ポルシェ911ダカール(4WD/8AT)
本気なのか 遊びなのか 2024.02.12 試乗記 「ポルシェ911カレラ」の車高を50mm引き上げ、専用アイテムを盛り込んでオフロードモデルに仕立てた「911ダカール」に試乗。1984年のパリ・ダカールラリーで優勝した「953」のオマージュたる全世界2500台の限定車は、そのコックピットからどんな風景を見せてくれる?かなり本気のオフロード仕様
本気なのか、遊びなのか……。ポルシェ911初のオフロードモデルというふれこみで登場した、世界2500台限定のポルシェ911ダカールと初対面したときの率直な第一印象がこれだった。
どう見てもロスマンズポルシェを思わせる青白2トーンのボディーカラーで、ボディーサイドの文字も「Rothmans PORSCHE」と完コピしている……、かと思いきや、よくよく読むと「Roughroads PORSCHE」と書かれている。シャレなのか、笑うところなのか!? とツッコミたくなる気持ちを抑えて、いま一度、このクルマの素性をおさらいしておきたい。
ポルシェ911ダカールは、1984年のダカールラリーの優勝モデル、「ポルシェ911カレラ3.3 4×4バリダカール」(953型)へのオマージュとして企画されたモデル。他の911との違いは、まず最低地上高が161mm確保されていること。これは911のスポーツシャシーより66mm高い値で、SUVの「スバル・フォレスター」の最低地上高が220mm、スポーツカーの「スバルBRZ」が130mmであることを例に出すと、なかなかに本気のオフロード仕様であることがわかる。
ちなみに、前後の最低地上高をさらに30mm高めるリフターも備わり、この状態で170km/hで走ることができる。つまり、170km/hまでだったらフォレスターに近い最低地上高が確保されるということになる。
エンジンは最新の911と共通の3リッター水平対向6気筒ツインターボ。最高出力は450PSだから、現行の「911カレラGTS」と同じチューンだと思われる。駆動方式はもちろんAWDで、エンジンの出力は8段PDKを介して4輪に配分される。
もうひとつ通常の911とルックスが大きく異なるのは、専用開発したというピレリ製のオールテレインタイヤを履いていること。オフローダーのスタイルで、オールテレインを履く911というのも、なかなか目が慣れない。
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「ラリー」と「オフロード」を追加
本気なのか、遊びで開発したのか、という気持ちは、試乗前にあちこちチェックしているときに、「かなり本気かも」という方向に振れた。
というのも、フロントのボンネットを開けたら驚くほど軽かったからだ。「911 GT3」のボンネットと同じように炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製で軽量化を図ったとのことで、リアのスポイラーもやはりCFRP製だ。前後のバンパーにプロテクターが備わっていたり、サイドシルに金属のカバーが装着されていたりとなかなか芸が細かく、本気度が伝わってくる。
CFRP製のフルバケットシートに収まると、眼前のメーター類のレイアウトは見慣れた最新のポルシェ911と共通。ただし、振り向くとそこにリアシートはなく、代わりにロールケージが組み込まれている。また、ステアリングホイールやダッシュボードなど、ところどころにブルーもしくはグリーンのステッチが施され、スペシャル感を演出している。
エンジンを始動する前に、標準仕様との違いを探すと、ドライブモードに「ラリー」と「オフロード」が加わっていることを発見する。
スタータースイッチをひねりフラット6を目覚めさせる。心なしかアイドリングの音と振動が通常の911よりダイレクトに伝わってくるように感じる。エンジン音が大きいというより、遮音材が省かれている感じ。けれどもホントにそうなのか、あるいはラリーカー的な演出のせいで脳がバグってそう感じるのか、いまいち自信がない。でもやっぱり、アイドル回転のフィーリングがちょっとラフなように感じる……。
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うそでもいいから上手にダマしてほしい
いざ走りだすと、これはおもしろい! と体内に喜びの電流が流れる。最近の911はタウンスピードでも高速道路でもまったく隙がない。カチッとしていて、引き締まった乗り心地で、安定していて、精緻なドライブフィールには文句のつけようがない。
いっぽう911ダカールは隙があるというか、ツッコミどころがある。サスペンションのストロークが豊かで、ちょっとした段差でも少し大げさに上下動する。市街地の交差点を曲がるくらいでも、ゆったりとロールするから、なんというか、ドライバーに近い感じがする。
