アウディ・オールロードクワトロ2.7T(5AT)【試乗記】
オールロードクワトロの夢 2002.10.23 試乗記 アウディ・オールロードクワトロ2.7T(5AT) ……715.0万円 「アウディA6アバント」をベースに、縦置き2.7リッターV6ツインターボにトルセン式4WDシステムを組み合わせた「オールロードクワトロ」。フォーリングスの豪華なSUV風ワゴンにココロ痺れた自動車ジャーナリスト、金子浩久が、都会で夢想したオールロードクワトロによる冒険。最上のセミAT
もしも、中国で外国人が自由にクルマを運転できるようになったら、僕は「アウディ・オールロードクワトロ」でシルクロードを走りたい。そして、中国からカザフスタン経由でロシアに入り、ヨーロッパを抜け、最後はユーラシア大陸最西端のロカ岬まで行ってみたい。
まず、東京からオールロードクワトロで東名、名神高速道路で神戸に行き、港からフェリーに乗る。フェリーは、2日後に天津に着く。急激な経済成長を遂げている中国では、道路網の整備も急ピッチで進んでおり、沿海部の大都市はハイウェイで結ばれていっている。天津から北京を通り、シルクロードのスタート地点である西安へは一気だ。
2.7リッターV6ツインターボエンジンは250psを発生し、強力このうえない。低中回転域でのトルクが太くされているが、それでも速度の上昇とともにトルクの盛り上がりが途切れることはない。レブリミットまで淀みなく吹き上がる。この間のハイウェイが、どのくらいのアップダウンがあり、ワインディングが含まれるか、そしてクルマの多寡や平均スピードなどは想像つかないが、すくなくともアウディのV6ターボに不足をおぼえることはないだろう。
西安からは、ずっとネーリェン山脈とバタインシャラン砂漠の間を行くことになる。コーナーは増え、傾斜もキツくなってくるはずだ。先は長いから、コーナーを攻めている場合じゃない。確実に、旅を先に進めることが、ここでは何よりも優先される。
でも、僕はクルマ好きだから、気持ちのよさそうなコーナーがあったら、気持ちよく走りたい。そんな時には、オールロードクワトロのシーケンシャルシフト「ティプトロニックS」を活用すればいい。ポルシェ全車とフォルクスワーゲン・フェートンに装備されるこのセミオートマチックトランスミッション。アウディのラインナップのなかでも、搭載しているモデルは多い。この手のいわゆるセミATやクラッチレスMTのなかでは“最上のもの”と、僕は評価している。
その理由は、シフターを「D」ポジション(通常のAUTOモード)に入れたまま走行していても、ステアリングホイールのスポークに設けられたスイッチで変速でき、ギアを変えた後約10秒間のうちにドライバーが新たな変速操作を加えなければ、クルマが“緊急事態は脱したのだナ”と判断して、再び「D」モードに戻る。このセッティングが賢くて絶妙だ。
他のトランスミッションでは、「D」なり「AT」なりで走っていてシフトダウンの必要が生じると、ガッチャンなりカチカチッという具合にレバーやスイッチを手で大きく動かしてモードを変換しなければならない。これではタイミングを逸しやすいし、興を削ぐこと甚だしい。けれども、ティプトロSにはそれがないのだ。
そのうえ、ティプトロニックSでも、ガッチャンと「D」から「M(マニュアル)」モードに切り替えることができる。これには意味があって、「M」モードにしてボタンで変速すれば、シフトにかかる時間がより短くなるのだ。
悪路もコワくない
たぶん、1週間も走り続ければ、そうしたハイスピード区間は終了することだろう。ハイウェイが終わり、国道も車線が減り、だんだんと舗装が悪くなっていく。穴ボコや段差も、気になってくるかもしれない。そうした時に本領を発揮するのがオールロードクワトロの4段階車高調節機構だ。
たとえば、眼の前の道路にボコッと大きな穴が空いていて、ご丁寧に満々と雨水でもたたえていたりする。念のため、クルマを降りて穴の深さを測ってみると、けっこう深い。「七人の侍」で、村を襲おうとする野武士が、村人が急造した堀の深さを鞭を突っ込んで思いの外の深さにビックリする、あの感じ。
