トヨタ・アレックスRS180 Sエディション(4AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・アレックス RS180 Sエディション(4AT) 2001.03.05 試乗記 ……206.3万円 総合評価……★★主流のひとつ
最近でいえば、旧型のシビック・タイプRが悠々のひとり勝ち状態だったこの分野。もっといえば、いわゆるホットハッチに関して、トヨタ車(だけではないけれど)がホンダ車をその魅力において上まわったためしはない、と思う。結論から先にいってしまえば、それはおそらく今回も同じだろう。
考えてみたら、カローラにとっては、「ハッチバック」というカタチからしてそもそも日本市場では鬼門なのかもしれない。1980年代半ばに出た初代FX以降、少なくともハタ目にはいつカタログ落ちしてもおかしくないような状態が続いてきた。実際、空白期間も少なからずあったはずだ。
マーケットのあるセグメントに向けた新たな商品を出してみて、それがウケなかったとしても、トヨタという企業は簡単には諦めない。テをかえ品をかえてシツコく頑張る。さすがに諦めた、かつてのコロナSF(5ドア)しかり、あるいはビスタしかり。それはまあ、商売上美徳といえないこともない。
で今回、カローラ級ハッチバックは販売店別に、ランクス/アレックスという新名称を付け加えて出してきた。カローラ名を残したのは、登録台数の統計でカローラ一族に加えることができるウマ味を考えてのことかもしれない。もちろん、ハードウェアでみればこのクルマはカローラ以外の何者でもないけれど。
まだ出ぬシビックの新型タイプRもアタマの隅に置きつつ、ホットハッチとしてみた場合のカローラの強みは、みてのとおりの5ドアであることによる使い勝手のよさがひとつ。で、もうひとつはトルコンATのイージードライブ仕様も選べること(……にどれだけの意義があるかはともかく)。それら2点でほぼ尽きているのではないか。
ただしこのトップガン・カローラ、タイプRを本気でブチ破ろうとして作られた製品とは特に思えなかった。「このテが売れるとしたら主流のひとつはこのセンだろうし」程度の意気込み(とはいえないか)の産物。
たとえばタイヤのサイズひとつをとってみても、190psのピーク出力を誇るホットハッチに対して195/60R15 という設定は「売る気」「やる気」を疑わせるに十分だ。別にペッタンコならイイというわけでもないが。それに、速度規格こそVだが銘柄はミシュランXV1 。すなわち、フツーのクルマ用である。どういう事情でこうなったのか、是非きいてみたい。
【概要】 どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2001年1月24日に発売されたカローラのハッチバックモデル。トヨタカローラ店で売られるのが「カローラランクス」、ネッツトヨタ店で販売されるが「アレックス」である。両者の違いは、ボンネット先端のマークが違うことと、ドアハンドルが、ランクスはボディ同色、アレックスはメッキ処理される程度だ。エンジンは、可変バルブタイミング機構「VVT-i」搭載の1.5リッターと、さらにバルブのリフト量も変化させる「VVTL-i」を採用した1.8リッターの2種類。前者には、FFのほか、4WDモデルも用意される。
(グレード概要)
アレックスの1.8リッターモデルが「RS」。ランクスでは「Z」。4ATのほか、6MTを備えたスポーティバージョンが用意される。Sエディションは、RS180に、フロントスポイラー、サイドマッドガードを装着、内装にもメタル調パネルやメッキのインサイドドアハンドルを使った、「ちょっと豪華」版である。ランクスの「エアロツアラー」にあたる。
【車内&荷室空間】 乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
造形手法は明らかにミニバン流。全体のデカさといいトップ部分の高さといい、従来カローラの美点のひとつだった(はずの)取りまわしのよさを捨てたデザインである。欧州では、これで文句が出ないのだろうか。さらに、このダッシュボードは、ミニバン風のモノとしても特に目や身体に心地よい種類のカタチとはいいがたい。従来カローラの伝統だったある種の慎重さや注意深さも、いささか失われてしまった感あり。残念。
(前席)……★★
