第10戦ハンガリーGP「好機を逃さなかったチャンピオンの底力」【F1 09 続報】
2009.07.27 自動車ニュース【F1 09 続報】第10戦ハンガリーGP「好機を逃さなかったチャンピオンの底力」
2009年7月26日、ハンガリーのハンガロリンク・サーキットで行われたF1世界選手権第10戦ハンガリーGP。ディフェンディングチャンピオン、ルイス・ハミルトンは、苦しいシーズン前半戦を乗り越え、昨年10月の中国GP以来となる勝利の美酒に酔いしれた。
■不運の連鎖
悪いことは得てして連鎖するものだ。
7月19日にイギリスのブランズ・ハッチで開かれたF2レースで、元F1チャンピオン、ジョン・サーティースの息子ヘンリーが事故に巻き込まれた。前でスピン、クラッシュしたマシンのタイヤが頭に当たり、ヘンリーは意識を失ったままタイヤバリアに激突。病院に運ばれたが、残念ながら帰らぬ人となってしまった。
その衝撃の余波が残るハンガリーGPで、まさか同じような事故を目撃するとは、誰も予想していなかったはずだ。
土曜日の予選Q2、走行中のルーベンス・バリケロ駆るブラウンのマシンからパーツが外れ飛んだ。リアダンパーの、こぶし大ほどのスプリングは、不幸にも後ろを走っていたフェリッペ・マッサの頭部左側を直撃。マッサのフェラーリは路面にブレーキ跡を残しながら、しかしドライバーの操作をほとんど受けずに直進し続け、タイヤウォールに激突。マッサは自力でマシンから脱することなく、メディカルセンターから近郊の病院に運ばれた。頭蓋骨の損傷、脳しんとうと診断、緊急手術が実施され、その成功が伝えられたが、回復までいまもなお安静を要する状態という。レースへの復帰の目処などはたっていない。
フォーミュラカーは構造上、もっともデリケートなドライバーの頭部がむき出しとなる。続いた2つの事故が新たな安全策の論議を呼んでいるが、屋根やケージを付けるなどやや行き過ぎなアイデアも聞こえてくる。
ローランド・ラッツェンバーガー、アイルトン・セナが相次いでこの世を去った1994年シーズン、タイヤをコース中央に積み上げシケインを急造した、あのヒステリックなまでの安全策は、思い返してみると過剰反応であったように思う。ブラウンGPのロス・ブラウンがいうように、こういうときは、事実関係をクリアにした上で、節度のある慎重な対策を講じることが賢明だ。
■もうひとつの予選の混乱
マッサの事故直後の緊張感を引きずったQ3でも、思わぬ混乱が生じた。セッション終了間際、サーキットのすべてのタイミングモニターがブラックアウトし、各車の順位がわからないままチェッカードフラッグが振られた。FOM(Formula One Management)と計時を担当するLGは、システムをつなぐケーブルの不具合が原因と発表したが、マシンを降りたドライバーが各自のタイムを聞いてまわる光景は、すべてがきっちりと組織化される今日のF1界にあって、ある意味新鮮だった。
バックアップシステムが示した順位は、フェルナンド・アロンソがポールポジション、これに2位セバスチャン・ベッテル、3位マーク・ウェバー、4位ルイス・ハミルトン、5位ニコ・ロズベルグらが続くというもの。アロンソは2007年イタリアGP以来となる自身通算18回目のPPを獲得。前戦ドイツではファステストラップを記録しており、ルノーがここにきて調子を上げてきていることをうかがわせた。
復調に関していえば、マクラーレンの度合いはもっとも顕著で、ハミルトンが予選4位、昨年のハンガリーGP勝者、ヘイキ・コバライネンは6番グリッドを得た。こうなるとKERS対ノンKERSの、特にスタートでの攻防が見せ場となる。KERS非搭載車は、KERS車の好発進を心配しながら1コーナーに突っ込むことになるのだ。
ブラウン勢は、マッサの事故原因の対策でジェンソン・バトンがQ3を十分に周回できず8位。ルーベンス・バリケロはQ2どまりの13位からレースを組み立てることとなった。
■アロンソの自滅、ハミルトンの独走
