アルファ・ロメオ ミト 1.4Tスポーツ(FF/6MT)【試乗記】
元気をくれるイタリアン 2009.05.08 試乗記 アルファ・ロメオ ミト 1.4Tスポーツ(FF/6MT)……335万9750円
アルファ・ロメオのラインナップに新たに加わったコンパクトモデル「ミト」。可愛さを狙ったファンカーのようにも見えるが、いざ走らせてみるとこれがなかなかの……。
走るビタミン剤
全長4mそこそことコンパクトなうえに、コロッと丸っちいコスチュームをまとった新型「アルファ・ロメオ MiTo」(カタカナで書けばミトで、ミートじゃありません)。やっぱりイタリアって、かっこ良く見せるのが上手すぎる。お洒落な暮らしのペットとして良し、元気なエンジンと完成度の高い足まわりだから、活発な行動派の相棒としても良し、けっこう売れて、愛されそうな雰囲気が濃い。
ところで、本題に入る前にウンチクを一発。自ら「ベイビー・アルファ」と名乗るだけあって、すごく小さいというイメージのミトだが、全長4070mmは「145」(94年デビュー)より1cm長く、「アルファスッド」(71年)より12cm、50〜60年代を彩った名作「ジュリア/ジュリエッタ」系のスプリントやスパイダーより15cm以上も長いから、史上最小のアルファというわけではない。
それはともかく、まず何より明るい走行感覚から報告せずにいられないのがミト。どう操っても軽快というだけでなく、車体の隅々まで自分の神経が直結しているかのように思わせてしまうあたり、さすがイタリアンコンパクトならではのものがある。運転するだけで不機嫌も直る、まさに「走るビタミン剤」だ。
アルファ版、グランデプント
ちょっと中身を予習しておくと、フロントに横置きされる4気筒ツインカムは、1.4リッター。それをターボで過給し、出力を155psに引き上げ、6段MTを介して前輪を駆動する。サスペンションはフロントがストラットでリアがトーションビームと、このクラスの常識的なもの……って、はて、どこかで見たようなと思ったら、これもデビューしたばかりの「アバルト・グランデプント」ではないか。2510mmのホイールベースも同じだし。つまりフィアット・グラプンのスポーツ仕様がアバルト・グラプンで、それにアルファ流のメイクを施したのがミトってわけ。もちろんフィーリングも非常に似ている。
155psは、数字だけならたいしたことないが、アクセル操作に対する反応がちょ〜っと挑発的なので、踏むのが楽しくてたまらない。だから少しも足りなくない。ターボの設定も巧みで、お利口さんな顔と茶目っ気が交互に顔を出す。2000rpm以下からでもググ〜ッと実用的なトルクを生む反面、2500rpmあたりから明確にパンチを増してオオッと思わせたり、作り手が自分で楽しんでるのがよくわかる。こういう感覚だと、6段MTをマメに使い分けるのが楽しいが、ずぼらに1、3、5速とひとつおきにシフトしても、平気で持って行ける肺活量はある。その点だけを意地悪く見れば同じ6段MTでも、常に3500rpm以上でなければパンチらしいパンチを保てなかったノンターボの「グランデプント1.4-16Vスポルト」(すでに国内販売は終了)の方が上級者向きだったかもしれない。
ここで注目のアトラクションは、これもアバルト・グラプンと同じくD.N.A.切り替えスイッチがあること。遺伝子のことじゃなく、「D」はダイナミック、「N」はノーマル、「A」はオールウェザーの頭文字で、シフトレバーの斜め前にあるトグルスイッチで操作する。もちろん「N」が基本だが、さらに元気よく行きたい場合、スイッチを前に長押しすると「D」に入り、計器盤の中央がブースト計に切り替わる。同時にエンジン制御のソフトもヤル気モードになって、最大トルクが20.5kgmから23.5kgmに太るだけでなく、発生回転数も5500rpmから3000rpmまで低くなる。
安心して攻め込める
その効果は歴然としていて、踏んでグッと応えるのが、感じとしては倍ぐらい増える。ヘアピンの続くワインディングなどでは、速さも確実に違う。ただし、当然これを常用すれば燃費が悪化するから、状況に応じたメリハリを忘れないこと。一方、VDC(横滑り抑制機構)が早めに介入する「A」モードは、万が一の瞬間には有効かもしれないが、そこそこ濡れた路面で攻めてみても、「N」との明確な差は感じられなかった。
それより褒めたいのはシャシーの完成度。余裕たっぷりで安心できるのに、心ときめく鋭敏さもしっかり盛り込んである。ステアリング(電動パワーで、Dモードでは少しだけ重くなる)を切り込んだ瞬間しっかりフロントが踏ん張るのがわかるし、実際ちょっとばかりオーバースピードでコーナーに飛び込んでも、そのまま軌跡がふくらむ気がしない。リアもそれとバランス良く食いつくので、結果としてかなり高い平均速度を保ったまま駆け抜けられる。
その過程でアクセルを急に閉じてもわずかに巻き込むだけだし、思い切り踏んでもアンダーステアが出すぎるわけでもない。絶対的な速度や、飛ばしながらの居住性では「ゴルフGTI」に敵わないが、「ポロGTI」よりは確実に勝る。颯爽たるシティボーイズ&ガールズには絶好のオススメだったりする。
そのうえで、あえて苦言を呈するとすれば、「ねえ、あたしカワイイでしょ」と言っているかのようなグラドル的な商品企画やデザイン、もしかすると飽きが来るのは早いかもしれない。
(文=熊倉重春/写真=郡大二郎)

熊倉 重春
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。