アウディA3スポーツバック1.4 TFSI(FF/7AT)/1.8 TFSIクワトロ(4WD/6AT)
エゴイストの妖しい魅力 2013.10.10 試乗記 アウディのプレミアムコンパクト「A3」がフルモデルチェンジして3代目となった。フォルクスワーゲングループの新プラットフォーム「MQB」を採用した新型は、どのような走りを見せるのか。乗ってビックリ
なにが悲しくて、299万円で手に入る「ゴルフTSIハイライン」と同じパワートレイン……、いや、ゴルフのハイラインのエンジンは140psでACT(アクティブシリンダーマネジメント)なる可変シリンダーシステムがついている。「A3」でそれと同等のエンジンを手に入れるにはもう50万円ほど必要だ。
もう一回繰り返しますが、なにが悲しゅうて、同じ中身でブランド違いのクルマに50万円近い、正確には48万円ものカネを余分に払うのか? ゴルフでいいではないか。いいどころか、ドイツの国民車のゴルフのマークVIIはメチャクチャすばらしい。いったいきみはなんだってアウディA3が欲しいのか? おまえはブランドの奴隷か? さもなくばフォルクスワーゲン帝国の回し者? ほら、聴こえてきはしまいか、ベイダー卿のテーマ曲が。♪ちゃんちゃんちゃんちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃん、ちゃんちゃんちゃんちゃちゃちゃちゃ。コーホー、コーホー。
しかるに、乗ってビックリ。走りだしてたまげる。これはメチャクチャいいクルマだ! 日本に上陸したのはゴルフVIIの方が少々早かったけれど、本国でのデビューはA3マークIIIの方が先だ。つまり、フォルクスワーゲン帝国が周到に用意したMQB(横置きプラットフォーム戦略)の嚆矢(こうし)は、ゴルフではなくてA3だったのだ。アイム・ユア・ファーザー! ノオオオオオオッ! というくらいの衝撃ではあるまいか。
軽量化技術のたまもの
走りだしてたまげたのは、新型A3の一番安いモデル、122psの「1.4 TFSI」である。それにしたって308万円で、ゴルフのハイラインより9万円も高い。おまけにパワーは劣る。可変シリンダー機構もついていない。それでなにがいいのか?
軽快感です。先代比で60kg軽い。ボディーは若干大型化しているのに。実のところ、1320kgという車重は、ゴルフのハイラインと同一である。さすがMQBのブラザーだ。ところが、である。御殿場の“帝国軍試乗会基地”に、新旧のエンジンフードが捕虜になったハン・ソロ船長のように上からつるされていた。そして、新旧の重さをみずからの手で比べることを、帝国軍は推奨するのだった。
かようにされて、黙っている私ではない。彼らの挑戦を受けて立った。なるほど、先代のフードはスチール製で重く、持ち上げることができないほどであった。対して、新型のそれは、まあ、軽い。ビックリしました。これは「アウディウルトラ」と呼ばれる軽量化技術によって、アルミでできているんですねぇ。と淀川長治になっちゃうほど軽い。フロントフェンダーもアルミ製ということで、前後重量配分は車検証によると、前760kg:後ろ560kg。つまり58:42と、通常60:40のフツウのFFよりもフロントが若干軽いのだ。ちなみにオールスチールのゴルフTSIハイラインは、810kg:510kgで、すなわち61:39。A3はゴルフ比、前輪荷重が50kgも軽い。もちろんFFの場合、トラクションうんぬんの問題があるので、軽ければいいというものでもない。
1.4はすがすがしい
そういうわけで、アウディA3の1.4 TFSIは、最高出力122psにすぎないのだけれど、ドライビングフィールは軽快なのだ。ステアリングが軽いことも多分に影響している。実はそれほど速くはないけれど、十分気持ちよく走る。なにより乗り心地に軽快感がある。タイヤサイズが205/55R16と控えめで、これがバネ下を軽くしてもいる。バネ下の軽さは乗り心地に効く。ストローク感があって、なんともすがすがしい。
もうひとつゴルフとの大きな違いは着座位置である。着座位置が高いことの美点もあるけれど、低いことの美点もある。低いとスポーツカーみたいで、独特のスポーティヴネスがある。ホイールベースはゴルフと同じ2635mm。全高はじつのところ、ゴルフと10mmしか違わない。なので前席居住空間はけっして狭くない。ルーフラインがクーペルックのため、後席のヘッドルームは若干狭い。
フロントの軽さと重心の位置の低さによって、新型アウディA3はゴルフよりアンダーステアが控えめで、よりスイスイ走る感がある。後席住人に自分がなることは想定していない。他人のことなんぞ気にしない、ゴルフ乗りよりエゴイスト向けがA3なのだ。そして、クルマはエゴイスト向きであればあるほど、妖しい魅力を放つ。
ゴルフとA3のお値段の違いは、ようするに官能の部分である。豆腐の木綿と絹ごしの違いではない。あれは値段が同じだ。同じシルク100%でも、カシミヤになるのがA3なのである。カシミヤはウールですけど、そういうことである。
1.8は素直な四駆