でも、慌てることはない。ダッシュボード上のボタンを一回押せば、最低地上高を、それまでのノーマルレベル167mmから192mmの「ハイレベル1」、もう1回押せば208mmの「ハイレベル2」のいずれかにまで上げることができる。もちろん、ハイレベル2を選択し、ソロリソロリと穴をパスするのである。
ちなみに、時速80kmに達すると、車高は自動的に(ノーマルレベルを通り越して)「ローレベル」の142mmにまで下る。手動で車高を変えることもできるし、速度に応じて自動的に上下させることもできる。
せっかく中国を走ることができるのならば、ちょっとは寄り道もしたい。チーリェン山脈を西の外れまで来ると、嘉峪関というところがある。万里の長城の終点だ。立派なゲートがそのまま残されており、その先は断崖絶壁になっている。主要道路から外れ、嘉峪関までの道は、数年前のテレビのドキュメンタリー番組で見た限りでは、未舗装だった。粒の細かそうな土と砂からなる道は、乾いていれば砂煙で視界を奪い、雨が降った後ならばぬかるみになることが予想できた。
視界がある限り、オールロードクワトロならば必要以上にコワがることはない。クワトロシステムによる踏破力が威力を発揮するからだ。「エンジン横置き+ビスカスカプリング」の簡便な“生活”ヨンクとは一線を画する、トルクセンシング・ディファレンシャル用いた高度な4WDシステムにより、つねに最適な駆動力が4輪に配分される。
タイヤも、左右非対称トレッドを持ったオールロードクワトロ専用に開発されたものだ。「オンロードでのハイスピード走行」と「オフロード走行でのグリップ」の両立が謳われる。
現代の高性能車らしくシャシーは電脳化され、安全デバイスも抜かりはない。「ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)」は、発進時のスリップを防ぐ「ASR(アンチ・スリップ・レギュレーション)」、適正な制動力を前後に配分する「EBD(エレクトロニック・ブレーキ・ディストリビューション)」付き「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)」、そしてリミテッドスリップを電子的に実現した「EDS(エレクトロニック・ディファレンシャル・ロックシステム)」を統合的に制御、能動的に挙動の安定を図るデバイスだ。
魔法の絨毯
敦煌を見物し、ハミを経由して3、4日間走れば、内陸の大都市・烏櫓木斉(ウルムチ)に到達する。ここが黄海からもベンガル湾からも2000km以上も離れた内陸の街とは思えないほどの大都市だ。写真で見るだけでも、マンハッタンやシカゴのそれのようなスカイスクレイパーが林立している。
烏櫓木斉から北上するルートは何本かある。天山山脈の南側を西へ進み、タシケントを経てウズベキスタンからカザフスタンを抜け、ロシアに入り、カスピ海の北岸をかすめ、ボルゴグラード、キエフと進む南寄りのルートが、まずひとつ。
天山山脈北側のイーニン、アルマトイを通ってカザフスタンに入り、バルハシ湖沿いに北上し、カラガンダという大きな街を経て、そこから北西へ進めばエカテリンブルグに到達し、真西へ行けばもうモスクワというルートも現実的だ。
いずれのルートを採っても、ウラル山脈を越え、キエフやモスクワに入れば、もうそこはアジアではなく、ヨーロッパだ。ルートの数はグッと増え、きっと道路事情も飛躍的に向上するはずだ。高速で移動でき、ホテルやレストラン、ガソリンスタンドなどのインフラも増えてくるので、ロカ岬は物理的にも精神的もすぐだ。
ルートや寄り道にもよるが、天津からロカ岬までは、1万7000から1万8000kmの行程になる。長く、苛酷な出来事の発生も予想できるが、ロカ岬に到達した時には大きな充実感を得ることができるだろう。地球の大きさと自動車の可能性を身を以て体験することができる。こんな旅をいつかしてみたい。その時のクルマに、陸を行く魔法の絨毯のようなオールロードクワトロを選べたらいうことはないだろう。
(文=金子浩久/写真=郡大二郎/2002年9月)

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