決勝日、案の定KERS車はジャンプアップに成功した。ポールシッターのアロンソはトップのまま1コーナーへ。ハミルトンは一瞬2位を奪い、1コーナー出口でウェバーにさされ3位に落ちたが、この日のハミルトンには一日の長あり。4周後にKERSのパワーを借りながらウェバーを抜き、マクラーレンは2位に躍り出た。
スタートで最大の失敗をしたのはベッテルだった。5ポジションダウンし7位、しかもKERSで飛び出した予選7位のキミ・ライコネンと接触し、レース中盤、このことに起因するサスペンショントラブルで手痛いリタイアをきっすることになる。
3ストップを予定していたアロンソは軽めのタンクで予選を戦ったため、70周レースの12周目には最初のピット作業を迎えた。ここでルノーは、右フロントタイヤのナットを締め切っていないままアロンソをコースへと戻してしまう。アウトラップ中にタイヤが外れ、アロンソは3輪でよろよろと再びピットを目指し、表彰台を狙えた一戦を志半ばで終えてしまった。
だが仮にアロンソが問題なく走行を続けていたとしても、この日のハミルトンには勝てなかっただろう。ハミルトンは15周目に最速タイムを叩き出し、2位ウェバーを引き離しにかかる。ツイスティなハンガロリンクで安定して速いペースを維持。しかも燃料をセーブし、タイヤをいたわるといった、王者らしい落ち着いたレース運びでまったく危なげなかった。
20周、2位ウェバーと3位ライコネンが同時ピットイン。作業に手こずったウェバーがライコネンに先行され、順位は逆転してしまう。翌周にハミルトンがピットに飛び込んだが、その後このトップ3台は接近することなく周回を重ねた。ライコネンはハミルトンの速さに対抗できず、またウェバーもフェラーリに敵わず、だった。
■ブラウンの不調
トップ争いがこう着状態となるなか、後続ではポイントリーダーのバトンがコントロールままならないマシンに手を焼いていた。
第8戦イギリス、第9戦ドイツでは、低い気温でタイヤを適温にあたためられないことが不調の原因とされていたブラウン。だが気温26度、路面温度43度のハンガリーでも、タイヤに問題を抱えていた。
バトンはリアタイヤのグレイニング(ささくれ)からオーバーステアと格闘。なんとか7位でゴールし2点を手に入れた。レース後、問題を天候のせいにはできないとし、ここ数戦でチームが施した改善策が改悪に傾いている可能性を示唆した。それほど、連勝していたシーズン序盤のマシンから様変わりしてしまった、ということを意味している。
■今季初、KERS初
ハミルトンは、カーナンバー1を付けたマシンで、10戦目にしてようやく優勝にこぎ着けた。KERSを付けたマシンによる初勝利でもある。
予想だにしていなかった今年のマクラーレンの低調ぶりは、既に開幕前のテストで露呈していた。「MP4-24」は、特に高速コーナーでのグリップ不足を弱点としており、空力に深刻な問題があることは明らかだった。だが第6戦モナコで一時息を吹き返したことからも、中低速コースでのマッチングのよさもわかっていた。
モナコに次ぐ曲がりくねったコース、ハンガロリンクでの勝利が、即マクラーレン完全復活を示しているとはいえないが、かつてない苦境に立たされても、チームはシーズン中にアップデートを繰り返し、利点もあるが課題も多いKERSを使い続け、ドライバーは訪れた優勝の機会をちゃんとものにした。そこにチャンピオンの底力を感じずにはいられない。
バトン/ブラウン圧勝で冷めかけた2009年のチャンピオンシップだったが、折り返し地点で新興レッドブルが狼煙をあげ、本来なら主役級のマクラーレンがようやくポディウムの頂点へ。役者は多いほど盛り上がり、戦いもヒートアップしていく。観る側には楽しみな後半戦だ。
F1は3週間の夏休みに入り、次戦は2回目の開催となるバレンシアでのヨーロッパGPとなる。決勝日は8月23日だ。
(文=bg)
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