3代目A3の日本仕様は、5ドアのスポーツバックのみで、パワートレインによって3つのグレードがある。1.4 TFSIが入門用で308万円。いままで試乗インプレッションを書いてきたのはこの入門用だ。前述したように最高出力は122psぽっきりで、可変シリンダー機構はつかない。ホントにゴルフ ハイラインと同じパワートレインを所望する人は、「1.4 TFSI with COD(シリンダーオンデマンド)」、前述したように347万円用立てる必要がある。ただし、この140psのwith CODは11月の上陸で、今回は試乗していない。さらにその上に、「1.8 TFSIクワトロ」、393万円が用意されている。これには乗ることができた。
たいへん素直な4WDである。1.8リッター直4ターボは、最高出力180ps、最大トルク28.6kgmを発生する。けれど、車重が140kgも重い。山道だと、低速トルクがやや不足気味に感じる。1.4 TFSIが7段Sトロニックであるのに対して、1.8は6段になる。ギア比の関係もあるだろう。期待ほどには速くない。とはいえ、期待というのは人によって、あるいは日によって変わったりする。一度、期待がはずれると、人間には修正能力がある。つまり、おおむね不満のない速さを持っている。にしても、雪国やウインタースポーツが趣味の人は別にして、1.4 TFSIで十分楽しい。
車内にWi-Fi機能が装着できる、ということはたいへんめでたい。日本初である。いかなる仕組みであるか、実のところ、筆者は詳(つまび)らかではない。30万円のオプションのMMI(マルチメディアインターフェイス)のナビゲーションシステムを選ぶと、Wi-Fiホットスポットもついてきて、車載の7インチディスプレイに天気予報やら近所のガソリンスタンドの石油価格やらニュースやら駐車場やら飛行機の発着案内やらを気軽に検索できる。Wi-Fiには8台の端末をつなぐことも可能だそうだ。
いったいこういうものが必要なのだろうか……。自動車とは、自分の好きなときに好きなところへ移動できる、自由を享受するための乗り物ではなかったか。そんなに仕事をして、いったいどうしようというのだ? もちろん私は自分のいってることが時代遅れであると自覚している。21世紀にカンパイである。
(文=今尾直樹/写真=峰 昌宏)
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テスト車のデータ
アウディA3スポーツバック1.4 TFSI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4325×1785×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最大出力:122ps(90kW)/5000-6000rpm
最大トルク:20.4kgm(200Nm)/1400-4000rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91W(後)205/55R16 91W(ダンロップSPORT MAXX RT)
燃費:19.5km/リッター(JC08モード)
価格:308万円/テスト車=378万円
オプション装備:コンビニエンスパッケージ<アウディ パーキングシステム(フロント/リア)+リアビューカメラ+アドバンストキーシステム>(21万円)/MMIナビゲーションシステム(30万円)/アダプティブクルーズコントロール(アウディ ブレーキガード機能付き)(8万円)/バング&オルフセン サウンドシステム(11万円)
テスト車の走行距離:1203km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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アウディA3スポーツバック1.8 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4325×1785×1450mm
ホイールベース:2635mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最大出力:180ps(132kW)/4500-6200rpm
最大トルク:28.6kgm(280Nm)/1350-4500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91Y(後)225/45R17 91Y(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:14.8km/リッター(JC08モード)
価格:393万円/テスト車=497万5000円
オプション装備:オプションカラー<メタリック/パールエフェクト>(6万5000円)コンビニエンスパッケージ<アウディ パーキングシステム(フロント/リア)+リアビューカメラ+アドバンストキーシステム>(21万円)/レザーパッケージ<ミラノ>(28万円)/MMIナビゲーションシステム(30万円)/アダプティブクルーズコントロール(アウディ ブレーキガード機能付き)(8万円)/バング&オルフセン サウンドシステム(11万円)
テスト車の走行距離:6106km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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