レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)
フルスイングを見せてくれ 2025.10.22 試乗記 レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。激戦区と化した高級ミニバンカテゴリー
モーターショー取材で久しぶりに上海に赴いた2025年。緑ナンバーのxEV車が増えていたことよりさらに驚かされたのが、地元メーカー製ミニバンの台頭だった。その勢いは、乗せられるクルマの嗜好(しこう)が日・米ほど顕著ではないにせよ、世界最大の自動車市場でも確実に変わりつつあることを察するに十分なものだ。
それを見越してか、大型セダンを得意とするドイツ勢もミニバンカテゴリーの充実を図ろうとしているようで、その上海モーターショーでは「ビジョンV」なる電気自動車(BEV)のコンセプトカーをメルセデスがお披露目していた。すでにMEBプラットフォームでミニバン的車型を成立させているフォルクスワーゲングループのアウディや、さらに「ノイエクラッセ」のアーキテクチャーを発表したばかりのBMWもここに参入してくる可能性はもはやゼロとはいえないだろう。
そういうトレンドのトリガーとなったのは間違いなく「アルファード/ヴェルファイア」の存在だ。香港が発火点となったその人気は華僑を通じてASEANへと飛び火。20系からはトヨタが正式に左ハンドル仕様を輸出するようになったことで、一気に中国での支持も得ることとなった。そして30系の登場とともに開発されたレクサスLMもアルヴェルでは飽き足りない需要を取り込み、会社ぐるみでミニバンカテゴリーを牛耳ってきたわけだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
後席の居心地を改善
でも、もはやそこに先駆者の利益はない。今後は周囲から追いまくられる立場にあることは、アルヴェルを徹底的に分析している中国メーカーのキャッチアップぶりからも伝わってくる。ドイツ勢の参入や日産の巻き返しなども織り込めば、立ち止まる暇はないのが現実でもある。
グローバルでは2代目となるレクサスLMに、2023年末の発売から2年とたたずにマイナーチェンジが加わったのはそういう背景もあるのだろうか。そもそもレクサスは年次改良を頻繁に重ねてクルマを育てていく術(すべ)を採っているが、日本市場では想定以上の販売台数を維持するなかで、動的質感面に至るまで手が加わるのはちょっと早い気もしなくはない。
マイナーチェンジの項目は後席まわりに集中している。2024年夏の6座仕様の追加でドライバーズカーとしてのニーズも間違いなく増え、販売台数の押し上げに貢献しているはずだが、このクルマの場合はことさらオーナーや賓客が陣取る機会の多いだろう後席の居心地を磨き上げるのが高付加価値化の第一歩だ。
まず動的質感においてはリアホイールハウスおよびリアゲート部のノイズ成分を抑えるべく、吸音材や制振材の配置を見直し、採用範囲の拡大および物量を追加している。静的質感面では、ユーザーが調整できる室内照明の照度上限を高めてより明るい室内設定を実現した。これは6座の“バージョンL”と4座の“エグゼクティブ”に共通した変更点となる。
乗れば分かる大きな変化
さらに“エグゼクティブ”ならではの変更点として、スライドドアの開閉スイッチをオーバーヘッドコンソール部からセンターアームレスト部に移動し、その跡地に読書灯とは別のダウンライトを配した。足元には切り子柄のようなグラフィックのイルミネーションが加えられ、センターアームレスト部には小物が置けるトレイを設けるなど、快適性をさらに高める施しが加えられた。このクルマを求める向きにコスパの話は意味がないとは思いつつも、以上のような変更を受けてのお値段は“エグゼクティブ”で10万円高、“バージョンL”は据え置きとなっている。
今回の取材車は変更点の多い“エグゼクティブ”だが、外観的な変更がないこともあって、車体を見回しつつ運転席に座ってみたところで新鮮味は感じられない。法人需要の多い東京的な話で恐縮だが、LMの増殖ぶりははた目にも引くほどだから、そろそろ外板色の追加や内装のパーソナライズといったオリジナリティー表現の選択肢を検討してほしい感はある。
が、ドライバーとして走らせてみると、些細(ささい)ではない変化が感じられた。おそらくはリアゲートまわりの音・振動対策で車室内のアコースティックが変わったことによる効果が主因だろう、運転席に伝わる入力の減衰がよりすっきりしたものになっている。そもそも凹凸越えなどでの残響感は土台を共有するアルヴェルよりもはっきりと少ないクルマだったが、その美点がさらに磨き上げられたかたちだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
気になるところも少々……
後席まわりのノイズ環境はマイナーチェンジ前でも相当なレベルだったが、耳が音源、つまりリアのホイールハウス周辺に近づくと、確かにロードノイズなどが耳につく場面もあった。言い換えればそのくらいキャビンは静かで、自慢のパーティションをクローズすれば前席側とはまともに会話ができないほど音漏れも封じ込められる。張り込まれることもないという点でいえば無粋なホテルよりも密会や密談に向いているかもしれない。どこぞの首長さんにもオススメしたいくらいだが、やはり前席側とすぐに話ができるインターホン的なものくらいは配してもよさそうだ。
