第184回:30周年を迎えたボーズのカーオーディオ
その進化の歴史を振り返る
2013.05.25
エディターから一言
ボーズが自動車向けのオーディオシステムを供給し始めてから、今年で30周年を迎えた。上海モーターショーにおける同社の展示を見ながら、高品質なサウンドシステムを追求し続けたその歩みを振り返る。
始まりは1983年型「キャデラック・セビル」だった
上海モーターショーでは、なかなか足を止めて展示を見ることができなかった。あまりにも多くの来場者に押し合いへし合いして、ゆっくり見ることができなかったというのが物理的な理由。9日間で85万人もの観客の来場が予測されていた通り、なぜかプレスデイから人があふれていた。
それに加えて、あまりにも広い会場にあまりにも多くのメーカーがひしめき合ってクルマを展示してあるから、せかされるように次へ次へと進まなければならなかったというのが精神的理由だ。
そんな中でも、思わず足を止めてしまったのがボーズのブースだった。なんと、アメリカでももうその姿を見ることはまれになってしまった「キャデラック・セビル」が最新の「キャデラックXTS」と並べられていたのだ。セビルは1985年型だ。
1950年代のロールス・ロイスやデイムラーなどのレザーエッジスタイルをテール部分に大胆に採り入れたセビルのスタイリングは当時のGMのデザインディレクター、ビル・ミッチェルの古き良き英国スタイルへの憧憬(しょうけい)そのものだ。
このセビルのデビューから十数年を過ぎた1990年代中盤になってアメリカ車にはレトロフューチャーデザインが流行することになるのだが、セビルは早過ぎたのだ。
早過ぎたのはスタイリングだけでなく、メカニズムも当時の常識を超えたものだった。5.7リッターのV8ディーゼルエンジンを縦置きし、前輪を駆動していた。インテリアも時代を先取りしていて、デジタル表示を最大限に活用していた。さらに画期的だったのは、初めてボーズと共同開発したセビル専用のカーオーディオヘッドユニットとアンプ、スピーカーが組み込まれていたことだ。
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専用設計・工場装着を貫く
ボーズが上海モーターショーにセビルとXTSを展示したのは、ボーズとキャデラックのコラボレーションが今年で30周年を迎えたのを祝うためだった。壁には大きな文字で「共同追求」と記され、説得力を増している。
「それまでボーズにはホームオーディオの経験はあってもカーオーディオの経験がありませんでした」(ボーズ・オートモーティブ・チャイナ、ゼネラルマネジャーのジョン・マー氏)
実際には、ボーズはそれ以前にカーオーディオの経験があった。アフターマーケット用のカーステレオを販売していたのである。
「でも、それらは売れましたが、ユーザーが正しい取り付け方をしていなかったりして、こちらが想定したクオリティーの音楽再生をしていないものがありました」(マー氏)
そうした使用例にボーズの創業者でMIT(マサチューセッツ工科大学)教授のアマー・G・ボーズ博士は悩まされていた。
「『ユーザーや販売店任せにしてしまうのではなく、われわれが考えるキチンとした方法で取り付けることはできないだろうか』と考えるようになりました」
その答えは、完璧を期することの中にあった。完璧とは、アフターマーケットでの販売をやめ、自動車メーカーと協働し、新車の開発時点から専用設計を施したカーオーディオシステムを開発することだった。
この開発方針こそが、30年前から今日まで続くボーズのカーオーディオの基本指針となっている。
ボーズ博士は当時のMITの学長ジェローム・ウェスナー博士に相談した。学長はGMの副社長を紹介してくれ、ボーズとGMの共同開発が始まり、その第1弾が1983年のキャデラック・セビルと「エルドラド」、「ビュイック・リビエラ」「オールズモビル・トロナード」の4車種に組み込まれた。そこから30年が経過し、現在、ボーズと共同開発し、サウンドシステムを提供している自動車ブランドは15以上にのぼる。
デジタル技術が流れを変えた
ボーズのアプローチはシンプルだ。新車の開発段階から参加し、ボディーのどこにスピーカーやアンプなどを配すればよいのかトライアル・アンド・エラーを繰り返して探っていきながら、独自の音響理論にもとづいたチューニング技術や音響設計によって最終的にそのクルマにとってのベストのサウンドを作り出していく。
最近のクルマはボディーの内側にさまざまなものが存在しているのでオーディオに割ける空間が限られてきていたりするが、協働することでクルマ側からもオーディオ側からもベストな解決に少しでも近づけることができる。
また、ホームオーディオと比較して圧倒的に狭い空間で音楽を聴かなければならないというカーオーディオの宿命的弱点を逆手に解釈して、再生される条件が一定であることから音響設計を推進している。
「専用設計することで、再生されたサウンドがユーザーの耳に届くまでをわれわれは保証し、コントロールすることができます」
30年間にボーズはさまざまな革新をカーオーディオにもたらしたが、最も大きなものはアナログからデジタルへの変換だったとマー氏は言う。
「1997年にアンプ部分の回路をそれまでのアナログからデジタルに変更しました。デジタル化することによって、サウンドを漏らさずデータに変換し、圧倒的な高速で処理することができました。デジタル変換なくしては、サウンドシステムは始まりません」
ボーズサウンドシステムの代表的技術である「オーディオパイロット」は、クルマの速度と外部から侵入するノイズを車内のマイクでモニターし、音楽が常に同じように聞こえるように修正するものだが、これなどデジタルなくしては進化は不可能だろう。
ブースでセビルとXTSのカーオーディオを比較して試聴すると、もちろん新旧の差はあるのだが、セビルの温かく柔らかな音に驚かされた。これなら当時のユーザーも、さぞかし驚かされたことだろう。
最新のXTSからは、スピーカーを14個搭載する最新の「スタジオ・サラウンドシステム」によってフロントウィンドウの向こう側にオーケストラやライブハウスが存在しているかのような広がりをもって音楽が迫ってくる。ブースでも展示されていたホームオーディオ用サウンドシステムを前にしているようだ。このサウンドを聴きながらXTSを運転したら、窓の外の景色はどのように目に映るのだろうか。
(文=金子浩久/写真=ボーズ・オートモーティブ)

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