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第37回:「欧州のクルマ社会は大人だ」なんて誰が言った? コテコテ和製ワンボックスカーを輸出せよ!

2008.04.19 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第37回:「欧州のクルマ社会は大人だ」なんて誰が言った?コテコテ和製ワンボックスカーを輸出せよ!

ジャン・レノはいない

日本で相変わらずそこそこウケていても、イタリアやフランスで滅多に見ない日本車のタイプといえば何でしょう?

答えは「ワンボックスカー」である。

オランダなど一部の国で以前販売された初代「トヨタ・エスティマ」や、商用車ベースの「トヨタ・ハイエース」、日産モトールイベリカ(スペイン)製の「バネット」「日産セレナ」などは稀に路上で見かけることがある。

しかし現行では、乗用車専用ワンボックスは「マツダ・プレマシー」の海外仕様「マツダ5」を除き伊仏には輸入されていない。
「トヨタ・アルファード」も、「日産エルグランド」も、こちらでは走っていないのだ。ましてやジャン・レノが対座シートで家族と「そうだよ、私のマドモアゼル」などと対話している姿など、誰も知らない。いずれも日本では国道沿いのカー用品店駐車場に必ず1台は停まっているクルマにもかかわらずである。
だからこちらで生活していると、時折ふと「お元気ですか」と、吉永小百合顔で遠い空を眺め、センチュリーとワンボックスカーに思いを馳せてしまう。

もちろん、伊仏にも乗用車専用ワンボックスがあることはある。
フィアットとPSAプジョー・シトロエンによる合弁会社セヴェルで製造している「ランチア・フェドラ」「フィアット・ウリッセ」「プジョー807」そして「シトロエンC8」の4姉妹だ。

排気量はガソリンが2リッター、ターボディーゼルが2リッターと2.2リッターで、フェドラの場合、全長×全幅×全高は4720×1860×1750mmだ。同じ2リッター級7人乗りということで「トヨタ・ノア」と比べると90mm長く、140mm幅広く、100mm低い。

しかしながら、売れない。2007年12月のイタリア新車登録台数を見ても、フェドラが137台、プジョー807はたった71台である。
まあ、そうしたニッチ車種だからこそ、ジョイント・ベンチャーで開発、生産しているのであろうが。

「ランチア・フェドラ」2008年モデル
(写真=FIAT)
「ランチア・フェドラ」2008年モデル(写真=FIAT) 拡大
フェドラのインテリア。(写真=FIAT)
フェドラのインテリア。(写真=FIAT) 拡大

ムルティプラ以上・プロ未満

なぜそこまで人気がないのか。ボクの周辺のイタリア人に聞くと、だんだんわかってくる。

若者たちから返ってくるのは「スポルティーヴォではない」ということである。“sportivo”とは、すなわちスポーティのことだ。
イタリア人は、たとえ2ボックスカーでも5ドアより3ドアを好む。「ボディ強度が、より優れている」信仰以上に、5ドア=家族持ちのイメージが漂うらしい。したがって7人乗りのクルマを乗り回すことなど、自らビジュアル的年齢を上げているようなもんだ、というわけである。

フォルクスワーゲンの「タイプ2」にピースマークを描いて流浪の旅をしていた世代は、もはや彼らの父親世代を通り越して祖父母世代になりつつある。現在の若者たちにとって自由の象徴はワゴンではなく、ローコスト航空会社の激安チケットなのである。

いっぽう働き盛りの世代にとっては、慢性的な駐車場難に喘ぐ都市で、大きなクルマは足かせ以外の何者でもない。同時に公共交通機関が不十分なこの国では、ワンボックスより1台よりも、家族全員に小型車が1台ずつあったほうが便利と考えるのである。

また、家族で移動するなら、ひとまわり下の「フィアット・ムルティプラ」や「シトロエンC4ピカソ」で充分なのである。
同時に、彼らのなかで乗用車専用ワンボックスは、ひとまわり上の商用車ベース系ワゴンに限りなく近いらしい。商用車系ワゴンといえば、こちらでは観光タクシーやホテル送迎車のイメージで、個人ユーザーの乗り物の印象が薄い。

つまり乗用車系ワンボックスは、「ムルティプラ以上・プロ未満」という、あいまいなポジションが災いしているのである。

「シトロエンC8」
(写真=Citroen communication)
「シトロエンC8」(写真=Citroen communication) 拡大
スペイン製「日産バネット」。今もそれなりに重宝されている。シエナで。
スペイン製「日産バネット」。今もそれなりに重宝されている。シエナで。 拡大
「VWタイプ2」は、最早こちらでも愛好家のもの。仏サントロペで。
「VWタイプ2」は、最早こちらでも愛好家のもの。仏サントロペで。
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もはや宇宙人

だがイタリア人クルマ好きの家に呼ばれて話すネタに尽きたとき、意外に重宝するのは、ずばり日本製乗用車系ワンボックス車のカタログである。

そのオプションの数々を解説するだけで、バカウケするのである。そもそも、「電動格納&リバース連動ドアミラー」だけで感嘆の声が上がる。一部欧州車でも装着車があるものの、まだまだ珍しいのだ。

続いて「カップホルダーと瓶を照らすソフト照明」「抗菌仕様シフトノブ」を説明すると、彼らは“おもてなしの国”を実感する。そして「フロントコーナーの電動格納式ポール」「車両周囲を上から見渡したように映し出すモニター」「電動カーテン」「イルミネーション付きドアステップロゴ」と、ひとつひとつ説明するたび盛り上がってゆく。

最後の「腕に付けているだけで施・解錠およびエンジン始動ができるリストウォッチ」あたりになると、彼らのボクに向ける目は、すでに宇宙人に対するそれになっている。
「欧州のクルマ社会は大人。ギミックは通用しない」などというのは、日本における思い込みだ。みんな知らないだけで、結構興味津々なのである。
そんな光景を見るたび、「天下無敵、オプション超満載の日本製ワンボックスを輸入したら、結構ウケるのではないか」と思えてしまう。
とくに、日本製アニメで育った世代は、そのコテコテオプションの洪水に、もうメロメロになるに違いない。
日本メーカーの皆さん、成熟化した欧州市場における残された成功のチャンスかもしれませんヨ。

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=FIAT、Citroen communication、大矢アキオ)

このプジョーも昔は家族の夢を運んでいたのかもしれない。コルシカ島で。
このプジョーも昔は家族の夢を運んでいたのかもしれない。コルシカ島で。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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