隔絶された後席の室内でいろいろといじくり回していると、その静寂さゆえだろうか、些細なことが気になってくる。せっかくロードノイズが減ったのだから、移動中にうとうとした後にシートポジションを一発で整えられる物理ボタンもすぐ押せる場所に欲しいよねとか、身なりを確認できるようバニティーミラーはもう少し大きいほうがいいよなあとか、いや大きくしてくれといえばラップトップも載せられない格納式テーブルのほうが先だろう……とか、ちまちま気にし始めるとそんな姑(しゅうと)みたいな自分に気がめいる。そのうちのいくつかは左右各席用のスマホライクなリモコンの操作でかなえることもできるわけだが、イスの隙間に落とした日にはCAさんをお呼び立てすることになるのだろうかなどと思ったりすると、頻用するのがおっくうにもなる。
一億横並びといわれてきた日本にあって4座のLMは珍しいくらい唯我独尊な存在だ。傍らにはまずまず民主的な6座の仕様もあるのだから、平等であることに遠慮する必要もない。後ろに陣取る主(あるじ)のためにとことん独善的なしつらえを極めるべきではないだろうか。例えばメルセデスのマヌファクトゥーアやBMWのインディビジュアルを超えるような空間価値をもって、レクサスのさらなるブレークスルーを描くとすれば、そのキャンバスはこのLMが最適だろうと思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
レクサスLM500h“エグゼクティブ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5125×1890×1955mm
ホイールベース:3000mm
車重:2460kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:275PS(202kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:460N・m(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
フロントモーター最高出力:87PS(64kW)
フロントモーター最大トルク:292N・m(29.8kgf・m)
リアモーター最高出力:103PS(76kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:371PS(273kW)
タイヤ:(前)225/55R19 103H/(後)225/55R19 103H(ミシュラン・プライマシーSUV+)
燃費:13.5km/リッター(WLTCモード)
価格:2010万円/テスト車=2020万4500円
オプション装備:ドライブレコーダー<前後方>(4万2900円)/デジタルキー(3万3000円)/寒冷地仕様<LEDリアフォグランプ、ウインドシールドデアイサー等>(2万8600円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:853km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:298.0km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.19 ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
NEW
アウディA5 TDIクワトロ150kW(4WD/7AT)【試乗記】
2026.1.21試乗記「アウディA5」の2リッターディーゼルモデルが登場。ただでさえトルクフルなエンジンに高度な制御を自慢とするマイルドハイブリッドが組み合わされたリッチなパワートレインを搭載している。260km余りをドライブした印象をリポートする。 -
NEW
働くクルマは長生きだ! 50年以上続く車名がゴロゴロある商用車の世界
2026.1.21デイリーコラム乗用車ではトヨタの「クラウン」「カローラ」、日産の「スカイライン」などが長く続く車名として知られるが、実は商用車の世界にはこれらと同等のご長寿モデルが数多く存在している。生涯現役時代の今にふさわしい働くクルマの世界を見てみよう。 -
NEW
第99回:「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」(後編) ―対極的な2台の造形からスポーツカーの教義を考える―
2026.1.21カーデザイン曼荼羅コンポーネントを共用するのに、その形は全然違う! トヨタの次世代スーパースポーツ「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」のデザインを、有識者と比較検証。突き抜けて武骨なGR GTか、優雅で知的なLFAか、あなたならどちらを選ぶ? -
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。


















































