マツダ・マツダスピードアテンザ(4WD/6MT)【試乗記】
ちょっと軸がずれている 2005.12.22 試乗記 マツダ・マツダスピードアテンザ(4WD/6MT) ……353万5350円 マツダ・アテンザの高性能バージョン「マツダスピード・アテンザ」。新開発2.3リッターターボエンジン搭載のハイパフォーマンス4WDセダンには、ライバル車と違うマツダらしさがあるのか。Zoom-Zoomの真髄を極めた
「マツダスピードアテンザ」は平たくいえば、4ドアセダンの「アテンザ」をベースとした、4WD+ターボのスポーティグレードである。ただし、その成り立ちから即座にライバルとして頭に浮かびそうな「スバル・インプレッサWRX」や「三菱ランサーエボリューション」のようなカリカリに突き詰めた戦闘機というわけでは、実はない。マツダはそれを“Zoom-Zoomの真髄を極めた、ソフィスティケーテッド・ハイパフォーマンスセダン”と呼ぶ。つまりは余裕のパフォーマンスを背景に、マツダのこだわりである操る楽しさをさらに深く追求したモデル、とでもいうことになりそうだ。
真正面に大きな口を開けたフロントマスクやディフューザー形状のリアバンパーなどによって、外観はベース車とは別物の雰囲気をたたえている。一方で、グリル形状の吟味でボンネット上にエア導入口を付けずに済ませたり、リアスポイラーを控えめに抑えたのは、大人が乗れるクルマにしようという意図の表れだろう。ただ、18インチタイヤを履きながら、ホイールハウスとタイヤの隙間が大きいせいか、足元がどうも貧相に見えるのは残念。このあたり、ヨーロッパ車のようにはいかないものだろうか。
期待値に届いていない
オプションの本革スポーツシートが付いていた試乗車。黒基調の精悍な装いのコクピットに滑り込むと、果してそこには3つのペダルと6段のギアが刻まれたシフトノブが鎮座していた。そう、用意されているのはMTのみである。
エンジンは直列4気筒2.3リッターの直噴ターボのL3-VDT型で、最高出力272ps、最大トルク38.7mkgというスペックを誇る。シリンダー内に直接燃料を吹き付けるため、気化熱による冷却効果で圧縮比を高く設定できる直噴とターボの組み合わせは、最近では「アウディA4」や「VWゴルフGTI」の2リッターターボなど採用例が増えている。しかし、そのT-FSIが10.5というNA並みの高圧縮比を誇るのに対して、L3-VDT型のそれはパワー重視なのか9.5にとどまる。
そのせいで……とばかりはいえないが、このエンジンはボトムエンドのトルクが細すぎて、発進時などは非常に神経を使う。トルクの明確な盛り上がりを実感できるのは2500rpmあたりから。そこからはフラットかつ分厚いトルクを発生するが、それは6速100km/hの約2200rpmからの加速にはいちいちシフトダウンしなければトルクが乗らないということでもある。しかも、上も6000rpmを超えると明確に勢いが鈍るという始末だ。
そんなわけでこのエンジンとMTの組み合わせは、ハッキリいってコンセプトに対する期待値に届いていないと感じた。あるいはヨーロッパではいいのかもしれないが。
![]() |
![]() |
![]() |
軽快感はあるが……
シャシーも、どうも掴みどころが無い。基本的には硬めで、路面の凹凸を小刻みに拾うし、マツダらしい敏感なステアリングも轍に妙に取られがち。なのに、ダンパーの抑えを弱くしているのか、うねりを超える時など上下にブワンと煽られる。これなら、もっと硬くてもいいからフラット感を出してくれたほうがよほど快適だ。
そのぶんマツダらしいハンドリングの軽快感は確かにあって、ステアリング操作に対するノーズの反応はとても鋭い。また、FFベースながら積極的に後輪にトルクを配分することを意識したという電子制御4WDの効果だろう、コーナリング中にパワーをかけていっても、だらしないアンダーステアとは無縁だ。過去にサーキットで試乗した際、そこは一番印象的だったところ。おそらくワインディングロードでも楽しめるに違いない。
だが、このクルマの狙いは、あくまで一般道を気持ち良く走るということにあるはず。そう考えると、余力はもっとしっとりした乗り味にこそ振られていてもいいのではないだろうか。現状は、ちょっと軸がずれているような気がする。
最新のインプレッサWRXやランサーエボリューションは、真摯に速さを追求した結果、エンジンは素晴らしくフレキシブルで、シャシーもスタビリティの高さを実感させる圧倒的なフラット感を味わわせてくれる。率直にいえば、マツダスピードアテンザは本来狙ったはずのこうした領域の性能で、この2台に対する際立った優位性を感じさせてくれない。どうせやるなら、たとえばエンジンは最高出力230psでいいから徹底的にフラットトルクに躾け、足もしなやかかつコントローラブルな設定の、たとえばアウディA4 2.0TFSIクワトロのようなクルマをこそ目指すべきなのではないだろうか。
せっかくのこういうクルマなら、他のモデルとはひと味違う“大人のZoom-Zoom”を見てみたかった、というのが試乗を終えての印象である。
(文=島下泰久/写真=峰昌宏/2005年12月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.8 「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
NEW
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】
2025.9.12試乗記レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。 -
NEW
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから”
2025.9.12デイリーコラム新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――BMW M5編
2025.9.11webCG Moviesシステム最高出力727PS、システム最大トルク1000N・mという新型「BMW M5」に試乗した、レーシングドライバー山野哲也。規格外のスペックを誇る、スーパーセダンの走りをどう評価する? -
日々の暮らしに寄り添う新型軽BEV 写真で見る「ホンダN-ONE e:」
2025.9.11画像・写真ホンダの軽電気自動車の第2弾「N-ONE e:(エヌワンイー)」の国内販売がいよいよスタート。シンプルさを極めた内外装に、普段使いには十分な航続可能距離、そして充実の安全装備と、ホンダらしい「ちょうどいい」が詰まったニューモデルだ。その姿を写真で紹介する。 -
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ
2025.9.11デイリーコラム何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。 -
ポルシェ911カレラT(前編)
2025.9.11谷口信輝の新車試乗製品の先鋭化に意欲的なポルシェが、あえてピュアな楽しさにこだわったというモデル「ポルシェ911カレラT」。さらなる改良を加えた最新型を走らせた谷口信輝は、その仕上がりにどんなことを思ったか?