トヨタFCHV-adv(FF)【試乗記】
フツーの道をフツーに走れる 2008.09.02 試乗記 トヨタFCHV-adv(FF)ガソリンハイブリッドカーだけにとどまらず、燃料電池車の開発にも手を抜かないトヨタが最新の燃料電池ハイブリッド車を発表した。新設計の高性能燃料電池「トヨタFCスタック」を搭載した「FCHV-adv」を一般道で試した。
開発から12年
トヨタのすごいところは、ハイブリッドカーで独走状態にありながら、それ以外のエコカーでも世界最先端にいることだ。
そのひとつが水素をエネルギーにした燃料電池自動車で、1996年に第1号車を開発。2001年には得意のハイブリッドシステムを組み合わせて航続距離を大幅に伸ばすとともに、公道テストを開始すると、翌2002年12月には限定販売を始め、2005年には日本で初めて形式認定を取得している。
さらにトヨタはグループ会社とともにバス、フォークリフト、軽自動車での開発も進行。バスでは2003年に東京都交通局と組んで営業運転を開始し、3年後には中部国際空港にも活躍の場を広げている。
専用開発モデルのリース販売を始めたホンダとともに、トップ争いをしているといっていいかもしれないトヨタ。その最新作が今年発表された「FCHV-adv」だ。
FCは燃料電池(フューエル・セル)、HVはハイブリッド・ビークル、そして最後の3文字はアドバンスの略である。
advを名乗る理由としては、極低温での始動性向上がある。燃料電池は水素と酸素から電気と水を生み出す。寒冷地ではこの水が凍結して走れなくなってしまうのだが、新型は−30度での始動を実現したという。さらに航続距離も、燃料電池の経済性を25%向上させ、水素タンクの容量を約2倍にアップしたことで、10・15モードベースで約830kmを達成している。
街なかは強烈、高速はほどほど
そのFCHV-advを、まさか公道で運転できるとは思わなかった。「iQ」プロトタイプの試乗会で訪れた北海道で、ホテルとテストコースのあいだを、エンジニア同乗とはいえドライブすることができたのだ。
ベースはいままでの燃料電池車「FCHV」と同じ「クルーガー」。販売が終了したモデルということもあって、ホンダの「FCXクラリティ」に比べると新鮮味はない。エンジニアは「熟成度を見てほしい」と語っていたが、ガソリンハイブリッドカーのトップランナーが考える、理想の燃料電池車パッケージを見てみたい感じもする。
インテリアも見慣れたクルーガーのそれ。キーをひねってスターターボタンを押してもウンともスンともいわず、アクセルを踏むと無音のままスタートしていくのはガソリン車とはあきらかに違うけれど、クルーガーにはガソリンハイブリッドもあったわけで、記憶に残るそれの発進加速に似ている。
でもその後がちょっと違う。いつまでたってもエンジン音がしないのは当然として、基本的にモーターだけで走るから、街なかでの加速はグイグイ強烈なのに、高速道路での追い越し加速はほどほど。リダクションギアを使うとはいえ、変速機なしで前輪を駆動しているので、超低回転で最大トルクを発生するモーターの特性がそのまま性能に反映されるのだ。
エンジン音がないぶん、ロードノイズは気になる。いままで乗った多くの電気自動車や燃料電気自動車と同じだ。この点でも専用設計ボディが欲しい。でもパワーユニットが無音というわけじゃなく、フル加速ではキャブレターの吸気音を控えめにしたようなサウンドがキャビンに届く。これをうまく味つけすれば、快音に育てることができそうだ。
自動車屋のプライドを見た
もうひとつの要望は回生ブレーキ。シフトレバーをB(ブレーキ)レンジに入れても効きはイマイチで、下り坂では1880kgのボディを減速させるのにフットブレーキのお世話になることが多かった。バッテリー容量の関係で大量の電気を回生できないのだとか。架線に戻せる電車のようにはいかないというわけだ。
オールニューのモデルではないので乗り心地やハンドリングに言及するのはどうかと思うが、電気自動車がそうであるように、重く低重心になったおかげで乗り心地は落ち着きがあり、コーナリングに腰高感を抱くことはなかった。一般路上を走る乗り物としては、このまま売っても問題ないと思う。
残る問題は価格だ。日本では2008年9月1日、環境庁への限定リース販売が開始され、月84万円の30か月リースという数字が発表されている。多くの人にとって非現実的な数字だ。燃料電池の触媒に高価な白金を使うことが最大の原因である。
でもその一方でパソコン用の小型燃料電池は、安価に実現できそうだというニュースも聞いている。同乗していたエンジニアによると、発生電力が一定でよければ、燃料電池は小型化できるらしい。それなら自動車用も一定出力として、VVVFインバーターなどを駆使すれば低価格が実現できるのではないだろうか。
その点をたずねたら、「燃料電池本体で速度制御したいもので」という答えが返ってきた。それより安く出すことが大事じゃないの? と思いつつ、自動車屋らしいプライドにちょっと感動した、北の大地でのFCHV-adv体験だった。
(文=森口将之/写真=トヨタ自動車)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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