジャンル。室内の様子や乗り心地を下野康史がリポートする。
エンジン付きの家
海外でキャンピングカーライフがいかに根づいているか、「ツール・ド・フランス」のテレビ中継を見ているとよくわかる。川の流れのごとく、選手の集団が駆け抜けるその沿道に、キャンピングカーが群れをなしている。夏のバカンスシーズン、3週間にわたって行われる世界一の自転車レースを移動しながら観戦する“追っかけ”のクルマだ。ホテルやレストランの世話にならずに旅ができるキャンピングカーならではの使い方だ。
昔、RACラリーの取材でラリーカーをコース脇で待っていたら、すぐ隣にいた観客が、ロンドンからキャンピングカーでラリーを見にきたという熟年カップルだった。地元スコットランド人のコリン・マクレーが「スバル・インプレッサ」で連勝していたころである。でも、そんなことより、いまはキャンピングカーの水がきれていることのほうが気になってるんだよと、オイルコートをかっこよく着こなしたおじさんは言った。
“キャンピングカー”というのは実は和製英語で、ワンボディの自走式キャンパーは、欧米では“モーターホーム”と呼ばれる。「モーター(エンジン)付きの家」だ。こういうものを見ると、十把ひとからげに「あっ、キャンピングカーだ!」と言ってしまう日本人って、マズシイと思う。ふだんの日常を家の外に持ち出せるのがモーターホームの真髄といえる。べつにあくせくキャンプ活動などしなくたっていいのである。
クラフトマンシップを感じる
バーストナー社は、ドイツの高級モーターホーム・ビルダーである。1924年に家具づくりで社業を興し、50年代からこの種の旅行車をつくり始めた。現在の生産台数は年間約2万台。欧州屈指の専門メーカーである。
「ネッソーT687」は、バーストナーの最新型モーターホームだ。「フィアット・デュカート」のランニングシャシーに就寝定員4名/乗車定員5名の家を架装してある。「687」の数字はボディ全長を表し、つまり長さ6.9mに近い。全幅は2.3m、全高は2.75m。クルマとして見ると、まさに小山の如き大きさだ。
靴を脱いで、客室ドアから部屋に入ると、中は木の匂いだ。ログハウスかと思う。まずはこれがバーストナーの魅力である。内装に天然木をふんだんに使用している。それもドイツ南西部のライン川沿いにある工場で製材から行う徹底ぶりだ。家具づくりからスタートした歴史のなせるわざだろう。
ホーム部分のボディはアルミ製だから、日本製キャンピングカーにありがちなグラスファイバーのケミカル臭とも無縁だ。いい匂いのするおウチである。
大人が普通に立って歩ける室内には、ひととおりの生活道具が揃っている。キッチンシンク、3バーナーのガスレンジ、冷蔵庫、シャワールーム、水洗トイレ、洗面台……。高級モーターホームならあたりまえの装備とはいえ、これらが4本の車輪に支えられて走るのかと思うと、ただただ呆れるばかりである。
ネッソーT687のいちばん大きな特徴は、 キャビン後方にデンと構えるセンター・ダブルベッドである。長さ195cm×幅145cmのリアベッドを側壁に寄せて置くのではなく、床の中央に配置した。そのため、ベッドの両側に通路ができた。これにより、奥に寝る人が、手前の人をまたいで出入りする不便がなくなった。モーターホームを持っていない人、つまりモーターホームレスにはさっぱりわからないが、わかる人にはたいへんうれしいスペックであるらしい。
リアベッドの下はガレージで、遊び道具や自転車など、嵩モノを放り込んでおける。トビラはボディ外側にあるが、ベッドを起こせば室内からもアクセスできる。そのときに驚いたのは、マットレスの懸架構造が木の板をきれいに並べたウッドスプリングでできていることだった。ドイツ車でも、いまどきこれほど“クラフトマンシップ”という言葉を強く感じさせるものはそう多くない。
なめらかで静かでフラット
大きいといっても、普通免許で乗れる最大クラスの4トントラックよりは短い。狭いところへ行かない限り、それほど取り回しには苦労しない。左ハンドルは、すれ違いのとき、路肩ぎりぎりまで寄せるのに好都合だ。ただ、真後ろはまったく見えず、合流の際の斜め後方視界もよくない。オーナーはカメラや補助ミラーを付けて工夫するという。
エンジンは、フィアットの2.3リッター4気筒コモンレールディーゼルターボ。3トン近い車重に対して、パワーは130psだが、6段MTということもあり、意外やよく走る。エンジンは滑らかで静かだ。乗り心地はスムースでフラット。走行中の快適性もバーストナー・モーターホームの大きな魅力である。
バーストナー社50周年を記念したこのモデルは、627.9万円の価格もお値打ちだ。“乗り出し”で約700万円。「メルセデスE300」より安いのかと思うと、たしかに驚きだ。高価な外車はよく「家が買えちゃうね」と言われたりするが、これは買うと本当に家がもれなく付いてくるクルマである。8ナンバーだから、税金などの諸経費は2.5リッタークラスの乗用車とそれほど変わらない。
購入後の値落ち率は、どんなクルマや不動産よりも小さいらしい。あぶく銭で衝動買いされるクルマではないせいか、リーマン・ショック以降も人気は堅調だそうだ。
(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。
