第7戦カナダGP「“1”か“2”かの三つどもえ」【F1 2012 続報】
2012.06.11 自動車ニュース【F1 2012 続報】第7戦カナダGP「“1”か“2”かの三つどもえ」
2012年6月10日、カナダはモントリオールのジル・ビルヌーブ・サーキットで行われたF1世界選手権第7戦カナダGP。予選上位3人による白熱した優勝争いは、タイヤ交換を2回とするか、それとも1回に賭けるかによってくっきりと明暗が分かれた。ポディウムの頂点に立ったのは、さまざまな問題が噴出した昨季から一皮むけた、カナダを得意とするルイス・ハミルトンだった。
■何かが起きる2012年、何が起きても不思議はないカナダ
カナダは、ピレリF1タイヤの故郷である。
いや、このイタリアメーカーのF1用レーシングタイヤは、実際同社のトルコ工場にて製造されている。故郷とは、タイヤそのものではなく、タイヤのコンセプトづくりに大きく影響した場所という意味においてである。
あれは2年前のカナダGPでのこと。当時全車が装着していたのは、東京都下の小平工場でつくられていたブリヂストンタイヤだった。レース中の使用が義務付けられる2種類のタイヤのうち、扱いが難しいソフトタイヤに各チーム、各ドライバーが翻弄(ほんろう)され、さまざまなストラテジーが乱立。レースは最後まで手に汗握る展開となった。
ソフトでスタートし、この難しいタイヤが早々にタレるとすぐさま見切りをつけハードに交換、追撃する陣営と、序盤からハードを履き、十分なマージンを築いてからソフトに替えようとするチーム。異なる戦略によるせめぎ合いは、結局、前者を選択したマクラーレンのルイス・ハミルトンが、後者を採ったレッドブルを下し、優勝した。
レース前から勝者がある程度予想できたという、これまでF1が抱えていた課題を克服するために、タイヤが一役買えるのではないか。レースを“スパイスアップ”、つまりはより面白くするためには、安全性を担保しながらタイヤを扱いづらくし、タイヤの上手な使い方次第で戦い方、勝ち方にバリエーションを生みだす。
このカナダでのレースは、チーム、関係者にとって一つののベンチマークとなり、その開発思想は、今日のピレリのコントロールタイヤの礎となった。6戦して6人のドライバーが優勝するという今年の混迷ぶりは、あの日の出来事が深く関係しているわけである。
7戦目を迎えた今シーズン、カナダでの注目は「7人目のウィナーは誕生するのか?」という点に集まったが、その可能性は十分に高かった。
なぜなら、歴史をひもとけば、モントリオールでは何かと波乱が起きているからである。例えばここで初優勝するドライバーが多い。ジル・ビルヌーブ(1978年)、ティエリー・ブーツェン(1989年)、ジャン・アレジ(1995年)、ルイス・ハミルトン(2007年)、ロバート・クビサ(2008年)がモントリオールで初めての勝利をおさめている。
ここでの過去10戦を振り返ると、ポールシッター以外が7回優勝。公園の道を利用したコースはガードレールに囲まれており、ゆえにセーフティーカーの出番も多い。レース中セーフティーカーが出なかったのは10戦中3回だけだ。
昨年は雨がらみで5回もセーフティーカーが出動するという記録がつくられ、そして4時間もの長丁場の戦いは、最終ラップでセバスチャン・ベッテルをジェンソン・バトンが逆転し劇的な幕切れとなった。
何かが起きる2012年。何が起きても不思議ではないカナダ。実際、7戦目にして7人目の勝者が誕生し、シーズンはいっそう混迷の度合いを深めることとなった。
■ベッテル、“圧倒的”ポールポジション
今季は各車のタイム差が極端に縮まった。例えば昨年のカナダGP予選Q2結果をみると、セバスチャン・ベッテルのトップタイムとQ2落ち、すなわち11位ポール・ディ・レスタの差は約1.3秒だったが、今年は0.5秒程度。その他のGPでもこの傾向は認められており、わずかなタイム差が大きく違う結果をもたらす、まさに僅差の戦いとなっている。
そんな接戦状況下の今年、ベッテルがカナダで記録したポールポジションタイムは、後続に対し0.3秒ものギャップを築く“圧倒的”なものだった。僚友マーク・ウェバーが勝利した前戦モナコ同様に、タイヤはソフトとスーパーソフトの2種類。モンテカルロに似てトラクションがものをいうモントリオール、ベッテルはレッドブル「RB8」と自らのドライビングに自信をもってレースに臨んだに違いない。
予選2位にはハミルトンがつけ、以下3位フェルナンド・アロンソ、4位ウェバー、5位ニコ・ロズベルグと、いわゆる上位チームのレッドブル、マクラーレン、フェラーリ、メルセデスが順当に前のグリッドを獲得した。
このトップ5のなかから今年未勝利のドライバーを探すとひとりしかいない。7人目のウィナー最有力候補はハミルトンだった。
■2種類のタイヤをどう使い分けるか?
