ローバー75サルーン2.5 V6コニサーSE/75ツアラー2.5 V6コニサーSE(5AT/5AT)【試乗記】
判官には早すぎる 2004.09.04 試乗記 ローバー75サルーン2.5 V6コニサーSE/75ツアラー2.5 V6コニサーSE(5AT/5AT) ……498.0万円/520.0万円 昨2003年の夏から、日本への再上陸を果たしたローバー(&MG)。日本での売れ筋モデル「75サルーン」と「75ツアラー」がフェイスリフトを受けた。『webCG』コンテンツエディターのアオキが報告する。MGローバーの戦略
ジョンブル魂の真骨頂は、やせ我慢にあるんじゃないかと思うことがある。圧倒的に不利な状況でも、現実的に対処し、冗談を交えながら最善を尽くす。1959年のアストンマーティンしかり、1940-41年のバトル・オブ・ブリテンしかり。
……と、ハナシがずいぶん大袈裟になったけれど、昨今の自動車業界で同様の(?)印象を与えるメーカーが、MGローバーグループである。
2000年にBMWから見切りをつけられ捨てられたローバーが、英国の投資家グループに哀れ10ポンドで拾われたとき、この伝統あるブランドの先行きを楽観するヒトはすくなかったはずだ。新しいオーナー「フェニックス・ホールディングス」は、どんな成算があって引き取ったのかしらん?と、新聞を読みながらいぶかしく思った方も多かったろう。
オックスフォードをBMWに追われたローバーは、しかし逆境にもめげず、バーミンガムのロングブリッヂで、「75」はじめ、「200」「400」シリーズのリファイン版をつくりつづけ、2001年の地元バーミンガムショーでは、魅力的な75ワゴンたる「ツアラー」を発表した。
また、「MINI」と引き替えに手に入れたブランド名、「MG」「オースティン」「モーリス」「ウーズレー」などのなかから、もっとも訴求力のあるMGを使って、ローバーモデルの顔を変え、足まわりをチューンして、MGのモデルラインナップを整えた。
ローバーは“英国ラクシャリーの決定版”、MGは“イギリスのスポーツカーを代表する”というのが、MGローバーグループのブランド戦略である。
その後の業績回復を受けて、ルマン24時間レースやBTCC(英国ツーリングカー選手権)、はてはBRC(英国ラリー選手権)にまで競技車を送り出して話題になったMGであるが、一方、わが国では、むしろ“わかりやすい英国調”を纏うローバーの方が、商業面ではチャンスがあるようだ。
昨2003年の夏から、オートトレーディングルフトジャパン株式会社によって、約2年ぶりに輸入されることになったローバーと、新たに導入されたMGモデル。この1年で、1500台ほどのローバーと、約50台のMGが販売されたという。
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モダーンな顔に
「ブリティッシュネス」を前面に押し出した主力商品ローバー75サルーン/ツアラーが、マイナーチェンジを受けた。一目でわかる変更がヘッドランプで、ナベゾ画伯(渡辺和博)いうところの“モンゴル”目になった。機能面では、キセノンのプロジェクタータイプが採用されたのが新しい。
前後パンパーの形状も変更され、横長だったグリルは天地が伸ばされた。新しい75は、レトロスペクティブな雰囲気が薄まり、全体にモダーンな顔つきとなった。16インチのアロイホイールも、新意匠である。
運転席に座れば、ステアリングホイールが、革巻きから、ウッド&レザーのコンビネーションに変わったことに気がつく。センターに付くローバーのマークは、大きくなり、デザインも現代調にシンプリファイされた。
シートはフルレザーが標準となり、ベージュのシートには、明るく華やかな「サンドストーンベージュ・フェイシア」のライトオークパネルが、ブラックレザーのシートには、やはりライトオークながら、従来通り濃い茶の「ライトスモークストーン・フェイシア」が組み合わされる。
価格は、サルーンが498.0万円、ツアラーが520.0万円と、以前よりそれぞれ80万1000円、73万7500円もアップしているが、これは装備の充実で説明される。具体的には、「メモリー付き電動シート(運転席)」「ナビゲーションシステム」「クルーズコントロール」「パーキングアシスト」などが標準で備わるようになった。白、緑、青、赤、黒、5色のボディペイントは、いずれもメタリックまたはパールとなる。
つまり日本の75ラインナップは、仕様を絞りこみ、高付加価値のクルマとして売ろうということだ。年間の販売目標は、サルーン、ツアラーあわせて850台とされる。
ローバーの今後
短い時間だったが、富士の裾野をサルーン、ツアラーと乗り換えてドライブした。やや緩いボディ。個性の薄いV6と、いまとなってはトロい5段AT。ほどほどの乗り心地。内外の見かけほどアピールするところのすくないドライブフィールは相変わらずで、でも、これはこれでローバーの持ち味である。“運転”にわずらわされることなく、(絵に描いたような)英国調の室内でリラックスできる。
朗報は、これまで17インチを履いていたワゴンのホイールが、サルーンと同じ16インチに直されたこと。たしかに「215/55」あたりのタイヤサイズが、日常的に使うローバーの、ギリギリのスポーティだろう。
個人的には、75ツアラーを憎からず思っているが、惜しむらくは、日本上陸が遅きに失した。せめてもう1年早く来ていたら、貴重なブリティッシュワゴンとして、もっと存在感をアピールできたのに。いうまでもなく、2リッターモデルが490.0万円から提供される「ジャガーXタイプエステート」があらわれると、そうとうに分が悪い。同じ2.5リッターモデルよりは、25.0万円安いとはいうものの。
しかし、過去を振り返っても仕方ない。プレス試乗会に同席するため来日したMGローバーグループのBusiness Development Manager International Marketsのラス・トーマスさんは、日本からのローバーの一時撤退が、「ローバーの意志ではなかった」ことを強調。不安を与えたユーザー間の信頼回復に全力をあげたい、と語った。今後は、ネットワークの拡充に努めたい、とも。また、「25」(旧200シリーズ)、「45」(旧400シリーズ)の日本市場投入も視野に入っているそうだ。
判官贔屓……というにはまだ早いけれど、TVRがロシアの富豪の手に渡ってしまったいま、英国資本の自動車メーカーとして、MGローバーグループには、ぜひ頑張っていただきたい。
(文=webCGアオキ/写真=峰昌宏/2004年9月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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