ポルシェ 911GT3(RR/6MT)【海外試乗記(後編)】
想像を超えた“予想通り”(後編) 2006.04.18 試乗記 ポルシェ 911GT3(RR/6MT) 911のハイパフォーマンスNAモデル「GT3」は、サーキットも公道もこなす911のスペシャルモデル。ポルシェとして「進化している」のは当然だが、そのレベルは想像以上のものだった。
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アイドリングから漂うオーラ
911伝統のドアサイド側、すなわち左ハンドル車ではダッシュボード左端にレイアウトされたシリンダーにキーを差し込み、前述のごとく入念にチューニングされた専用のフラット6ユニットに火を入れる。一瞬のクランキングの後にたちどころに目を覚ます点は、カレラシリーズともちろん同様。だが、3.6リッターではありつつ、3.8リッターを搭載する「カレラS」により近いイメージの排気サウンドや、ノーマルのそれに比べると多少ラフなアイドリング回転に、GT3のチューニングレベルが一層高いことを意識させられた。際立った“スポーツ心臓”のオーラは、アイドリングの状態からその片鱗が示されているのだ。
400psをはるかに超える強大なパワー、それを確実に伝達するためのクラッチは、さすがにそれなりの操作力が要求された。ズシっと重いその踏み応えはカレラシリーズのそれとは完全に別のテイストだ。ただし、ミートポイントは探りやすいし、エンゲージされ始めのポイント、つまり“半クラッチ”領域でもレーシングクラッチのようなナーバスさは皆無。それゆえ、その気になれば左足の操作だけによる”アイドリングスタート”もさほどの無理なく可能だ。
高出力・高回転型のハイチューンエンジンにそんな扱いやすさを実現させた裏には、「調整範囲を拡大した」というバリオカムの採用や、吸排気系通路に設けられ運転状況に応じてきめ細かくコントロールされる数々のフラップ類の働きが隠されているはずだ。運転状況に応じたきめ細やかなコントロールを行う結果得られた、フレキシブルなエンジン特性も大きく貢献している。
想像を超えた乗り心地
……と、どうしてもまず動力性能に目が向いてしまうGT3だが、それだけで終わりではない。実際に走り出した瞬間に感心させられたのは、予想をはるかに超えるコンフォート性を実現した乗り味でもあった。
GT3はもちろん、サスペンションに大入力を受け止める強化型のチューニングが施される。タイヤは「コンパウンドも構造も専用」で、浅溝タイプの19インチ(前:235/35ZR19、後:305/30ZR19)を履くがゆえに、基本的なフットワークや突き上げなどは、間違いなく「硬め」と表現できるものではある。
しかし、そうした“硬さ”がまさしく「金属の塊をくりぬいた」かのような、際立って剛性感の高いボディによって、入力した振動がたちまち減衰されることもあり、さして不快とは感じない種類のものなのだ。加えて、今回の国際試乗会に用意されていたテスト車のすべてに、1つあたり5kg、4輪で20kg軽く、もちろんバネ下重量軽減の効果の大きい「PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)」を装着していたことも、乗り心地に好影響を及ぼした可能性はある。さらに、今度のGT3がカレラシリーズ同様、「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)」を標準装備した威力も見逃せない。
いずれにしても、新型GT3のコンフォート性は従来型のそれをはるかに凌ぐ。ノーマルよりクリアランスが30mmも低く、しかもフロントに装着されたリップスポイラーは、荒れた路面や坂道で気にかけておく必要はあるが、充実した装備群とこうしたコンフォート性が生みだす”実用性能”のほどは、「既存のカレラシリーズと較べても遜色ない」と言って過言ではない。
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舌を巻くばかり……
走りのペースを徐々にアップするにつれて、その存在感を増してくるのは、やはりスーパーチューニングを施されたその心臓だった。8400rpmと極めて高いレッドラインまでパワフルに淀みなく一気に吹き上がるさまは、このモデルが今や数あるポルシェ車のなかでも、間違いなく「エンジンに対して、最も多くの対価を支払う価値がある1台!」ということを実感させる。
優れたコンフォート性と、徹底してシュアで自在なハンドリング感覚を見事両立させた点も瞠目に値する。今回のテストドライブにはサーキット走行のプログラムも含まれていたが、クルマにとってハードなシチュエーションに持ち込み、負荷をかけてもまるで不足を感じさせないコーナリング時のグリップ性能や、ペダルタッチすらまったく変わらない強靭なブレーキ性能にも舌を巻くばかりだ。
かくして、新しいGT3は予想した通り「最もサーキットに近いポルシェ車」というフレーズがお似合いの1台だった。時を同じくして発表された新型911ターボと、「どちらにするか迷ってしまう……」、そんなうらやましい悩みを持つ人も現れそうだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン/2006年4月)
・ポルシェ 911GT3(RR/6MT)(前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000018061.html

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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