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【スペック】全長×全幅×全高=約6800×2300×2750mm/ホイールベース=3500mm/車重=2820kg/駆動方式=FF/2.3リッター直4DOHC16バルブコモンレールディーゼルターボ(130ps、32.0kgm)/価格=627万9000円

バーストナー・ネッソーT687(FF/6MT)【試乗記】

キャンプしなくていいじゃない! 2009.08.13 試乗記 下野 康史 バーストナー・ネッソーT687(FF/6MT)
……627万9000円
ドイツ製高級キャンピングカーに試乗した。日本ではアウトドア好きの一部マニアが乗るクルマ!? といった印象だけれど、欧州では生活の中にしっかり根付いているこのジャンル。室内の様子や乗り心地を下野康史がリポートする。
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エンジン付きの家

海外でキャンピングカーライフがいかに根づいているか、「ツール・ド・フランス」のテレビ中継を見ているとよくわかる。川の流れのごとく、選手の集団が駆け抜けるその沿道に、キャンピングカーが群れをなしている。夏のバカンスシーズン、3週間にわたって行われる世界一の自転車レースを移動しながら観戦する“追っかけ”のクルマだ。ホテルやレストランの世話にならずに旅ができるキャンピングカーならではの使い方だ。

昔、RACラリーの取材でラリーカーをコース脇で待っていたら、すぐ隣にいた観客が、ロンドンからキャンピングカーでラリーを見にきたという熟年カップルだった。地元スコットランド人のコリン・マクレーが「スバル・インプレッサ」で連勝していたころである。でも、そんなことより、いまはキャンピングカーの水がきれていることのほうが気になってるんだよと、オイルコートをかっこよく着こなしたおじさんは言った。

“キャンピングカー”というのは実は和製英語で、ワンボディの自走式キャンパーは、欧米では“モーターホーム”と呼ばれる。「モーター(エンジン)付きの家」だ。こういうものを見ると、十把ひとからげに「あっ、キャンピングカーだ!」と言ってしまう日本人って、マズシイと思う。ふだんの日常を家の外に持ち出せるのがモーターホームの真髄といえる。べつにあくせくキャンプ活動などしなくたっていいのである。


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「ネッソーT687」は、乗員5名、就寝4名のファミリー・夫婦向け仕様。室内に入って右側には広いリビングルームが。テーブルとシートをアレンジすると大人2人が寝られるベッドになる。
「ネッソーT687」は、乗員5名、就寝4名のファミリー・夫婦向け仕様。室内に入って右側には広いリビングルームが。テーブルとシートをアレンジすると大人2人が寝られるベッドになる。 拡大
ネッソーのベースとなったのは、フィアットの大型バン「デュカート」。モーターホーム専用に設計された低床シャシーにより、優れた走行安定性を実現したという。
ネッソーのベースとなったのは、フィアットの大型バン「デュカート」。モーターホーム専用に設計された低床シャシーにより、優れた走行安定性を実現したという。 拡大

クラフトマンシップを感じる

バーストナー社は、ドイツの高級モーターホーム・ビルダーである。1924年に家具づくりで社業を興し、50年代からこの種の旅行車をつくり始めた。現在の生産台数は年間約2万台。欧州屈指の専門メーカーである。
「ネッソーT687」は、バーストナーの最新型モーターホームだ。「フィアット・デュカート」のランニングシャシーに就寝定員4名/乗車定員5名の家を架装してある。「687」の数字はボディ全長を表し、つまり長さ6.9mに近い。全幅は2.3m、全高は2.75m。クルマとして見ると、まさに小山の如き大きさだ。

靴を脱いで、客室ドアから部屋に入ると、中は木の匂いだ。ログハウスかと思う。まずはこれがバーストナーの魅力である。内装に天然木をふんだんに使用している。それもドイツ南西部のライン川沿いにある工場で製材から行う徹底ぶりだ。家具づくりからスタートした歴史のなせるわざだろう。
ホーム部分のボディはアルミ製だから、日本製キャンピングカーにありがちなグラスファイバーのケミカル臭とも無縁だ。いい匂いのするおウチである。

