アルファ・ロメオ ミト 1.4Tスポーツ(FF/6MT)【試乗記】
ミトに学ぶ 2009.07.06 試乗記 アルファ・ロメオ ミト 1.4Tスポーツ(FF/6MT)……291万円
アルファの新しいコンパクトカーである「ミト」が、玄人からビギナーにまでウケる理由を考えてみた。
“本物感”が人気の秘訣か
「万人受け」という言葉を聞いて、どんな印象を受けますか? この言葉、特に趣味の世界ではあまりいい意味で使われないような気がする。「万人受け」は、わりと「素人向け」に近いイメージだ。でも「アルファ・ロメオ・ミト」というクルマは、玄人からも素人からも万人から支持されていて面白い。
自動車専門誌の編集者やモータージャーナリストは、「あのアシは素晴らしい」とか「エンジンのトルク感が絶妙」などなど、「ミト」を大絶賛。いっぽう、クルマにそれほど興味があるとは思えない女性からも「ミト」は「かわいい」「オシャレ」とモテモテだ。現状では6MTだけの設定だけど、来年にも導入されるという2ペダルMTが加われば、客層はもっと広がるはず。
モテない自分としてはまず、このクルマが女性から人気を集めている点に注目したい。「オンナコドモの意見なんて関係ねぇ」という意見もあるでしょう。でも自分の場合はそこまで強気になれないので、「ミト」から人気者になる秘訣を学びたい。ミトが女子から人気を博する第一の理由は、あたりまえだけど愛嬌のあるルックスだ。
個人的には兄弟車種の「アバルト・グランデプント」のほうが2枚目だと思うけれど、女性の評価は違う。カッコいい「アバルト・グランデプント」よりも愛嬌のある「アルファ・ミト」のほうが好感度が高いというのは、ルックスに難のある自分にとって朗報です。いまから2枚目になるのは不可能だけど、愛嬌のあるキャラ作りならなんとかなるかもしれない。そして「ミト」に乗り込むと、かわいいだけじゃなく、“本物感”が人気の一因であることがわかる。
相手の話をよく聞くクルマ
鈍い光を放つアルミ製のペダル類、樹脂類の質感の高さなどなど、シンプルながら上質な「ミト」のインテリアも人気の秘訣だろう。オプションのポルトローナフラウ製レザーシートを選べば、“本物感”がさらに増す。愛嬌のあるルックスと本物感のあるインテリアの意外性のある組み合わせが、女性のハートを鷲づかみにするのではないかと想像する。女性のハートを鷲づかみにした経験に乏しい自分がそんなこと言っても説得力がありませんが。
エンジンをスタートして走り出すと、本物であることが大事だという思いが強くなる。155psを発生する1.4リッターのターボは、実はそんなに速くない。でも、混じりけのない乾いた音と、アクセルペダルを踏んだ瞬間にパン! と反応するレスポンスのよさからは、“本物感”がびんびん伝わる。しかも実際のスピードより速く走っているような気にさせるあたり、演出もうまい。
「D.N.A」の3つのモードのうち、D(ダイナミック)モードを選ぶと、エンジンのレスポンスははっきりと鋭くなり、ステアリングホイールの手応えもグッと重く、シャープになる。個人的には、N(ノーマル)モードの存在意義がイマイチ謎。滑りやすい路面で電子制御式の安全装置「VDC」が早期に介入するA(オールウェザー)モードと、Dモードのふたつだけで十分だと思える。
ハンドリングは、商店街のタバコ屋の角をクルッと曲がれるかと思えば高速道路では落ち着くという、理想的なもの。ワインディングロードではわりと深いロールを許しつつも、4輪がきちんと路面をつかんでいるあたりがアルファらしいと思える。ステアリングホイールを切ったり、ブレーキを踏んだ時に、自分の意思が素直に伝わっている感じがするのも好印象。ほら、「聞き上手な男性」がモテるというじゃないですか。「ミト」は相手の話をちゃんと聞いている感じがする。
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実はごくまっとうなクルマ
で、「ミト」が万人から支持される秘訣をまとめみて、がく然とする。何物にも似ていない、キャラクターのある外観デザイン。居心地のいいインテリア。クルマの性格にあったエンジンと足まわり。つまり、「ミト」は奇をてらったわけではなく、あたりまえのことをあたりまえにやるクルマ作りで人気者になっているのだ。王道をぐいぐい突き進んでいる。
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ま、意地悪く言えば、特に斬新な部分がないから広く受け入れられた、ということでもある。ヨーロッパでは、今年の秋にマルチエア・エンジンと呼ばれる新機軸が「ミト」に積まれて登場するらしい。これは小排気量で省燃費と優れたパフォーマンスを両立するというから、おそらくフォルクスワーゲンのTSIユニットのようなダウンサイジングの考え方。したがって、このエンジンを積んだ時に「ミト」を“新時代のコンパクトカー”なんて呼べるのかもしれない。
もちろん「アルファ・ロメオ」というブランド力もプラスに作用している。アルファにだって不人気車種はあるわけだからブランドだけで人気者になれるほどは甘くない。けれど、「ミト」の性格がちょっと贅沢な感じもありつつ、なおかつ走って楽しいというアルファのブランドをうまく表現していることは間違いないだろう。
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最大の弱点は、ドタバタする後席の乗り心地。首都高速の段差を越えた時のショックは「MINI」よりはマシという程度だ。前席の乗り心地はまずまずだし、機敏な操縦性を味わっていると突き上げも気にならなくなる。それに、この程度の乗り心地の悪さであれば、「アルファだし許そう」という気になる。アルファの印籠のご威光は、意外とこんなところで効いているのかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。