もちろんそれがポルシェの真の狙いではなく、荒れた未舗装路でのドライバビリティーを上げることを目的に、こうしたセッティングにしているはずだ。けれど、911ダカールは「オレが操っている、この手と足でコントロールしている」と実感することができるのだ。いや、実感ではなく錯覚だという意見もあるでしょう。でも、うそでもいいから上手にダマしてほしいのだ、特にスポーツカーには。
この懐の深い足まわりとシャープだけどちょっとラフなパワートレインの組み合わせによって、ひと昔前の、具体的に言えば930型あたりのポルシェ911のドライブフィールがよみがえってきて、なんともいえない懐かしい気持ちになる。そういえばこのクルマ(のオリジナル)がダカールラリーで勝った1984年は、マイケル・ジャクソンの『スリラー』が流行(はや)ったなぁ……と、このクルマはおじさんにとってある種のタイムマシンとしても機能する。
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興味深い変化球
今回はラリーとオフロードのドライブモードの能力を完全に確かめることはできなかったけれど、「スポーツ」モードを選ぶとアクセル操作に対する反応はカミソリのような切れ味となり、エンジン回転が高まって車内がにぎやかになることとあわさって、ラリーカーの雰囲気が色濃くなる。この気分を高めるノイズ、やっぱり遮音材が省かれているように思えてならない。
ワインディングロードを走ると、ゆったりとした乗り心地は単純にサスペンションが大きく動いているというだけでなく、オールテレインタイヤも関与していることがわかる。タイヤが一瞬たわむというか、変形することで、路面からの入力をほどよく緩和している。
これもポルシェが企図したことではないだろうけど、公道をちょっと元気よく走るぐらいではオン・ザ・レール感覚の最新の911に対して、911ダカールは操縦しているという実感が濃厚になる。
参考までに、ラリーモードはグラベルなど路面ミューの低い場面でトラクションを高めるとのこと。舗装路面ではその真価を発揮することはかなわないけれど、都心の渋滞を這(は)いずり回っていてもこのモードがあるだけで、「出るところに出れば」と思うことができる。
おもしろいのはアクセサリーのリストで、ルーフバスケットのほか、折りたたみ式シャベルや2人用のルーフテントまで用意される。このクルマで実際にオプションのテントに寝泊まりする人がいるのかは疑問だけれど、「できない」のと「できるけれどやらない」のとは大違いだ。ポルシェ911で砂漠を走ってテント泊をする、という夢を見ることができる。
冒頭で、本気なのか遊びなのかわからないと記したけれど、結論は「本気で遊んでいる」ということだった。変化球ではあるけれど、実に興味深い911だった。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ポルシェ911ダカール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×1864×1338mm
ホイールベース:2450mm
車重:1605kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:480PS(353kW)/6500rpm
最大トルク:570N・m(58.1kgf・m)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y/(後)295/40R20 110Y(ピレリ・スコーピオン オールテレインプラス)
燃費:11.3リッター/100km(約8.8km/リッター、WLTPモード)
価格:3099万円/テスト車=3623万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイト/ゲンチアンブルーメタリック>(0円)/Race-Texインテリアパッケージ(0万円)/ラリーデザインパッケージ<限定モデルシリアリナンバー>(390万3000円)/イオナイザー(4万3000円)/ラリースポーツパッケージ(52万4000円)/エクステリアミラーベース<エクステリア同色塗装>(8万1000円)/ポルシェデザイン サブセコンド時計(15万1000円)/パーソナルスタートナンバー(0円)/エクステンデッドパッケージ ラリーデザイン(45万7000円)/LEDヘッドライト<PDLSプラスを含む>(14万8000円)/フロアマット<レザーエッジ付き>(7万9000円)/軽量遮音プライバシーガラス(8万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3106km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:381.8km
使用燃料:50.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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