大人が普通に立って歩ける室内には、ひととおりの生活道具が揃っている。キッチンシンク、3バーナーのガスレンジ、冷蔵庫、シャワールーム、水洗トイレ、洗面台……。高級モーターホームならあたりまえの装備とはいえ、これらが4本の車輪に支えられて走るのかと思うと、ただただ呆れるばかりである。

ネッソーT687のいちばん大きな特徴は、 キャビン後方にデンと構えるセンター・ダブルベッドである。長さ195cm×幅145cmのリアベッドを側壁に寄せて置くのではなく、床の中央に配置した。そのため、ベッドの両側に通路ができた。これにより、奥に寝る人が、手前の人をまたいで出入りする不便がなくなった。モーターホームを持っていない人、つまりモーターホームレスにはさっぱりわからないが、わかる人にはたいへんうれしいスペックであるらしい。

リアベッドの下はガレージで、遊び道具や自転車など、嵩モノを放り込んでおける。トビラはボディ外側にあるが、ベッドを起こせば室内からもアクセスできる。そのときに驚いたのは、マットレスの懸架構造が木の板をきれいに並べたウッドスプリングでできていることだった。ドイツ車でも、いまどきこれほど“クラフトマンシップ”という言葉を強く感じさせるものはそう多くない。

室内に入って、左側にはキッチンとベッドルームがレイアウトされる。キッチンには、3つのバナーレンジと、水切り台、まな板としても使えるプレート付きのステンレスシンクが備わり、レンジの下には、104リッターの冷凍冷蔵庫が標準装備される。
室内に入って、左側にはキッチンとベッドルームがレイアウトされる。キッチンには、3つのバナーレンジと、水切り台、まな板としても使えるプレート付きのステンレスシンクが備わり、レンジの下には、104リッターの冷凍冷蔵庫が標準装備される。 拡大
キッチンの向かいには、シャワールームとトイレ。
キッチンの向かいには、シャワールームとトイレ。 拡大
「T687」の特徴でもある、センターに配置されるダブルベッド。最高級のマイクロスプリングを採用し寝心地もバツグン。
「T687」の特徴でもある、センターに配置されるダブルベッド。最高級のマイクロスプリングを採用し寝心地もバツグン。 拡大
ベッドの下には、広大な収納スペースが備わる。外からの出し入れも可能。
ベッドの下には、広大な収納スペースが備わる。外からの出し入れも可能。 拡大

なめらかで静かでフラット

大きいといっても、普通免許で乗れる最大クラスの4トントラックよりは短い。狭いところへ行かない限り、それほど取り回しには苦労しない。左ハンドルは、すれ違いのとき、路肩ぎりぎりまで寄せるのに好都合だ。ただ、真後ろはまったく見えず、合流の際の斜め後方視界もよくない。オーナーはカメラや補助ミラーを付けて工夫するという。

エンジンは、フィアットの2.3リッター4気筒コモンレールディーゼルターボ。3トン近い車重に対して、パワーは130psだが、6段MTということもあり、意外やよく走る。エンジンは滑らかで静かだ。乗り心地はスムースでフラット。走行中の快適性もバーストナー・モーターホームの大きな魅力である。

バーストナー社50周年を記念したこのモデルは、627.9万円の価格もお値打ちだ。“乗り出し”で約700万円。「メルセデスE300」より安いのかと思うと、たしかに驚きだ。高価な外車はよく「家が買えちゃうね」と言われたりするが、これは買うと本当に家がもれなく付いてくるクルマである。8ナンバーだから、税金などの諸経費は2.5リッタークラスの乗用車とそれほど変わらない。
購入後の値落ち率は、どんなクルマや不動産よりも小さいらしい。あぶく銭で衝動買いされるクルマではないせいか、リーマン・ショック以降も人気は堅調だそうだ。

(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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