昨年と打って変わって快晴の決勝日。スタートでトップを守ったベッテルにハミルトン、アロンソ、ウェバーが続き、上位はグリッド順通りにオープニングラップを終えた。大勢がもっとも軟らかいスーパーソフトを履いていた序盤、硬めのソフトを選んだ4位ウェバーが徐々に遅れ始め、トップ3台が後続を引き離しにかかった。
タイムが落ち始めた首位ベッテルが17周目にたまらずピットへ飛び込むと、翌周にハミルトン、20周目にアロンソが、最初のタイヤ交換でスーパーソフトからソフトにチェンジ。ここでアロンソがトップに、ハミルトンが2位に上がり、ポールシッターのベッテルは3位に順位を落としたが、ハミルトンはタイヤ交換直後でペースが上がらないアロンソをDRSを使って早々にオーバーテイクすることに成功、マクラーレンがトップを奪った。
70周のレースで硬軟2種類のタイヤをどう使い分けるか。既にタイヤ交換の義務を果たしたトップ3は、よりコンベンショナルな2ストップか、それともソフトで50周前後を走り切る1ストップの賭けに出るかを選択することなった。
前者を選んだのは、好調なペースで飛ばすハミルトンだった。2位アロンソに3〜4秒のマージンを築いていた2008年チャンピオンは、残り20周の時点で新品のソフトタイヤに履き替え、3位でコースに復帰した。
ここで1位となったアロンソと2位ベッテルは、ピットに駆け込む様子がみられない。アロンソと3位ハミルトンの間には14秒の開きがあった。この貯金を切り崩して、フェラーリとレッドブルが1ストップで逃げられるのか、ハミルトンがニュータイヤで追い上げるのか?
■1ストップに泣くもの、笑うもの
2度目のソフトでも、ハミルトンのペースは速かった。残り10周を切ると上位3台は連なり、そして62周目、ハミルトンは2位ベッテルを、その2周後には1位アロンソを次々と料理。勝負にならないほどタイヤの状態が悪化したと判断したレッドブルは遅まきながらベッテルをピットに呼びタイヤ交換。結果4位という戦績を残すこととなった。
いっぽうひたすら古いタイヤで走り続けたアロンソは、ズルズルと後退し5位でフィニッシュした。
興味深いのは、アロンソ同様に1ストップで走り切ったロータスのロメ・グロジャン、そしてザウバーのセルジオ・ペレスが2位、3位で表彰台にのぼったことだ。
2人ともタイヤをいたわりながらも特段のパフォーマンスドロップに見舞われることなく周回を重ね、ゴール目前となって予期せぬポジションアップを果たすこととなった。
■ハミルトンの「堅実さ」
昨シーズンのハミルトンはコース内外で物議を醸した。コースの上では度重なるクラッシュを演じて成績も低調。パドックではトゲのある失言で批判を浴びることもあった。
GPドライバーとしてのキャリアをともに築いてきた“ホーム”であるマクラーレンでは、よりコンスタントにポイントを稼ぐジェンソン・バトンがチームからの信頼を勝ち得ていた。ハミルトンにとって、2011年はF1ドライバーとして、チャンピオンとしての資質が問われたシーズンだった。
彼の言動に変化がみられたのは昨季の終わり頃から。最終戦ブラジルGPでは、何度もぶつかり合ったマッサと“和解”。そして新シーズンに突入すると、開幕から2戦連続でポールポジションを獲得しながら勝てない状況でも腐らず、ひたすら機が熟すのを待った。
彼の口から度々聞かれた「堅実さ」が、7戦目での今季初勝利と、ポイントリーダーへの昇格としてようやく実を結んだ。
もちろん、シーズンはまだ折り返し地点すら過ぎていない。長く過酷な混戦を抜け出すには、堅実さこそ重要である。
7戦して7人の勝者。残り13戦であと何人が勝利をつかむのか? 次戦ヨーロッパGPは6月24日に決勝を迎える。
(文=bg)
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