日産ムラーノ250XL(4AT)/350XV FOUR(CVT)【試乗記】
選ぶ理由 2004.10.13 試乗記 日産ムラーノ250XL(4AT)/350XV FOUR(CVT) ……315万1050円/390万750円 九州でつくられ、北米でのみ販売されていた日産のSUV「ムラーノ」。彼の地でのリリースから2年を経て“里帰り”(?)した新型に、3.5リッターに加えて2.5リッターモデルが仲間入りを果たした。別冊CG編集室の道田宣和によるインプレッション。ひとめで分かる
日産のクロスオーバーSUV「ムラーノ」が、日本でも販売好調だという。「日本でも」というのは、そもそも北米市場専用車として企画され、実際、2002年10月の現地発売以来、毎月コンスタントに4000〜4500台が売れ続け、彼の地で約8万台の販売実績を誇るからだ。
国内への投入はほぼ2年遅れ、2004年9月2日に始まったばかりだが、目標の1000台/月は既に予約の段階で達成されたそうで、さらに正式発売直後の週末だけで約500台が上積みされた。
「トヨタ・ハリアー」をはじめ同「クルーガーV」や「ホンダMDX」、果ては「BMW X5」や「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」「ポルシェ・カイエン」といった輸入車まで、内外の強豪がひしめくなかでの健闘は、当初から北米向けと割り切ったクルマづくりのコンセプトがカギだったに違いない。
里帰りしたムラーノには、そのサイズとカタチゆえか他を圧するような存在感があり、オーナーにとって「際立つ」ことも大事なクロスオーバーSUVにはピッタリである。
日産によるクロスオーバーSUVの定義は、
(1)高いアイポイントと、
(2)セダンとしても使えるフォーマリティを備え、
(3)オーナーの自己表現に資するクルマだそうだ。
とにかく、ムラーノはよく目立つ。いつだったか、おそらくは逆輸入されたアメリカ仕様の1台だろう、首都高速で数百m先を走る、異様なフォルムのクルマが目に留まった。ボリューム感溢れるそのクルマは端正な上半身と豊満な下半身が好対照を成し、その間のギャップを埋めるウェストやフェンダーの幅広さが、サイズの余裕を物語っていた。追い越しざまに振り返るとその感は一層で、これなら世界中のカーデザイナーが腐心するアイデンティティの確立とやらも、特別なグリルやオーナメントなしでできそうだと、妙に感心した覚えがある。
「カタチそのものがアイデンティティ」は、最初から日本的な枠に縛られることがなかったからこそ可能だった。その象徴がメルセデスベンツの「Sクラス」以上に広い1880mmの全幅であろう。そのため国内導入に当たっては、左側側面および下面の状況を画面や鏡面を通して確認できる「サイドブラインドモニター」と「サイドアンダーミラー」が、全車標準で付けられた。
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富士の夕日に照らされて
エクステリアのテーマは「躍動感ある彫刻」だそうで、事実、ボディカラーは強烈であればあるほどよく似合う。なかでもオススメは「ブライトカッパー」なるド派手な新色。アリゾナの砂漠を想わせるような赤銅色で、本来、外観からはグレードの識別ができないはずなのに、なぜかこの色を選んだだけではるかに個性的に、高級に見えるから不思議だ。
車種/グレードは、上から「350XV FOUR」(375万9000円)、「350XV」(343万3500円)、「250XL」(285万6000円)の3種が用意される。最初の数字は排気量、FOURは横置き前輪駆動ベースの4WD、XVは豪華な本革シート付きであることを示す。うち2.5リッターが日本向けに追加された廉価版(といってもけっして安くはないが)ということになる。
オリジナル北米仕様の3.5リッター(4WD)については既に2回にわたって報道試乗会が催されたから、それとの比較でどうなのかを確かめるのが今回の目的だ。エンジンは「VQ35DE」型V6の231psに対して、「QR25DE」型直4の163ps、ギアボックスは350のマニュアルモード付き「CVT-M6」に対して、250は4ATと方式自体が異なる。車重はFOURの1780kgに対して1640kgと軽いが、リアディファレンシャルなどがないため、重量配分は当然ややフロント寄りになる。
どうせ乗るなら350
会場から乗り出した行き先は、350VX FOURが富士スバルラインのワインディング、撮影中心の250XLは周辺の国道その他である。
条件も違うが、乗り味の点で、両者はすくなからぬ差を見せた。3.5リッターに対し、2.5リッターは「バネレート、減衰力とも数値は小さいはず」という説明とは裏腹に、なぜか足腰が硬く感じられる。よく言えばシャキッと新車らしく、悪く言えばこのクラスらしからぬ、若干の安っぽさが気になった。225/65R18 103Sサイズのタイヤ/ホイールは、「ダンロップST20グランドトレック」の銘柄まで同一だが、全体に微小振動が多めで、それに伴う低級音も看取される。特に前席での違いが顕著で、ラージサルーン的な重量感があり、振幅の周期も長い350に乗ってみると、やはりこれが本来の姿ではないかと思った。
ハンドリングも同様、350はペースが速かったためかロールは深めだが、ロールスピードは自然で信頼が置けるし、結構楽しめるのだ。250はより前輪駆動であることを意識させるが、これはトルクステア云々というよりも、むしろ重量配分の差がなせるワザだろう。350は、状況次第で最大50:50まで変化し得る「オールモード4×4」を備えるとはいえ、通常のドライな舗装路であればかぎりなく前輪駆動に近いというのである。
250のパワーそのものは、馬力当たり荷重がひと昔前までスポーツカーの基準といわれた10kg/psに近いだけあって充分。だが、4ATの250に対して、操作性に優れたシーケンシャル6段CVTを備える350の方が、実際には格段に扱いやすいのも事実だ。
日頃は同じシリーズならどちらかというと排気量が小さくて価格の安いモデルの方がクルマとしてのバランスがよく、クレバーでもあると思っている筆者だが、ムラーノに関しては断然350を採る。なぜなら、日本車には珍しいエキゾティックな雰囲気を漂わせる理由のひとつが、あらゆる意味での余裕にあるのは明らかだからだ。
(文=別冊CG編集室 道田宣和/写真=峰昌宏/2004年10月)

道田 宣和
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