ダッシュボードも含めてセダンのカローラと基本的に同じ。したがって、せっかく装着されたのに、いちばん低い位置でないと(まだしも)納得できる着座位置が得られない「上下調整機構」も同様。開発者はあくまで「平行に上下します」と主張しているらしいが、上げるにつれ座面は前下りに。で、乗員はズリ落ちそうになるのをこらえ続けるハメになる。
(後席)……★★★
これまた印象は、前回『webCG』でカローラフィールダー1.8S 4WD(AT)に乗ったときと基本的に同じ。すくなくともイビツなものではない。ワゴンのときは★★★★としたかもしれないが、★1コ分は、オールニューで登場のご祝儀だったということで。「スッキリ高い着座位置」と「それなり豊かな座面サイズ」と「窮屈でない空間」がいいところ。逆に、「そこさえやっときゃ文句も出まい」とタカをくくっているのがわかるところが減点要素。これだけの空間があれば、座るだけで嬉しくなるような後席環境を間違いなくつくれるはず。でも実際は、そこまでいっていない。ルノー・メガーヌやシトロエン・クサラを見習っていただきたいものだ。
(荷室)……★★
このクラスのハッチバックとしては、明らかにショボい。特に床が高すぎる。欧州の同クラス車と違って、カローラのハッチバックは、「セダンからトランク部分をぶった切ることでつくられたのではないか?」などと考えさせられた。これでは勝負にならない。
【ドライブフィール】 運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
バルブ駆動系に組み込んだ可変機構の効果か、低中速域のトルクはたしかに強力。1.8リッターもあるのだから「これくらい」とも思うが憎くない。けれど高回転域はただ「回せば回ります」というに近い。速いことは速いが、しかしリミット8000rpm付近までの3000rpmほどは、使っても別に嬉しくない。苦しげだしやかましい。ムリしてあんなに回ってくれなくても結構。
カフェインのアンプルかナニかを飲んでしまい、眠りたいのに眠れない。乗っていてそんな気分だった。高性能エンジンは、必ずしも「回転上限高きが故に尊からず」。カローラ級の車体に190psはどう考えても過剰な性能で、その過剰さをどうエンタテインメントに繋げるか、という部分ができていない。
そういうエンジンに、ATの組み合わせは、さらに無意味。異様に速いカローラ、というだけ。その異様な速さにしてからが、踏めばそうだというだけ。普通に乗っていると、体感上はせいぜい150ps程度のありがたみしかない。しばらく乗ったらそれなり慣れたが、スロットルペダルの踏み込みと動力の関係が、特に発進付近で一貫しないのがイヤだった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
乗り心地はそれなりにカタい。が、「ビシッ」と一本スジの通った種類では特にない。つまりエンタテインメントの領域に入っていない。「これぐらいはガマンしてちょ」というだけ。高速域で目の覚めるようなフラット感、というようなことも特になかった。常に、なんとなくカタい。
後アシの安定性がけっこう高そうなのはいいとして、前アシの接地感はボヤけている。目の覚めるような操舵レスポンスがあるわけでもない。要するに、普通のトヨタ車。限界性能が相応に上がっているだろう以外は、やはりカローラである。コワくて乗ってられないようなことはないが、しかしクルマと一体となって道路との関係を楽しめる境地まではいっていない。「楽しい」という意味では、むしろセダンの1.3リッターモデルのほうが上ではないか?
(写真=河野敦樹)
【テストデータ】
報告者:森 慶太
テスト日:2001年2月16日から19日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2001年型
テスト車の走行距離:1877km
タイヤ:(前)195/60R15 88V/(後)同じ(いずれもMichelin Energy XV1 )
オプション装備:アルミホイール(6.0万円)/CDカセット一体型ラジオ+6スピーカー(4.5万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

森 慶太
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
NEW
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。